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食産業のパーソナライズは実現するのか?Part2

こんにちは。株式会社MiL 代表の杉岡侑也です。

MiLは、2018年に創業し「the kindest (カインデスト)」というブランドでベビー・キッズフードを展開しています。
まだまだ小さなブランドですが、いつの日か社会に無くてはならない会社になり、多くの社員、ステークホルダーの皆さまに応援いただくようになったときのためにも、MiLの仲間達とともに、私たちのビジネスの裏側にある”想い”を少しずつ書き留めています。


今回は、「食産業のパーソナライズは実現するのか?」の後半です。

前半にあたるPart1では、食産業が消費者ファーストになりにくかった3つの理由のうち、2つについてお話ししました。

簡単に振り返りますと、スーパーやコンビニなどの大手小売で商品を展開するには、資本や実績が少ない企業には参入のハードルが高かったというのが一点目。
老舗屈強食品メーカーにおける「単一の大量生産・価格競争モデル」から抜け出せず、顧客視点の製造モデルに転換できていないというのが二点目です。

今回は、三点目について、考察していきたいと思います。


問題点3:UXデザイン設計が不在の組織

問題点を考える上で、まずは「顧客にパーソナライズした商品・サービスを企画するには何が必要か」を見ていきたいと思います。

最初に必要になるのは、顧客を理解する上での幅広いデータです。
どういう人が、どういう目的で、どんな行動をしているのか。困っていることはどんなことで、何を解決すべきか。

ニーズは、本来的には非常にパーソナルなもので、顧客によってさまざまです。つまり、本当にお客さまを幸せにしようとすると、顧客の成功体験自体が細分化し、それぞれに合わせたUXのデザイン設計をする必要が出てくるわけです。

また、消費する瞬間だけでなく、そのサービスやブランド、プロダクトに出会う前の入り口から出口まで、顧客の一連の体験全体を設計をするUXデザイナーがいて、さらに統括のプロジェクトマネージャーがいる。
これでやっとパーソナライズされた顧客体験の設計準備が整います。
その上で、アウトプットとしてどんな商品を開発し、どんなクリエイティブでコミュニケーションを取るのか…
そんな流れで開発をするから、顧客にパーソナライズされた商品、サービスが開発され、届きうる状態になるのだと思います。

これを、食品業界に当てはめて見ていくと、どうでしょうか。

データについては、購入時に取得できるPOSデータが一般的でしょう。何がいつどこで購入されたかを記録することができ、売れ筋や顧客の購買行動などの分析に役立てられています。
ただ、購入者についてどこまで知ることができるか?という観点で見ると、踏み込んだ情報の取得には限界があります。

140円のペットボトルの麦茶を買った30代の男性Aさんと、同時刻に同じ商品を買った30代のBさんがいたとして、二人の属性やニーズは別であっても情報として読み取れず、データ上同じものとして扱われてしまうわけです。

データが不足している状態では、データの分析も心許ない。
データが揃っており、データアナリストというポストを採用している会社は、食品業界全体を見渡したときに、一体どれほどあるでしょうか?
同様に、商品開発職や、マーケ職、営業職と同じように、顧客体験全体を統括するようなUXデザインを請け負う部署が存在している食品メーカーや小売は、果たして一般的でしょうか?

残念ながらそのような人材や職種を抱えるマインドや、受け入れ体制が整っているとは言い難い状況です。

データが足りない。さらに、データを解析するリソースがない。そして、顧客体験全般を意識した商品作りをする体制がない。

サービスのUXをパーソナルにあわせて実装するための土台が抜け落ちている。まさにこの点が、今の食品業界の組織における、根本的な問題点なのだと思います。


解決の糸口は「ブランド」と「販路」である。

Part1を含め、ここまで3つの問題点を挙げてきました。

繰り返しになりますが、パーソナライズ化には、多品種・小ロットが基本です。そして多くの場合、製造量が下がる=製造コストが上がり、結果、販売価格がどうしても高くなってしまいます。

その価格の壁を乗り越えられるのは、ブランド価値と販路だと私は考えています。

ブランドとは、ざっくり言うと「認知×信頼」の積み重ねで作られるもの。
また、ブランドができている状態というのは、ポジションが明確であり、認知されており、同様の商品やサービスとは異なる顧客体験(ここ超大事!)を実感してもらえている状態

この状態を設計するには、顧客体験に投資する源泉が必要です。

既存のサプライチェーンでは、認知の拡大には寄与しますが、どうしてもメーカーの利益は抑えられてしまいますから、顧客体験に投資する余力があるとは言い難い。結果として、「消費(購入)」の一点に全力投球する形になってしまう。

でも本来、「消費」はあくまでも、食体験の中における「点」でしかない。おいしさや安全性も、体験のひとつで、それが全てではありません。

もっと手前から食体験は始まっています。
きっかけがあり、調べ、比較する。購入し、届くまでワクワクし、おいしく食べる楽しみがあり、食べた後には友達に自慢したり共有する喜びがある。

このように、「食体験」というのは、食べるということを基点として、前後に広がっているものであり、その全体を顧客体験として設計すべきなのです。
そしてその先に、他社とは違う思想がもたらす特別な顧客体験が実現し、結果個別のブランドとして認知され、信頼が生まれていくのだと考えています。

自社で販路を持つということも、この顧客体験への投資と密接に関わっています。

顧客に直接販売ができるようになると、卸の販路とは異なる利益構造になるため、後者に比べて原価以外の費用が少なくなります。
ただ、そこで利益を確保するのではなく、生まれた粗利から、顧客体験そのものへの投資の源泉として活用し初めて特別な体験が実現する。
モノだけでなく、体験をお届けするための投資ができないことには、結果的に「ちょっと知られている」「ポジションが特殊」というレベルでとどまり、ブランドの確立とまでは言えないと思います。

粗利が確保できないと、組織への投資もできないわけですから、エンジニアやUXデザイナーの採用をすることも難しく、構造はなかなか変わらない。
だからこそ、小売から脱却し、自分たちで販路を持ち、多品種・小ロットの商品作りをやろうというマインドをもった上で、しっかりと組織に投資する。
利益を出すよう努めるのは当たり前だが、顧客体験に投資をするためにも、自社でお客さまと繋がり、構造を変えていくことが必要なのだと、改めて思います。


最後に

パーソナライズの第一歩は、データアセット、つまり価値のあるデジタルデータの取得だと思います。顧客のことを知らない状態では、パーソナライズな設計はできません。

どれだけのデータを取得し、どれだけその人を可視化できるかが、非常に重要になってきます。

スマホが当たり前になり、Apple Watchのような、自分のバイタルデータを可視化してくれるアイテムも身近になりました。
今や、身体中に200個以上のIoTをつけて暮らすようになると言われていますが、自分たちのバイタルデータやDNAなど、あらゆるものがより可視化されるようになる未来に向けて、社会は猛烈なスピードで準備を進めています。

食事や生活習慣、健康状態について、「私のことを、私以上に知っている第三者」が当たり前に存在する時代が、もう、すぐそこまで来ているのです。

先ほど140円の同じ麦茶を購入したAさんとBさんも、大仕事を前に緊張しているAさんと、さっきまでトレーニングをして汗だくであるBさんとでは、当然求めるニーズも異なれば、レコメンドされるべき食体験も全く別であるはず。

食品業界も、そんなパーソナライズが当たり前になる時代に、きちんと向き合っていかなければならないと思います。

私はthe kindestを通し、商品スペックや価格で勝負をしたかったわけではありません。
多様なお客さまのニーズに合わせた、各々にとって本当に必要なものを用意する。そして、求められる情報やコミュニケーションを通して、最高の顧客体験を提供するブランドを作る。そんなチャレンジに、日々全力投球しています。


食産業を消費者ファーストに。引き続き、使命を持って取り組んでいます。

応援よろしくお願いいたします。

杉岡


photo :著作者 Freepik



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