#7 山ガール2021(富士山御殿場口登山道新五合目: 人間交差点2021)
朝8時を過ぎると、山頂でご来光を拝んだ登山者が、御殿場登山道入口の鳥居の下へ下山してくる。一様に鳥居の前で立ち止まり、山頂方向に一礼をして、足早に駐車場方向へ向かう者、記念撮影するもの、バス停に向かう者、まさに三々五々の感がする。
そんな中、一人の山ガールが目に留まった。バス停で時刻表と腕時計を見比べていた彼女は、何か納得した様子でわれわれのテントに向かってきた。「タクシーを呼ぶことはできませんか?」といった。ほんの5分くらい前に同様の質問があり、電話番号を伝えると「混んでいるので1時間以上かかる」との返答を聞いていたので、その旨を伝え、「バスは50分で来ますよ。そこにトレイルステーションがあります。御殿場市の紹介パンフレットもたくさんあるので、バスが来るまで時間つぶしをして待ったらいかがでしょう」と指さしながら案内した。「そうね。いい案だわ。ありがとう」とトレイルステーションの方へ足取りも軽く歩いて行った。
30分も経過したころ、先ほどの山ガールがやってきた。「ありがとう。色々見てきたわ」と礼を延べ「まだ20分ほどあるわね」呟いた。「失礼ですが、その服装から見て相当いろいろな山に登られていますね」と尋ねた。「あら、お解りになりますか?山が大好きで、若い頃からほうぼうの山に登っていますわ。実は、富士山を望むことができる指定された36の山に期限までに登頂するサイトがあって、今日がその期限の最終日なんです」と言いながらトレッキングポールを脇に置き、グローブを外して、ウエアーのポケットからスマホを取り出し、サイトを開くと画面を拡大しながらひとりひとりに丁寧に説明してくれた。「最後に富士山に登って今日ですべて達成しましたの」3名が口々に「おめでとうございます」というと「そして、今日が誕生日なんですのよ」
一同「それはそれは、重ねておめでとうございます」というと、誰からともなく皆が拍手をしていた。
バスが苦しそうなエンジン音を響かせて近づいてくるのがわかると「そうそう、タクシー代が浮きましたので、もう¥1000円寄付させていただきますわ」と言って募金箱に入れ、「それでは、大変お世話になりました。失礼いたします。」とバス停に向かった。20人ほどの登山者とともに山ガールは手を振りながらバスに乗った。バスは走り出すとすぐ木々の陰に入り見えなくなった。
「行っちゃった」「素敵な山ガールだったねえ」「最高の山ガールだ」とそれぞれが褒めちぎる。そして最後に板妻さんの一言で締めくくられた。
「名前も何も知らないけれど、また会いたいね」