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あの部屋【詩】

君と100回セックスしたあの部屋
君のブレザー、私のプリーツスカートは蹴られ皺になった

駅に近いあの部屋
電車の音が窓枠に響いて揺れた

君は手を唇に添え
胎児の様にまるまって眠る
一つの布団にいても
子宮に包まれた君に触れることはできなかった
何時も一人だった
同じ部屋にいても


タバコの灰でさらさらになったベランダにト・ト・トと降り始めの雨が落ちた

いつもよりさらに暗くなったこの町

何でここにいるんだろ
というより
何で裸でないとこの町にいられないんだろ
何をするでもなく布団でぐずぐずする
この布団って
いつ洗ったんだろ

昼下がりの雨はどんどん強まり
もう全てを洗い流してしまいたい
そのまま二人でザアと川へ流される
でもどうせ私は他の地へ流れ着き
溺れ沈んでいくのは君だけ
この町に愛された君だけ


一週間会えないと寂しがるのに
二ヶ月音信不通になるのはなんで
急ににこにこして
迎えに来たりするのはなんで
辻褄も振り切る程の気分の波は
この地に受け継がれる文化なのか

波に溺れながら生きてきた
流され、もがくうちに私は泳ぎがうまくなった
意味を考えないようにして
うまいタイミングで息継ぎをする
今では波に乗れるようになった
捉え
すべる
surf
あてもなくただつるつるすべるだけ
私が波を起こすことは決してない海


長い川が流れる町
本当は私だって沈んでしまいたい
けれど川の幽霊に足を引かれるのは君だけ


私の親が大きな家を建てた頃
君の母親はいなくなった
「むかつくわ」と恨みながら
でも今日だって帰りを待つ3歳の君が
部屋の隅で指を吸ってる


雨で変色した団地は何棟も列なり
一つの世界の様だった
二階にあったあの部屋
いつも薄暗かったあの部屋
何百もの命を抱えた集合住宅は
ごはんと芳香剤の匂いがした


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