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読書感想文#01|宮本輝さん「オレンジの壺」「森のなかの海」「灯台からの響き」

こんにちは。
今日は最近読んだ宮本輝さんの3作品に対して、自分なりの感想を記します。
出来る限り、ネタバレしないように配慮したつもりですが、「あっ、、これはストーリーが分かってしまうのでは」との予感がしたら、読み飛ばしていただけますと幸いです。
※すべて、あくまでも個人の感想です。その点、お含みおきください。



1.オレンジの壺(上)(下)

結局、オレンジの壺が何を示すのか、ふんわりとしか掴めなかった印象でした。
(決して作品を否定しているわけではありません。私自身の問題。)

読み進める上で、登場人物一覧がついていたらいいのになあ、と何度思ったことでしょうか。
というのも、あらすじにもある通り、主人公・佐和子は祖父の軌跡をたどるためにパリ、そしてアスワンへ向かい、祖父と関わりのあった人々に会います。
進むにつれて、次第に核心となるような人々に会うのですが、その間には複数の人物を挟みます。(そりゃあ、いきなりポンっと重要人物に会えたら面白くないですよね。)
その人物たちの関係性と外国人の名前、ついでに呼ばれ方が何パターンかあって、誰がどの人なのかを把握しながら読み進めるのに若干手こずったから、だから登場人物一覧があったらよかった。

読み直すときは、表紙の裏に大きめは付箋を貼って、そこに自分で登場人物とその相関図を書くぞ、と心の中で決意。

主人公・佐和子の祖父が生きた時代は、1900年代前半、すなわち戦争の真っただ中。
ヨーロッパの地で、日本人の視点でみる大戦のゆくえは、日本人が教科書でも学ぶものとは一味ちがうような印象も受けました。
平和ボケ日本で生きている私には、戦争について何も語れることはありません。当時を生きた一人一人の、取るに足らないような小さな苦しみ、怒り、憎しみ、眉間にしわが寄るような感情が、都市、国レベルの規模に絡まり合いながら膨れ上がったもの、それが戦争なのでしょうか。

最後にすっきりはしなかったけれど、また読み直して違う感想が出てきたら追記します。


2.森のなかの海(上)(下)

今回、感想を残す3作の中で一番好きです。
なぜならば、登場人物それぞれの成長が分かりやすいから。

主人公・希美子の夫は、先ほどの「オレンジの壺」の主人公の夫同様に評価されにくい人物に読めるのですが、バツイチの私目線では、
”自信をもって!!あなたは全然悪くないの!”
なんて応援したくなってしまうものです。

この作品は阪神淡路大震災が起きるところから始まります。
地震の後、夫の裏切りから夫婦関係にひびが入ったことで、主人公・希美子は、とある人物から譲り受けた飛騨の山奥の大きなお屋敷に住み、自分の息子たちのみならず、地震で行き場のなくなった少女たちを育てます。

その多感な子どもたちと主人公が暮らしていく中で、非常に良い相談役として登場する、主人公・希美子の父親と姉。

それぞれが、ちゃんと人間として変わっていく、成長していく様子がはっきり分かるので気持ちがいい。

もう一つ、ストーリーの柱に、お屋敷に埋められた骨壺の謎に迫る部分があります。
誰もが感じる正解ではなかったとしても、あなたが正解だと思って取った行動は、尊いし、深いし、温かい。
骨壺の謎が少しずつ明らかになっていくにつれて、そう思いました。

先ほどの「オレンジの壺」にも共通する、私が両作品で好きな点は、主人公がお金に困っていない、いいところのお嬢さんだということ。笑
変に擦れてないし、ちゃんと人を頼った方が良い方向に進むこともわきまえていて、ひねくれていない。
そこが、個人的には好きです。安心してみていられる、という感覚かもしれません。


3.灯台からの響き

この作品は今回感想を残す上記2作品からはぎゅんと年代が近付き2019年から連載され、その後刊行されたもの。
スマホもあるし、LINEもある、グーグルマップもあれば、飛行機もホテルも数タップで予約できちゃう。

あらすじにもあるように、急病で亡くなった妻の知られざる過去を追う、というのが柱ですが、そこは私にはあまり刺さらなかった、というのが本音です。

それよりも、主人公・康平が友人に説教されてとにかく本を読んでいたこと、ご近所さんといい距離感で関わり合っているところ、旅に出て灯台を回ることで、息子娘と交流を持つこと、妻が他界したあと閉めていた中華そば屋を再開しようと心が動いていくところの方が私の中には残った気がします。

お父さんって人は不器用なのね、というのが良くも悪くも出ていてほっこりします。

上記にも触れたとおり、主人公がご近所さんである友人に、中華そばのことしか語れないお前は話がつまらない、とにかく本を読め、ジャンルは何でもいいから読め、雑学を詰めこめ、優れた書物を読み続ける以外に人間が成長する方法はない、と怒られる場面があります。

これには私も雷を打たれた衝撃で、今年はたくさん本を読もう、と決意したのでした。

話は逸(そ)れますが、私は20代のころ、本を読むのが苦手でした。
子どもの時は絵本だったり、児童書だったり、図書館から借りてきた本を玄関に座り込んで読むくらいに好きだったのに、いつのまにか、苦手意識を感じるようになりました。
字を追っているはずが違うことを考えてしまい、気が付いたら文章から意識が外れていて、何を読んでいたのか分からなくなる。
仕方がないので、少し戻る(意識があって読んだ記憶がある箇所まで戻る)といったことを繰り返しているうちに、嫌になってきたのです。

原因は、大学院生だった頃、小難しい基本書を大量に読まなければならず、難しくてよくわからないものだから、つい気が散ってしまい、前述のような負のスパイラルに陥っていたこと。

動画が娯楽のメインみたいな時代になったことも相まって、「読書は苦手です」と謎に威張っていましたが、32歳になって急にまた活字にはまり始めました。

たまたま手にした小説が面白かったことが幸いしたのか、スマホばっかり見ていることに無自覚にも飽きていたのか、本を読むことへの心地よさを思い出して少しずつ本を集めるようになりました。(2024年の夏はプルースト「失われた時を求めて」をなんとか完走。抄本版でチートしましたが…)

そして気が付いた、自分の「雑学」の無さ。
「オレンジの壺」でストーリーの基礎となる世界大戦については遠い受験勉強で覚えた程度の歴史知識しかないことや、「灯台からの響き」で多々出てくる灯台がある地名も知らないし、描写される日本の海岸に沿う地形の理解もあやしい。

主人公・康平ではないけれど、私の話は面白くないかもしれない。
雑学が足りていないかもしれない、と痛感したのでした。

宮本輝さんの本と出会ったきっかけは、記憶があいまいですが、たしか実家に宮本輝さんの本がいくつかあって、母親が好きだったようです。いくつか手に取って、読んで、私に馴染んだ気がするけれど、おそらくすっかり忘れているので、また読んでみます。
(母親も、母方の祖父も、すごく活字狂。身体の具合が悪くなると、ベッドやソファに横になって、本や週刊誌、新聞をずっと読んで落ち着かせようとする人たち。)


…「テルニスト」(宮本輝さんのファンの呼称)を目指してみようかな。


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