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愛すべき甘噛み空間

ホテルってどんな場所?ときかれたら、わたしは迷わず「愛すべき甘噛み空間」と答えるわ。

わたしね、とっても猫が好きなの。2匹の猫がじゃれ合う姿を見ていると、片方の猫が相手の急所ともいえる喉元に牙を立て「甘噛み」しているの。これって不思議だと思わない?猫って否定ができないから、相手の急所を弱く噛むことで「わたしは噛まないよ」って相手に伝えているの。噛まれている方はきっと戸惑うよね、だって噛んでるんだから。でもその姿を見ているとなんだか愛おしくなるの。おそらく噛まれている猫もきっと、戸惑いの先に愛を感じとっていると思う。

すべてのコミュニケーションの根底にはね、この甘噛みのようなことが常に起こっている。それが突出しているのがホテルだと思う。それはホテルがセキュリティの問題をどこよりも深く考えている証拠でもあるの。

それは空間的にも表れている。パブリックな場所のなかにプライベートな空間がある、別の言い方をすれば、警戒すべき空間のなかに安心できる場所が確保されている。やがて警戒は安心へと移行していく。分かってもらえるかな、この2重性って甘噛みのことだと思わない?警戒と安心が重なりあった空間で過ごす時間は、ある意味で甘噛みされていることと同じことだよね。ここにホテル特有の、家とは少し違った「居心地の良さ」が隠れていると思う。

このことは空間だけではなく、コミュニケーションにおいても同じことが起こっているの。訪れる側からすれば、初めての街でありホテルなんだから、どうしたって警戒心は強くなる。まあ今は随分と平和になったから、警戒とは呼ばずに「トキメキ」と呼ぶのかな。要はね、警戒しながら安心を求めているの。それは迎え入れる側も同じことで、警戒しながらもあなたに安心を届けたいの。ゴールは双方同じで、安心を求めている。そして安心に到達するために警戒を少しずつ解いていく、徐々に、少しずつ、ゆっくりと、優しく。わたしが言いたいことだんだん分かってきたかな?これ甘噛みのことだよね。

ホテルはね、空間とコミュニケーションどちらにおいても甘噛みを余儀なくされる場所。だから国それぞれのマナーやフォームがある。日本で”おもてなし”と呼ばれているものもそのひとつ。わたしはその”おもてなし”をできる限り「緩く・優しく」解きほぐしたい。もちろんマナーやフォームには美学があるわ、だからといってそれに浸るつもりはない。だってそれらは「噛まない」ことを伝えるための道具でしかないのだから。わたしはその先に行きたい。

なんだか熱くなってしまったけど、これがわたしがホテルを愛している理由でもあるし、ホテルの存在価値だと思う。

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