なぜ私たちはPMに惹かれるのか
山本修二くん(旭化成)が完璧なまでのペースメイクを見せた別府大分マラソンや、男性陣による万全なサポート体制が目立った先日の大阪国際女子マラソンの日、私のTwitterタイムラインでは彼らに対する称賛の声で溢れかえっていました。
そしてPM陣が豪華なことで有名な(?)OTTの後には、愛すべき後輩がこのようなツイートをしていました。
なぜ私たちはこれほどまでにPMの虜になってしまうのでしょうか。
なぜ私たちはPMに惹かれるのか
その理由を整理すると、以下のようになると私は考えています。
①正確にペースを刻むことが難しいと分かっているから
②PMが選手に対して声を掛ける姿に心を打たれるから
③そのPMの練習の様子が想起させられるから
以下、それぞれについて簡単に述べていきます。
①正確にペースを刻むことが難しいと分かっているから
「職業:ランナー」の人ですら、集団の先頭で設定されたタイムを守って走ることは至難の業です。普段の練習で使用しているコースやトラックでの普段の練習での設定タイムならまだしも、慣れないコースを慣れない設定タイムで集団を引っ張れというオーダーは、誰でもこなせるものではありません。実際、マラソンではしばしばPMの作るペースが定まらないレースも散見されます。
だからこそ、冒頭で触れた修二くんや、東京マラソンで女子先頭集団のPMを複数回担当した上村さん(大塚製薬)の活躍が引き立つ訳です。彼らは練習拠点とは異なる地で、設定タイムをきっちり守る「仕事人」ですから。
余談ですが東洋OBだと他にも、駅伝の解説で「リズム良くペースを刻むので、後ろに付くと非常に楽になる」と称される設楽悠太さん(Honda)や、端正な顔立ちや不思議な発言が目立つもののその走りは堅実性の塊と言える今西くん(トヨタ自動車九州)もPMに向いてそうだと個人的には思っています。
②PMが選手に対して声を掛ける姿に心を打たれるから
自身もマラソンの経験が豊富で、選手の肉体的・精神的疲労が溜まるポイントをよく理解しているPMだと、選手に声を掛けたりジェスチャーで「ここについて!」と示したりします。大阪国際女子マラソンで一山さん(ワコール)のPMを務めた岩田さん(三菱重工)や川内さん(あいおいニッセイ同和損保)はこういった姿勢が中継でも目立ちました。後日、一山さんから二人へ手紙とワコール製品を贈ったという事実が、一山さんにとって彼らの存在が大きなものだったことを証明しています。
時にはレース中に選手同士での声掛けが見られることもあります。2020年の日本選手権男子シニアクロカンでは、田村兄弟の兄・和希くん(住友電工)が並走していた弟・友佑くん(黒崎播磨)の遅れかけたタイミングで後ろを振り返り、自分に付いてくるよう叫びました。そしてレース後には、日本選手権10000mの出場権が懸かった大一番で弟に声を掛けたことについて「勝負師としては良くないのだろうけど、思わず声を掛けてしまった」と照れながら話していました。強敵相手に激励の言葉をかける競技者としてのマインドや弟を気遣う好青年ぶりは、ランナーとしてだけではない人間としての彼の魅力の表れでしょう。
人の優しさを目の当たりにすると、誰でも気分は良くなるもの。選手への声掛けは、観る者の心を綺麗にしてくれる効果も持っているのです。
③そのPMの練習の様子が想起させられるから
これは2021/2/28のOTTで宍倉くん(早稲田大学)のペースメイクを間近で見て感じたことです。
正直、宍倉くんにはPMのイメージってあまりなくて。2020年箱根でのキレキレのスパートが印象的すぎたのもありますが、集団を引っ張るとか普段の練習でチームメイトに積極的に声を掛けているとかは他の選手の顔が思い浮かぶというか。
だからこそ、PMとして参加してくれることを知って驚きましたし、正確かつ献身的な素晴らしいペースメイクを見て鳥肌が立ちました。序盤の1500mの組では設定タイム400m88秒で引っ張ることになっており、本人も「普段なかなかこのペースで刻むことがないので上手くいかないかも」とコメントしていましたが、400mの通過は88秒ジャストでした。また、5000m最終組では14分半ばを目指すランナーのペースメイクをしながら何度も後ろを確認し声を掛けている姿がありました。いままで私がこういった視点で宍倉くんを見ていなかっただけで、彼はきっとPMの任務を果たすだけのポテンシャルを元々持っていたのだろうなと、初めて気づきました。
そして同時に、彼がこういったポテンシャルを持つに至った背景についても思いを巡らせました。高校時代、他の強豪校と比較して実力にばらつきがあったであろう早実では練習で引っ張るシーンもあったのかなとか。大学3年生の11月、記録挑戦競技会で28分台に迫る自己ベストを出した時に智樹くんが何度も声を掛けながら新迫くん直希くん創士くんそして宍倉くんの自己ベストをアシストしたあの素晴らしいペースメイクの影響を受けたのかなとか。大学4年生では教育実習で部活にも顔を出し、生徒から本当に慕われるような練習を積めたからこそ充実した様子で競走部に戻ってきたんだろうなとか。
私は競走部の関係者でもなんでもないため、彼らの普段の練習の姿を観ることは叶いません。しかしながらPMをこなす姿は、練習の様子を想像するきっかけを、観る者に与えてくれるのです。
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以上が私の考える「PMに惹かれる理由」です。
これからもOTTボランティアやレース観戦を通じて、素晴らしいペースメイクにたくさん触れられることを楽しみにしています。
あとがき
気付いた方もいらっしゃるかと思いますが、本記事はOTTでの宍倉くんの素晴らしいペースメイクを受けて衝動で書きました。最終学年、引退式後とはいえ走っている姿を生で観ることができて嬉しかったです。
また、調子に乗って宍倉くんとツーショットの写真を撮らせていただきました。そこそこ現地観戦には行きますし衝動で選手に話しかけてしまったこともありますが(!)現役ランナーと写真を撮ったのは実は初めてでした。宍倉くん、快く対応してくれてありがとうございました。
(おまけ)編集後記
本記事では①②③を並列で書きましたが、①や②は記載の通りレースでも読み取ることができるもの、③はPMという立場の特殊性があって初めて成り立つもの、という違いがあります。
それゆえ各章の構成を①②は「実際のPMの好例+レースから見たPMに近い要素」とし、③のみを「元々その選手へ持っていた印象+PMとしての姿を見て変化したその選手への印象」としました。
このように文章構成に変化をつけた場合、読み手にニュアンスの違いは伝わっているのでしょうか?無意識下でも伝わっていれば幸いです。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
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