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氷にキスして【詩】

あなたは内診台に乗ったことがあるの?と彼女は言った。
ぬるいジェルを塗られ、器具が入ってくる。
画面に子宮を映し出されたことが?
上半身と下半身をカーテンで仕切られたことが?
その時私は二つに割れた。
カーテンの向こうでは医者が大きな目を開けている。

「こわい」
と彼女は言った。
足だけ逃げ出してしまいそう。
ちょっと気持ち悪いですよ、と診察される。気持ち悪い?確かにそう言われればそうとしか言い表せない、ありがとうございましたと台を降りパンツを履くこと!

分かるよ。と言ったら噛まれるだろう。
分からないと言ったらドライヤーが飛んでくる。



眉を下げ静かに微笑んだら僕は代表に選ばれることになった。



僕は彼女をそっとタオルに包み、まるまった背中に頬を付けた。
コツコツと浮き出る背骨を感じ僕は日を映し揺れる海を抱きしめた。



風習に誠心を捧げ僕は回った。
舞台には穴が空き雨は雪になった。
吹雪の中僕を囲む何千もの唇が感動に震えるのを見た。
僕はもう全てが面倒くさくなってしまったのだが、何でこういう時って涙が出ちゃうんだろ。
この花の様に美しい顔は更にいじらしくもう把握できない程愛されてしまうのです。

………………

彼女は悪霊のように静かに座っていた。
ギギギと歯を鳴らし怒りは電気となり空気をチリチリとはじけさせる。
僕は喉が乾き張り付く程妬ましくなった。
あのさ、妬んでいるのは

「ぼくのほうなんだ。」

僕が決して起こせない波。
潮の満ち干き。
季節の移ろい。

君に属するすべて。





夜に伸びるイトスギの
その天辺に一つの結晶が凍った
カチと音が鳴り
呪いは幾何となり法則となった
霜がにょきにょきと生え
辺りは祝福に包まれた
幾筋も垂れる光の糸に指が触れ
僕は性に操作されることになった
風がハープを撫で
橇が空を駆ける
僕は一生性に操作されることになった
あはあはあはあは。



彼女はキレてどっか行った。
一粒のキューブを置いて。

氷にキスして僕は冬の女王になった。僕をカチカチに凍らせていた信仰心は今じわりと結露し水滴が龍のように身体を巡りだした、それがこの血液です。昨日より少し温もり始めた日の光は僕を内側から少しずつ溶かし最後外側は薄いフィルム一枚になる。唇からプツと裂け流れ出しぼくはぺしゃんこになれ。

春よ。

来い。



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