【長編小説】真夏の死角 1灼熱の蜃気楼
土埃が蜃気楼のように舞った。
澤田明宏は、なおもマウンドのプレートをスパイクの踵で擦った。二度三度と擦ると、そのたびに球場の紺碧の空に消えるように土埃が舞う。
キャッチャーの北村邦夫が沢田の眼を覗く。この期に及んで沢田の方から何か語りかけることはなかった。形ばかりのサイン交換をする。最初はパー、北村の右手の指がホームベースの手前で地面を向く。ストレートだ。
次に、軽く右方向、そして上。インコース高めのボール気味のストレート。打ち気にはやっている打者なら、澤田の