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あなたのものがたり2
心はみにくいが美しい手と顔をした女だ このわたしのところに来れば清い心で付き合えるよ・・・
わたしのものがたり ジース
これは、わたしの、ものがたり。
許せない…
あの笑顔…誰よりも優しかった、あの笑顔は、もう、ない。
あざ笑う、人を見下した、あの笑顔…許せない…
どうして『30分』だけなのよォオオオ~~~~~~~ッ!!
あいつは、私を、裏切った。
思い出した。そう、あいつは裏切った。
心の底からただ愛し、ただ愛した私のこころを、裏切った。
だから復讐するの…地の果てまで追い詰めて、コロシテヤル…
『仕事』なんかより『愛』の方が重いってことわからないの
「きみの名前は、『テン』ですよ。対変異体特殊部隊『C.A.R.Ds』。Conquerer of Annihilated Race's Deserts…”絶滅種族を征服する者のデザート”の、隊員です。」
わたしは、「テン」?
眼の前の、銀髪の男が、言う。
190センチはあろうかという長身。白衣を纒い、その下にはスカイブルーのワイシャツ、グレーのパンツが似合う、年齢不詳の人だ。細い銀縁眼鏡に知性を感じる。薄い唇に、鷲鼻…
…メガネをかけているのに、ハンサムだ。
「わたしを、シエロと呼んでください。私は、変異体研究機関『Cassino(カッシーノ)』所長…かな?まぁ、一人で全部やっている。一人親方でもいいか。」
なにをいっているの?
変わっている…
そのおとこは続ける
おいオメー さっきから うるせえぞ 「ブッ殺す」「ブッ殺す」ってよォ〜〜〜
殺風景な部屋だ。整理されているが、コンクリートがむき出しの、ただの雑居ビル。小さなテーブルにノートパソコン、30インチ程度の大きなディスプレイや、タブレット。様々なガジェットが整然と配置されている。
「君が知っている通り…遺伝子が覚えているはずだよ。この日本には、『ガス』と呼ばれる、人を変異させる気体が発生している。それは、ヒトに取り憑き…ポゼッションと呼ばれる現象だよ…ヒトを、神話に出てくるナニカに替える。例えば、天使…例えば、悪魔。そして、ポゼッションが起こると、ヒトは変異する。これを、ミューテーションと呼ぶ…どうでもいいが。ミューテーションしたナニカは、変異体…ミュータントだ。簡潔に言おう」
簡潔じゃない。
「きみは、ミュータントを消す。それが、きみの仕事だ。」
知っている…何故か知っている…
「ミュータントになると、ヒトは自我を失う。だが、きみは、君たちはというべきだな。失わない。」
知っている…私は、ノルン?ちがう、ニケーになる。わたしは、ニケーというナニカになる。
勝利の女神。フランスの女神だ。
「普段、ヒトは銀製品を身に着けて、ポゼッションを防ぐんだ。だが、幸せか不幸せか、銀製品が身近になければ、ヒトはガスに取り憑かれる…そして、ミューテーションを起こし、ミュータントになる。」
そのミュータントをコロスってこと?
「…そうだ。」
いやだ。
「いやじゃない。そうだろう?」
いやなやつやな…どうせ、「いやなやつではない」とかいうんやろ。
「君のような、勘の良いこどもはきらいだよ」
ウソだ…わらってる…
「うそだよ。ほんとかも?どっちだろう?」
ヒトをバカにしている。
私は、消したい。ミュータントを消したい。相棒が欲しい。なんでもわかる、こころの通じる、相棒。
「1人、君に紹介するよ。『ジョーカー』だ。挨拶してくれるかな?」
「ひ…おはこんばんちは。スズキタロウです。」
いいひとだ。そうおもう。笑顔が優しい。誰よりも、優しい笑顔だ。
スキだ…
あたしは…?あたしは、テン?ニケーのミュータント。C.A.R.Dsのたぶん…
「じゅうばんめ。ぼくは、14番目。よろしく」
いい人だ。
180センチの長身痩躯の痩せこけた、それでいて筋肉質な男の子だ。色白で、切長の目をした薄い唇。面長で、顎が尖っている。冷たい印象を受けそうな顔なのに、いい人だと思う。笑うと、誰よりも優しい笑顔を見せてくれるから。
「C.A.R.Dsは、僕で最後。」
私以外に、エースからキング、そしてジョーカーの、スズキタロウくん。cardsってことは、日本語でトランプのことやろ?
「ご推察の通り。相変わらず。」
あいかわらず?
「なんでもないよ。こっちの話。ほな、けしにいこか。」
うん。
話が通じそう…いい人だ…
先にオレが好きになるから、 向こうも好いてくれる。