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#4 完璧です。(富士山御殿場口登山道新五合目: 人間交差点2021)

 下山してきた数名の中に彼はいた。単独の様子。鳥居をくぐると山頂方向に向きを変え一礼をして、鳥居をバックにスマホでパチリ。「お疲れ様」と労をねぎらうと、こちらを見てニコリ。20mほど右手にあるバス停に向かい時間表を見ながら電話をしてる。一言・二言話しただけで通話は終わったようだ。すぐにスマホをポケットに仕舞い、こちらにやってきた。「トイレはどこですか?」「ここを40mほど下がった左側です」と指さしながら答える。
 
5分ほどして彼は私たちの勤務するテントの前に現れた。「先ほどはありがとう」と礼を言った。上下揃いの登山服・丸つばの登山帽にヘッドランプ、眼には偏光グラス、登山靴と小石防止の足首巻き、両手に手袋、トレッキングポール2本、背負っているリュックもカバーが掛けられしっかりしている。完璧な服装と装具だ。
 
「完璧ですね!」と褒めると、「はい、万全の準備をしてきましたから」と彼。そして
「富士登山にあたって、ネット・参考書・案内書を読んで登山計画を作り、1000mほどの山に8回登って体を鍛えました。登山計画では、2時間ごとの自己位置を想定し、ご来光を山頂で迎えられる山小屋を予約し、計画通り登山することができました。2時間ごとに家族に自己位置を電話連絡し、連絡がない場合は警察に連絡するよう家族に言ってあります」続けて「リュックの中には、雨具・防寒具・下着・食料・予備の水・食料等を入れてあります」などなど、彼の富士登山にかける熱い思いを拝聴した。
今年3月に亡くなられたバルセロナオリンピック柔道71Kg級金メダリスト古賀稔彦氏の豪快な背負いに投げ飛ばされた感じだ。「参った。恐れ入りました」である。
 
ほどなく「水が塚行き」のバスがやってくると、「では失礼します」と彼はバスの人となった。バスを見送ると「完璧な人だね」「番頭さんにすると経営者は楽だね」と感想をそれぞれに漏らしたが、隣にいて彼の話を黙って聞いていた独身の鮎沢さんが「でも、毎日となると・・・息苦しくて・・・・・私は、一緒に生活したくないね」とポツリ。
 
完璧さんに幸あれ

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