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【官能小説】唇でふさがれるもの
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3年前に書いたものからまず再掲。次回から新作官能小説バンバン書きます。もちろん「真夏の死角」もご期待ください。
ちょっと、短いものも交えたいのです。20万字の小説を書くことよりも、5000文字程度の短い小説を書くほうが明らかに難しいことは、小説をちゃんと書いている人はだれでも知っています。そんな短い官能小説とういのを、なんだか追求してみたくなりました。
小説をちゃんと書き始めた中学、高校の頃にも官能小説書いてました。それも再掲しようかまよっているのですが、多分稚拙なのでリメイクして新作かな。
では、まずは、過去作からでございます。
1.ある習慣
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閑寂なといえば聴こえの良い言葉になるが、夫が出勤した後の、この、どこかで雀の鳴く郊外の小さな一軒家には、毎朝とても静かな時間がやってくる。
この寂しさは、夫をこの家から送り出したあとに訪れる、私の甘美で背徳的な頽廃した快楽の期待から来るものだった。
雨も降っておらず、晴れの日が続いた後にも、朝日の中にはまるで私を咎めるように、ひっそりとした静かな雨が降っていた。
九時過ぎにはいつもの場所に行く。毎日の習慣だ。その前に昨夜の夫との情事の匂いを消す。朝のシャワを浴び、鏡に映る軽く火照った顔にわずかに若さを確認した後、上唇に冷たい口紅をあてて、それを揉むように下唇と合わせる。
唇が小さく回転して混ざりあった後、「よし」とつぶやいてみるのが私の習慣だ。
三十八歳司書……まだ若いと自分を勇気づけるためだ。
それから、駅の裏側の通りにひっそりと建っている公立図書館に行く。高校生の彼氏との待ち合わせだ。
「おはようございます」
図書館の入口で、日本でも有数の進学校の高校生が会釈してくる。人の目があるので、「おはよ」とだけ声をかける。正確には声をかけるのではなく、唇だけで「おはよ」と眼の奥を確かめるように覗きながら、さっき鏡で確かめた唇を動かすのだった。
手を自分の唇にあてて、張りがあることを確認した後、いつもいきなり図書館の地下一階を通り抜けて裏口に行く。
そこには、表玄関で「おはよ」と声をかけたブレザーの制服を着た彼氏が、外側から廻って待っている。
今度は「おはよ」と声にする。
最初は私も「おはようございます」と言っていた。
「でも歳上のおばちゃんなのに、おはようございますは変だよね」
ある朝こう口にした。
おそらく少し悲しそうな顔になっていたと思う。
「ならこうします」
男子高校生は最初の日に、こう言って、「おはよ」の部分だけで、私の唇を塞ぐようになった。それ以来ずっと、「ございます」を言わされずに、胸に手を這わせながら、私のスカートの中に手を入れてきた。
羞恥心をごまかすように「あなたモテるんでしょうね」最初はこう言ってみた。
その私の言葉に、高校生は「はい」と明るく答えた。まったく嫌味でなく、まるで小学生が教室で先生に質問されて答えたときのように、朗らかだった。
「でも、もうニ年間学校には行っていません。ひきこもりです」
その笑顔がとても驚くほど爽やかだったので、そのまま、自然と高校生に下半身を触らせることを、ゆるしました。
ある朝、いつものように裏庭で雀の声を聞きながら…
「こういうの、はじめてなの」
そう聞くと、高校生は「はい」と爽やかにうなずきました。
自分から、雀の鳴く図書館の裏庭でショーツを脱ぎました。
2.ある企み
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まだ幼かった雀の鳴き声が、日々確実に大人の鳴き声になっていくように、高校生の指先は、成熟度を増していった。
最初から指先にぎこちなさがなかったので、「女の人は初めてって、いつか言ったの嘘でしょ」喘ぎ声を必死に抑えながら、ある日こう言ってみた。
「はい」
「どうして嘘をつくの」
私はそう言って、下半身のけぞらせて彼の指先にある自分の本能に身を任せた。
抑えきれない最小限の愉悦のため息を、彼の前髪に吹き付け、快楽の痙攣が止んだ後目を開くと、彼はあの笑顔で笑った。
「女の人を触ったことはあるんです。でもなぜだか」
こう言って言葉を切った後にまた笑った。
「本当にしようとすると、いつもできないんです」
歳上であるという後ろめたさが、子供のいない私の忘れていた母性でかき消された。
スラックスを下ろして、固くなっていたものを唇で塞いだ。
一瞬で果てた。
「大丈夫じゃない」
去年の結婚記念日に夫からもらったハンカチだな。そう思いながら、自分の唇を拭いた後に、彼のそれを包むようにきれいにした。わずかにまた形を取り戻していった。
形を取り戻す輪郭を確かめるようにハンカチで、もう必要がないのに、何度もきれいにした。
完全にきれいにして輪郭を取り戻し終わった後、彼はぎこちなくスラックスを自分で履き直した。
「本気で好きなんです」
「午後から休みを取るから、家にいらっしゃい」
「はい」
私も彼のように笑った。何十年ぶりにそんな笑い方ができた。
3.ある結末
玄関先につれてきた時に、私はわざと彼を玄関先に待たせたまま、自分だけ中に先に入ってドアを締めてチェーンロックを下ろした。。
頭がいいというのは、とても楽しい。
彼は、「こんにちはー」と昼下がりの玄関先で、チャイムを鳴らした。
「あらいらっしゃい」
午前中に情事をしていた彼。さっきまで一緒にここまで歩いてきた彼。あたかも見知らぬ男性が来たかのように、扉を内側から開いた。
唇が塞がれて、背骨が折れるように抱かれた。
私の普段暮らしている家だ。私の家での匂いや、普段図書館ではしない、いろいろな生活臭がしたはずだ。その匂いの中には生活臭を私と作っている、夫への嫉妬もあったかもしれない。図書館では一度もなかったような抱き方で、そのまま玄関口のフローリングに押し倒された。
押し返すと、あっさりと私の体を離した。冷静なこの子が初めて頬を赤くした。
「紅茶淹れるわね」
「はい」
そう言って彼はあの笑顔を取り戻して笑った。
「そう言えば名前をまだ聞いていなかったわね」
「武宏といいます」
「いいお名前ね」
「そう言われます」
あっさり肯定する。育ちの良さというのはそういうものなのだろうなと、彼の襟足が少し長めの上品な髪を愛おしく眺めた。
「なんとおっしゃるんですか」
「智子といいます」
「素敵なお名前じゃないですか」
「頭でっかちの女の名前よ。そういうお世辞が、頭のいい学校の引きこもり高校生っぽいね」
多少意地悪に、私はそう言って紅茶を淹れた。
「そうですか」
そんなこと、ありません。いい名前です。武宏君は二度目はそういう言い方をしない。こちらが、軽い意地悪をしたことを後悔させるような純粋な目で、いつも話を元に戻してしまう。
ソファに横並びで紅茶を飲んだ。
いつそうなるのだろう。
乱暴なのは嫌だな……。
そう思っている間に、武宏君がそっとやさしく胸を触った。
そのとき私にはある考えが浮かんだ。二十年前のセーラー服……。
クローゼットの中に自分でもなぜか分からなかったが、とってあった。
「ちょっと待ってね」
そう言って私は、口紅を落して、セーラー服を着た。意外なことに、そのまま着ることができた。
武宏君は驚いたようだが「きれいです」と笑ってくれた。
「誰かお友達の同年代の子で、武宏君が好きな女の子のこと思い浮かべて」
「はい」
ソファに横たわった。
この子が普通に同年代の女の子とセックスができるようになって欲しい。このままではこの子はやがてだめになる。いつかお別れをしなければいけない。その後押しをするために、私は武宏君の同級生になるんだ。
いつか夢から覚めてね。忘れなくてもいいし、できれば忘れてほしくない。でも、制服を着た同年代の女の子と、普通に付き合えるようになってね。お手伝いさせて。あたしも、あなたのことが本当に好きになってしまったから。
制服がだんだんと脱がされていく。また、おばさんに戻るんだな…。それが心地よかった。セックスの間に、心のなかでさようならの準備をしよう。
「武宏君、あなたは同年代の女の子ときちんとお付き合いしようね」
「もう言わないで。智子さん、僕、いまならできると思う」
うなずいて、目を閉じた。
唇で塞がれるように、私のあそこは優しく塞がれた。
長いようで短かったようだった。でも、目を開けると、それは忘れたくない永遠のような時間だったと思えた。
「好きな子のこと、ちゃんと思い浮かべた」
「はい」
「もう、女の人とできることが分かったんだよ。今度はその子をデートに誘ってみなさいよ」
「はい」
別れの時がきたな…。確信した。いいんだ。そのために家庭の匂いのするここに誘ったんだ。
いままで楽しい時間をありがとう。忘れないよ。
「学校の前に、評判のとんこつラーメンの店があるんです」
何をいい出したんだろう。
「僕、来週から学校に行きますから、帰りに待ち合わせて僕とデートしてください」
私は、多分武宏くんのような笑顔で笑えたと思う。
「まるで高校生のデートじゃないの」
「はい。好きな人を思い浮かべることはありませんでした。僕の目の前の人を、まるで誰かを思い浮かべるように、ぼんやりと見つめていました。僕はあなたが、小さく声を出しながら目をつぶっているあいだ中、ずっとあなたの顔やしぐさをを見つめていました。かわいかったです」
今度は何十年かぶりに、私の頬が赤くなる番だった。
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雀が庭で、他人ごとのように、朗らかに鳴いた。
End…