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いつかの失恋クリスマス
「ごめんなさい。みくさんから告白されて、とても嬉しかった。けど俺には今、好きな人がいます。本当にごめんなさい」
それは、あと数日でクリスマスという日に起きた出来事。私は、片思いしていた彼に振られてしまった。
告白をしたのは、確か11月頭くらいだった記憶がある。告白する際に、私は手紙を書いて、友人経由で渡してもらった。
返事がなかなか来ないので、正直「無視されたのだろうか」と、すっかり諦めていた。まさか、クリスマスの直前に返事がメールで届いて、おまけに振られるとは。
それから1ヶ月も経たないうちに、彼の知人から「彼、できちゃった結婚したみたい」と言われた。
好きな人というよりも。女、孕ませてるじゃんか。なら、最初からそう言って欲しかった。
こっちは勇気を振り絞って元カレに別れを告げて、告白までしたというのに。けれど結局、それも私の勝手な都合でしかないのだけれども。
クリスマス、またひとりぼっちだ。女友達を誘って、またケンタッキーのチキンを囲んで女子会でもしようかしら。寒さで悴む手をさすりながら、灰色の空を仰ぐ。
◇
彼との出会いは、一年前の秋に開催された合コン。地元のエリート達が集まる合コンへの参加に、私はそわそわする。
彼は、細くてやや筋肉質の体つき。目は細くてちょっぴりタレ目の彼は、周りからも「俳優の金子賢に似てるね」と言われていた。
↑公式サイトより
私も、彼の顔をみるなり「わぁ、かっこいい人。本当に、おひとり様なのだろうか」と思ったほど。
そんな彼は、終始ぶっきらぼうな態度で、口数も少ない。いいなと思う子が、ここにはいなかったのだろうか。それとも。彼に対し「横柄な人だな」と思った私は、そっと嫌悪感を抱く。
◇
その翌年の夏に、私は彼と再会する。再会のきっかけは、結婚式の二次会幹事を任されることになったから。なんと、昨年開催された合コンでカップルが誕生し、結婚することになったのだ。
「ああ、あの態度がでかいイケメンさんも幹事かぁ。仕事してくれるのだろうか……」
正直、彼にはまったく期待していなかった。けれど、それがいざ二次会の幹事を一緒にするとなると、めちゃくちゃノリノリな様子に目を丸くする。
当時の彼は、確か33〜34歳くらいだった記憶がある。ノリノリというより、むしろ子どものようにキャッキャとはしゃいでいた。クールな印象があったけど、少年のような人だったんだ。
彼は無愛想な見た目によらず、楽しいことが好きな人だった。そんな彼の周りの人たちは、いつも楽しそうに笑っていた。
「あの人、寮が一緒なんですけど。本当に部屋が汚いんです。この前部屋に行ったら、ゴミ山の上で寝そべってて。大丈夫かなと思いました」
「○○さん、この前酔っ払ってタクシーに向かってタックルしてたんですよ」
彼の周りの人たちは、楽しそうに彼のエピソードを笑いながら語る。彼は彼で、自分のことを自ら話すことはなかった。
彼は、いつも誰かから自分の話をされる度に、少し照れくさそうに俯いていた。本当は、恥ずかしがり屋なのかも。そんな彼に対し、私は次第と惹かれるようになっていく。
二次会の幹事は、私がマイクを持って話すことも。彼は私が人前で話せるように、何度も練習に付き合ってくれた。そして、二次会当日は後ろに回って、終始サポートをしてくれた。優しくて、面倒見のいい人だった。
「○○さんのことが好きになってしまった」
結婚式を挙げた友人に相談する。当時の私には、すでに彼氏がいた。彼氏とは、デートをしてもお会計はいつも割り勘ばかり。遠出のデートなんて、もってのほか。私のデートに投資するのは、お金がもったいないんだって。
自分の趣味の車には、何百万も投資するのにさ。そんな彼氏に対し、私の気持ちもすっかり冷めていた。
友人からは「彼氏との関係に決着をつけたら、応援はできるけれど……」と言われたので、当時交際していた彼氏に別れを告げた。
すでに関係は冷え切っていたので、彼氏からは「いいよ」と、あっさり言われてしまった。関係の終焉は儚いものだ。
腐れ縁を終わらせたら、善は急げ。私は彼にラブレターを書き、友人に渡してもらった。返事は、クリスマス前に「残念な結果」として私の元に届く。
元彼に対してぞんざいな態度で別れを告げた私に対し、クリスマスの神様はそっぽを向いたのだろうか。
仕方ないとは知りつつも、彼から届いたメールを何度も指でなぞりながら、私はそっと俯く。
◇
数年後。職場に一通の電話が届く。彼だった。奇遇なことに、仕事の関係で彼とやりとりする機会があった。
「みくさん、久しぶり?元気?俺は元気!」
彼の声は、とても意気揚々としていた。まるで私が告白したことも、何もかもすっかり嘘みたいに明るい声に、一瞬たじろく。
そっか。彼は本当に、私のことは何とも思っていなかったんだ。そもそも本当に彼は、私の告白を喜んでくれたのだろうか。一点の曇りもない様子で、何の躊躇もなく話してくる彼に対し、私は戸惑いを隠せない。
震えそうになる声を、ぐっと飲み込んで、私は淡々とした口調で「お元気で何よりです。では○○の件ですが……」と答えた。
窓の外は、あの日のように霞んだ灰色だった。
【完】
こちらの記事は #灯火物語杯 に参加しています。締切ギリギリ、間に合いました!
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