あなたのものがたり8
ハシモトくんのものがたり ハシモトくんとキムラさんとヨシイくん
…王さんは苦手や…
ミュータントの話で盛り上がった、みんなの定例会の帰り道。となりで楽し気に話しかけるヨシイ君を見て、ハシモト君は思った。その少し後ろで、屈託なく笑うキムラさんがいる。
俺は、一番やなかったんか…
ハシモト君は、県内で一番の進学校へ進学した。キムラさんを除く、11人が学び育った、中学校では1番の成績だった。テニス部に所属し、キャプテンを務め、生徒会長にもなった。ルックスにも自信があった。ただ、自分が何か違う、劣等感のようなものを感じ出していた。
王さん…そして、キムラさん。
この二人は、自分よりできる人間だった。
王さんは、ミックスのような彫りの深い顔立ち、大きくてブラウンの瞳、同じく茶色がかった髪を、センター分けしている。身長は優に185センチは超える。見る人見る人を魅了し、だれからも好かれていた。正義感も強く、女性に媚びない男だった。何より、弁が立つ。人を笑わせることにおいて、彼の右に出る者もいなかった。
キムラさんは、高校になってからこの街に引っ越してきた。もともとは大阪に住んでいたが、ナイトウさんたちと同じ団地に引っ越してきた。彼女は京都の名門私立女子高で、特別進学コースに進学した。どうやら、彼女が望めば、自分ではなくキムラさんが自分の高校に入学し、自分はタナカさんやカンコとおなじ、2番手の進学校へ進むことになることになっていたらしい。
つまり、彼女は自分より成績が良かった。
キムラさんは、魅力的だった。インド人のような大きくて丸い眼をしていた。常に冷静で、思慮深く、それでいて屈託なく笑う。優しく、強い女性だった。自分と違って、冷たくなかった。
隣でキムラさんが爆笑をしている声に、目を向けると、キムラさんに顔を向けている王さんの後ろ頭が見える。
「あははははは!!やめ…あーーはっはっは!」
キムラさんが、おなかを抱えてうずくまる。
なにやってんのん?
振り返ると、王さんが変顔をしていた。
舌を出し、左にねじくれさせ、目は白目。頬の筋肉は弛緩し、知性のかけらも感じない。
ハシモトくんは反応に困った。ただ、変な顔があるだけなのに、どうしてキムラさんはこんなに笑っているのだろう。何が面白いんだろう。
「みてみて、ハシモトくん。俺、変な顔の仕方見つけてん。めっちゃへんなかおやろ?な!?な!?」
ええ?ああ…
「あー、収まった。反則やわそれ。…はは。」
キムラさんが、ハンカチで涙を拭いている。
「なんやねんハシモとくんー。めっちゃおもろいやんこれ。」
再び変な顔をした。この男にプライドというものはないのだろうか…。
「ぶぁっはっはっは!やめてやめ…あーっはっはっは!暴力反対!!」
キムラさんの方を王さんが見ると、再びキムラさんが頽れた。
「なんでわからんかなー」
真顔に戻り、首をかしげて王さんが呟いた。
突然、キムラさんの目が鋭くなった。
こぶしを握り、無言で王さんを殴りつけた。
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