日本選手権長距離観戦記
居住地に関係なく観客を受け入れる、久々の試合。
現地観戦の機会がなくもどかしい日々を送っていた私は、遠征しないという主義を捻じ曲げて東京から大阪まではるばる赴きました。
というわけで、日本選手権観戦記という大義名分のもと、早稲田大学の選手を褒めちぎっていきます。
5000m・小指くん(スポ科2年・学法石川)
後輩たちからも慕われる、イケメンサラブレッドの小指くん。先日発売された箱根駅伝完全ガイドでの個人写真の目力の強さが、一部のファンの間で話題となっていますね。
私が小指くんの走っている姿を初めて見たのは2019年大晦日の漢祭り。10000mで序盤から積極的にレースを進めるも、体力が持たず失速していました。いままで三大駅伝や各種対校戦への出場もなかったことも相まって、怪我で苦しみ伸び悩んでいるのかとこっそり心配していました。
そんな小指くんが日本選手権の参加標準を切ったのは、全日本大学駅でエントリーを外れた選手のみが出場した11月4日の早稲田大学競技会。5000m13‘41“01という好タイムを組トップで叩き出し、持ちタイムが一気に部内2番手となりました。コンディションや展開に多少の運はあれど、さすがに日本選手権の参加標準突破はラッキーだけで達成できるものではありません。私の中での小指くんへの期待値は、この日を機に一気に跳ね上がりました。
そして迎えた12月4日。先日の千明君のSNSでも「小指つよ…」と投稿があったことから状態は良いのだろうと安心する気持ちと、初の臙脂ユニがまさかの日本選手権というハイプレッシャーかつハイレベルな舞台で大丈夫だろうかと不安になる気持ちが入り混じった複雑なファン心理を抱えながら、静かに号砲を待ちました。
レースは先頭集団がオリンピック参加標準を切るべく序盤からハイペースで進み、縦長となった集団は1500mを通過したあたりから二手に分かれはじめました。小指くんはしばらく後ろの集団を引っ張る形となり、徐々に後ろの選手がポロポロとこぼれていったため、終盤まで単独走を強いられました。小指くんにとってはかなり難しい展開と言えます。実際に、ラスト1周を迎える頃には疲れが出たのか後ろにいた数人から成る集団に飲み込まれそうになっていました。
しかしそのラスト1周こそが、小指くんの最大の見せ場でした。一気にギアを入れ替え、集団に飲み込まれるどころか突き放しにかかったのです。日本選手権という猛者だらけのレースで。それも、苦し紛れに粘るものではなく、長い脚を活かしてスーッと伸びていくような美しいスパートでした。結果は13‘58“30となんとか13分台。
あ、この子は本物だ。
そう感じました。
レース終了後はwasediaryのストーリーにて「全く歯が立たなかった」と悔しそうにしていたのが印象的でしたね。出場するだけで満足するのではなく、スパートという持ち味を発揮し、ハイレベルな集団についていけなかった点を課題として認識した。レース自体の内容も、今後への反省も、かなりの収穫となったと言えるのではないでしょうか。
3年生が目立つ早稲田ですが、2年生もなかなか頼もしい存在となりつつあります。不調でも本番に合わせてくる創士くんやここ最近バチバチに燃えている井川くんとともに、小指くんも箱根での活躍が楽しみとなりました。
10000m・中谷くん(スポ科3年・佐久長聖)
先日の「箱根駅伝の道」にて、エースとしての自覚が生まれてきたと語った、正真正銘の臙脂のエース。1~2年生の時には怪我や不調に苦しみましたが、今季は順調に練習を積み、走りも精神面もどんどんパワーアップしていますね。
中谷くんはホクレンディスタンスチャレンジにて5000m13‘39“21と自己ベストを更新した勢いそのままに、10月のトラックゲームズinTOKOROZAWA(以下:トラとこ)にて10000mでも28’19”27と自己ベストを更新し、日本選手権への切符を手にしました。
11月21日の早稲田競技会では直希くんとともに5000mまでPMを務め、井川くん宍倉くん山口くんの大幅PB更新に多大なる貢献を見せましたね。本番の強さだけでなく、練習でもチームを引っ張っている姿が連想できて、ファンとしてはとても嬉しく思いました。
満を持して迎えた日本選手権では、レース序盤からサッと飛び出し先頭へ。ファンとしては見慣れた光景です。3200mまで先頭を引っ張り続け、その後は実業団の選手に引っ張ってもらいつつもペースが落ちるとまた前に出るなど、終始積極的で中谷くんらしいレース運びとなりました。
結果はご存じの通り、27‘54“06と約25秒のPB更新。数十分後に田澤くん(駒澤大学)に抜かれてしまったものの、ほんの一瞬だけ「今季日本人学生最速」の称号を手にすることとなりました。
B組となった時点で記録を狙うのは厳しいかもしれないと密かに覚悟していましたが、杞憂と終わって本当に良かったです。イーブンで押したり他の選手の後ろに付いたりしたところから見るに「日本選手権という大舞台で、確実に27分台を出す」というのが目標だったように感じました。
そう、もっといける気がするんですよね。
長距離界ではしばしば「速さ」「強さ」という言葉を用いますが、中谷くんは速さ以上の強さを持つ貴重な存在であると個人的には思っています。
来期はぜひ田澤くんの記録を超えて、あわよくば大迫さんの学生記録を更新して、誰もが認める「学生長距離界のエース」に君臨してもらいたいところです。
10000m・直希くん(スポ科3年・浜松日体)
いまや中谷くんと並んで「早稲田の二枚看板」あるいはそこに現在復調しつつある千明くんも加えて「3年生の三本柱」と称されるまでになった直希くん。
日本選手権参加標準を突破したのは中谷くんと同じトラとこ。2020年2月の唐津10マイルで横手さん(富士通)を振り切り2位となったあたりから「この子は強いぞ」と思っていましたが、ここ最近の急成長に驚いている方も多くいらっしゃることでしょう。
自粛期間に一人で月間750kmを走破するほどの自主性を持つという点が、その強さの理由のひとつであることは間違いありません。
さて、レースの中身についてですが、中谷くんと同様「らしさ」の表れた素晴らしいものでした。序盤から前方に位置しつつも先頭に付くことはせず、集団がばらけてからは3位集団の後方で待機。徐々に疲労が見えてきた選手をその都度スルスルと交わしていき、いつの間にか4番手が定位置に。一時は中谷くん含む先頭集団と距離が空きつつも、無理して前に出ることはせず、大六野さん(旭化成)がじわじわと前を詰めるのに上手く乗っかる形を取りました。終盤は中谷くんと並走するシーンもあり、ラスト2周となって初めて先頭に立つ場面も。そして結果は見事27‘55“59と中谷くんに続いて27分台。
直希くん自身がどう考えているかはわかりませんが、私はお兄さんの智樹くんと似たクレバーな走りだと感じました。つまり、単独走も集団利用もでき、積極性も持ち合わせたオールマイティランナーだということです。そしてタイムはなんと智樹くん超え。本当に強くなった。
先ほども述べましたが自粛期間に月間750kmを走破しましたので、距離不安は無し。2019・2020箱根では復路起用でしたが、今年は往路の区間賞候補として期待大です。成長曲線は今も右肩上がり、まだ3年生だというのは他大からも脅威として認識されつつあるのではないでしょうか。
まとめ
小指くんこそ悔しそうでしたが、3人とも自らの持ち味を発揮しつつさらなる高みを目指すきっかけとなった良い試合だったと捉えています。
箱根駅伝まで1ヶ月を切ったこの時期に日本選手権へ出場するという決断に関して、一切後悔を残さないような素晴らしいものでした。
そして「自分も出ていれば…」と悔しそうにしていた井川くんはじめ、日本選手権には出場していなかったメンバーにも好影響が見込めそうですね。他大の大量PB祭りも怖いですが、早稲田の勢いが良いのもまた事実。
今季の早稲田のハーフマラソン持ちタイムは全出場校中なんと最下位。
しかし安定感のある中谷くん直希くんをはじめ強い選手はたくさんいます。
結果を出すのはメンバー選考レースではなく箱根本番で良い。
自信をつけるのは記録会のタイムではなく普段の練習で良い。
山が弱いと言われようと、ハーフの距離が未知数だと言われようと、それを跳ね返すような走りを彼らは見せてくれる。私はそう信じています。