金魚姫
目の前に映るのは、琥珀色の鱗に覆われた下半身の私。
壁の向こうには、妹の早紀がにこにこしながら、ミルクを美味しそうに頬張っている。本来なら、私も早紀の隣で一緒に過ごしていたのかもしれないのに。私が口に出来るのは、泥のような色をした丸い餌のみ。
姉妹でこうも違うなんて、神様は不平等だ。この家の中で、私はできそこないの娘。どうやら私は、ママに一度も抱きしめてもらうこともないまま、生涯を終えることになりそう。
※
長年不妊に苦しんでいた、私のママ。体外受精を何度か失敗したのち、ママは最後の望みをかけて「凍結卵子」を2つ一度に胎内へ戻すことを決意した。
「危険だから、やめましょう」
医師から反対されたにも関わらず、ママは「卵子を2つ一度に戻したら、妊娠できましたという口コミを見たの」と早口で捲し立てた。ママの勢いに、どうやら医師は負けたらしい。
ママは、私たち2人が健全に生まれることを誰よりも望んでいた。ごめんね、ママ。たった20gしかなくて。同じ日に生まれた妹は、3,000gもあったのに。
私は生まれてすぐに、病院の研究室に預けられることになった。そこで私は解剖される予定だったが、医師の好奇心によって私は生かされることとなる。
「この子の下半身は、凝固した状態のため切断せざるを得ない。ただ、脳と心臓は動いている。なら、うちで飼っている金魚の下半身を移植してみてはどうだろうか」
医師の好奇心を満たすべく、私は手術を受けた。お陰様で、私の下半身には琥珀色の尾ひれがついている。
医師は私の手術を終えるなり、ニヤニヤした表情でママにお披露目をした。ママは一瞬たじろいたものの、うるうるとした瞳で私をじっと見て、こう伝えた。
「家に、この子を持ち帰ってもいいですか」
「飼い続ける自信があるなら、別に構いませんけど」
【続く】
文字数:748文字
【あとがき】
こちらの作品は、逆噴射小説大賞2024に応募しています。
長文を前提とした作品の「冒頭」を考えるということで、いかに「引き」が出せるかが重要なのかなと感じました。
過去受賞作品についてのコメント内容も、かなり充実しています。
文学賞的なコンテストでコメントが頂けるところに辿り着くのは至難の業でもありますが。応募してみることで、チャンスを得られるかもしれません。