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全日本大学駅伝おうち観戦記

出雲駅伝が中止となり絶望に打ちひしがれた駅伝ファンを救った、第52回全日本大学駅伝。
毎年当然のように伊勢まで足を運んでいる熱狂的なファンもおうちからの観戦ということで、私のTwitterタイムラインは大変にぎやかなものとなりました。

というわけで、おうち観戦記という大義名分のもと、早稲田の選手を褒めちぎっていきます。


1区・辻くん(政経1年・早実)

今季5000m13‘49“31を叩き出して絶対的エース中谷くんに次いでチーム内3番手となり、先日のトラックゲームズinTOKOROZAWA(以下:トラとこ)にて対校戦選手ではなかったものの10000m29’09”11と好走した期待の新人です。ゼッケンチェック時のWポーズがキレキレでとてもかっこよかったですね。

最初は集団の最後尾につけていたのでファンとしては心配になりましたが、他校の選手がスパートをかける頃には対応可能な場所へ移動しており、最終的にトップと11秒差の区間6位で中継所に飛び込みました。1区は出遅れも怖いですが、エース級の選手を投入して牽制合戦になるのも、慢性的な枚数不足を抱える早稲田としては大問題です。無駄な力を使わず他校のスピードランナーに食らいつくというのは理想的な展開と言えるのではないでしょうか。

個人的には辻くんは目標設定の仕方が上手く、冷静でまじめな選手という印象があります。他大学の1年生も怖いですが、着実に積み重ねて伸びていく未来が見えるという意味では辻くんもとても楽しみです。


2区・井川くん(スポ科2年・九州学院)

令和の怪物という異名を持つ田澤くん(駒澤大学)に「まだ俺はお前に勝ったとは思ってないよ」と言わしめた、高校時代の学年エース。昨年は悔しい場面が目立ちましたが、いまや10000mで29‘01“31と、28分の大台まであと一歩というところまで持ってきました。

今回の井川くんの走りから、昨年の太田智樹元主将を想起した早稲田ファンは多いのではないでしょうか。そう、集団を利用しながらじわじわと順位を押し上げて先頭に近付いていく様子には、既視感しかありませんでした。2年生にして、あの安心と信頼の智樹くんと同じ役割を果たしてくれたなんて素晴らしいですね。
そして特筆すべきはラストスパートです。今季の学生長距離界のエースの一角、川瀬翔矢くん(皇學館大學)が後ろから追い上げてきても、前には出させませんでした。もちろん川瀬くんが疲労していたのもあるとは思いますが、井川くん自身のエリートとしてのプライドを垣間見ることができた気がして、とても頼もしく思いました。
箱根3区で鈴木塁人くんに食らいつこうとした時にも驚きましたが、どんな相手にも臆せず真っ向勝負しようとする気持ちの強さは、必ず活きる場面がやってくることでしょう。


3区・中谷くん(スポ科3年・佐久長聖)

言わずと知れた早稲田のエース。人一倍負けず嫌いな性格は大迫さんと重なります。トラとこの10000mでは28’19”27という好記録でチームを優勝まで導きました。ゴール後のガッツポーズに、日本選手権参加標準を切ることのできた喜びが溢れていましたね。

本日も中谷名物の「後のことなんて知らない!まず突っ込んで入る、その後は走力でゴリ押しする!」というスタイルを拝むことができて、ファンとしては感無量です。
中継所でのトップとの差22秒を僅か1.6kmで帳消しにし、その後も単独走で押し続け三大駅伝初の区間賞。2020年の箱根1区で突っ込んで入った際には解説陣からオーバーペースを懸念されていましたが、今回は「このまま押し切るだろう」と全幅の信頼を置かれるまでになりました。

早稲田が三大駅伝で区間賞を獲ったのも久々です。エース区間を任されるがゆえに悔しい思いをすることも多かった中谷くんにとって、悲願の区間賞を手にしたというのは自信にもつながったはず。さらなる高みを目指してチームを引っ張り続けてほしいです。


4区・直希くん(スポ科3年・浜松日体)

太田兄弟の弟にして、兄の卒業後にめきめきと頭角を現し臙脂のエースクラスにまで上り詰めた直希くん。トラとこでは中谷くんの前に出るシーンもあり28‘19“76の好記録をマークしました。太田弟ってこんなに走れたの!?と驚愕する他大ファンのツイートを「ふふん♪」と眺めていたのも今となっては良い思い出です。

結果は区間賞こそ逃したものの区間新。昨年の出雲駅伝で鈴木洋平さんの区間記録を更新されてから早稲田としては三大駅伝に区間記録をひとつも持っていない状況です。区間記録を数分間でも保持できたのは、心から嬉しく思いました。

さて、注目すべきはレース運びです。単独トップで襷をもらった場合のセオリーとして「抑えて入って、後半に上げる」というものがありますが、直希くんは最初から飛ばしました。これは順位キープではなくタイム差を稼ぎに行ったことを意味しますが、それだけではありません。
2020年箱根時点で直希くんは「兄は積極的に攻めるレースができるが、自分にはそれはできない。自分の持ち味は粘り強さだ」(要旨)とコメントしていました。駅伝で言うと後半区間の単独走で活躍するタイプだったんです。
しかし今日の直希くん、誰がどう見ても積極的に攻めるレース運びでした。これはもう単独走のみでなく追い上げる展開でも結果を出してくれる選手へと進化した証拠でしょう。箱根2区出走も現実的になってきました。
オールラウンダー型エースが生まれたというのは、チームとしても非常に大きなことです。


5区・菖蒲くん(スポ科1年・西京)

ピアノも弾けるイケメン王子。1年生ながら10000m28‘58“10のタイムを持っており、学生のうちに世界大会を目指すと宣言している頼もしい存在です。

中谷くん直希くんの貯金をなんとか守り抜いたものの、苦しそうな表情ばかりがTVに写っていましたね。後半でペースが上がらずとなりましたが、そこまで悲観する必要はないと認識しています。なぜなら本人も「今シーズンはスピードを磨く期間であり、現在の課題は後半の失速にある」と早スポ記事で答えていたからです。

全日本経験者の上級生が怪我や教育実習で不在となる中、相楽さんもきっと経験を積む目的で菖蒲くんをここに配置したのではないでしょうか。スピード強化に成功した菖蒲くんなら、スタミナ強化も順調にこなしてくれると期待しています。


6区・諸冨くん(文1年・洛南)

名門洛南高校出身のエリート推薦組かと思いきや、中学時代から早稲田への進学を見据えて洛南を選び高校時代もその意思を貫いて一般組として早稲田の門を叩いた、大物感あふれるムードメーカー。集合写真ではいつも前で寝そべっていますね。

力のある1年生が多すぎて他大からのマークは薄いからもしれませんが、諸冨くんも先日の全カレ3000mSCで三浦くん(順天堂)に続いて表彰台入りした実力者です。今日も2位と10秒差で襷を受けてからすぐには追い付かせず、落ち着いてレースを進めてくれました。大学でも通用する実力があるという自信が多少なりともあったこと、トラとこで5000mのPBを更新し勢いに乗っていたことなどが功を奏したのでしょうか。
最終的には順位を落とす展開になってしまいましたが、よく粘ってくれたと思います。1年生であの落ち着き、スタミナさえつけば箱根の魔物にも屈しない存在となってくれそうです。


7区・創士くん(スポ科2年・浜松日体)

俺たちのプリンス鈴木創士。昨年は全日本予選で1年生ながら組トップという勝負強さを見せつけ、箱根7区ではシード圏外から一気に順位を押し上げ7区1年生記録を更新、全体でも明治の阿部くんに次ぐ区間2位の好走を見せた早稲田の若きエース候補です。

今季は怪我か不調か、あまり姿を見ることはありませんでした。本人のツイートからも、苦しんでいた様子が生々しく伝わってきます。

何よりもまずは出走してくれたことに感謝です。相楽さんから頼まれて、断りたい気持ちを抑えてチームのために出走してくれたのでしょうか。優勝候補とされる他校が軒並み後半型のオーダーを組んでいる中、不安を抱えながら走るのは本当に辛かったと思います。
序盤から表情を歪めつつ、最後まで粘り続けた姿は本当にかっこよかった。箱根に引き続き、シード権を確実なものにしてくれたのはやはり創士くんでした。どうかまた近いうちに、自信たっぷりの顔つきをした創士くんの姿を見ることのできる日が来ますように。


8区・山口くん(文3年・鶴丸)

みんな大好き早稲田の叩き上げ。地方公立高校からの指定校推薦で入学し、チームメイトからも「山口は本当に頭が良い」と一目置かれる存在ですね。3年生にして10000m29‘19“01と推薦組にも引けを取らないレベルにまで成長しました。

他の8区出走者は、名取田澤聖人圭太宮下と、名前を聞いただけで震え上がってしまうような面々でした。上位陣では早稲田だけが前半型のオーダー、いくら絶好調とはいえ山口くんには荷が重いのではないかと正直心配でたまりませんでした。
しかし蓋を開けてみると、しっかりとペースを刻んで区間6位の好走。一時は宮下くんに抜かれるも、最後は抜き返してチーム総合5位を死守してくれました。

特に頼もしいと感じたのが、ゴール後の会見で「青学や明治を抜けなかった」と、悔しそうに溢していたことです。臙脂を背負って出走できた喜びやシードを獲得した安心感だけでなく、実際に走った人にしか感じることのできない悔しさを、しっかりと感じ取ったんですね。
叩き上げ選手がここまで戦えるレベルまで来たということは、早稲田全体の士気の高さと実力の向上を表します。山口くんにはこれからも一般組の星として、早稲田のキーマンであり続けてもらいたいものです。

まとめ

他の上位陣による探り合いをよそに、早稲田はエントリー変更なし。全日本経験者であり出走すれば確実に区間上位を獲るであろう上級生の、吉田くん宍倉くん千明くんが不在。苦しい状況だからこそ他大の小競り合いを無視し、自分たちが1秒でも良い記録を出せるようなオーダーとしたということでしょうか。

そして実際に、区間賞の壁を中谷くんが崩し、区間新の壁を直希くんが崩し、一般組からの好走という壁を山口くんが崩しました。


昨年は総合6位、シード権を獲れた安心感が大きかった。
今年は総合5位、3位以内に入れなかった悔しさでいっぱいになった。


なんだかとても良い兆候だと思いませんか?
推薦組が頼れるエースとなり、内部生から主要メンバーが生まれ、一般組がレギュラーとして名乗りを上げる。
そう、強いときの早稲田の在り方そのものです。

特に今回は山口くんの好走がチームに良い影響をもたらすと見ています。
焼きジャケさんの投稿動画には待機組が山口くんの好走を喜ぶ声が入っていました。彼は「努力は報われる」と身をもって証明したことになり、伸び悩んでいる選手を元気づけたのではないでしょうか。

4年生なしのオーダーで経験を積ませる目的も大きかったかもしれませんが、長時間先頭に立ったことで3位以内どころか優勝を意識する気持ちは選手たちの中で確実に大きくなったはず。主力が故障をしないようにするルートだけでなく、主力の不在を他の選手がカバーするルートが見えたのも、チームとしては大きな財産です。

出走した選手にも、出走できなかった選手にも、良い意味で課題の見えてきた大会となったと思います。

これからも、早稲田大学競走部長距離ブロックのご活躍を、心より楽しみにしています。

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