友利 昴著『オリンピックVS便乗商法: まやかしの知的財産に忖度する社会への警鐘』
我々は「オリンピック」の言葉、文字、そしてロゴマークにどのようなイメージを持っているだろうか?もちろん「オリンピック」といえば、世界中のアスリートの運命をつかさどる競技大会であり、世界各国の国を挙げてのイベントであって、その権威たるや国の威信をも揺るがしかねないものである。しかしながら、オリンピック競技大会を主催する組織である「国際オリンピック委員会(IOC)」は、世界中にあまたある、ひとつの民間組織に過ぎない―――あたかも影絵のスクリーンでは大きく大きく映し出される怪獣のもとの絵が、ほんの小さなレプリカであるかのように、本来以上の姿に見えていることを、本書は教えてくれる。
本書はオリンピック開催にあたって必ず問題となってきた「アンブッシュ・マーケティング(便乗商法)」の意味とその変遷、折々の内容とトラブル、そしてこれから迎える東京オリンピックを盛り上げるための指針を示すものである。IOCが持っている知的財産権(登録商標、著作権、不正競争防止法等で保護されうる権利)に「権利侵害となる」形でもって抵触しない限り、他人が使用しても問題ないはずであるのに、「問題ない」範囲にまでIOC(および大会組織委員会)がストップをかけ、けん制しているという状況がある。著者の友利昴氏は、それを見極め、使えるものにまで「自主規制」する必要はないと提言する。私自身は、友利氏の意見すべてに与するものではない(例えば、著作権法で守られない「アイデア」についてであっても、無関係の他人による利用は可能な限り慎重にすべきだと考える)が、とにもかくにも「オリンピック」に関するものはすべて問題あり、というIOCの姿勢、そして自主規制の在り方にも大いに疑問を感じるし、氏の述べるとおり、「分別」をもってオリンピックを盛り上げる方法を考えるのが理想であろう。
とは言うものの、これだけアンブッシュ・マーケティングがけん制されるニュースが出てくる中で、法的に問題ないとわかっていたとしても、それに対抗する一歩を踏み出すことには、相当勇気がいるはずである。それを鑑みるだに、第6章の展開は見事であった。1964年、オリンピック東京大会準備促進特別委員会に提出された、政府の最終見解は圧巻であった。企業の知財担当者、あるいは広報企画担当者が、友利氏に賛同して上層部を説得する際に、この資料は強力な後ろ盾となると信じている。
なお、氏は第4章で述べる。「・・・一般論として「トラブルを避けるためには、法律上は必ずしも正しくない主張だとしても受け入れた方が無難」と判断するのは、やはりはっきりと不適切だと考える。・・・なんのための法律なんだ。どんな恐怖社会なんだ。・・・」(195-196頁)このジレンマは、企業活動にとって常に起こり得る。オリンピック開催期間にとどまらず、知的財産権のあり方、利用の仕方を考えるときに、本書は心強い一書となることであろう。
最後になるが、こういった強大な影響力を持つ組織の方法に斬り込むという記事や書物が、常にどこでも出版・入手できると、考えない方がいいのではないか。巨額の資本が行き来するイベントを取り仕切る組織にとって、その裏の手を見透かされる方法を握りつぶすのは、簡単なことだろう。その意味からも、この書を書き上げた友利氏とご担当者様、作品社に、最大の賛辞をお送りしたい。
(本記事は2020年1月19日に「アマゾンレビュー」に掲載のものと同じ内容です)
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