A PLACE CALLED PERFECT

ヴァイオレットはパパの仕事の都合で〈カンペキ〉という名前の町に引っ越すことになった。この町に引っ越してきた人たちはみな、なぜか目が見えなくなってしまう。アーチャー眼鏡店で作った赤レンズのめがねをかければ見えるようになるのだが、それだけが問題ではないようだ。ヴァイオレットは〈無人区〉に住むボクとともに、町の謎にせまる。

作者:Helen Duggan(ヘレン・ダガン)
出版社:Usborne(ロンドン/イギリス)
出版年:2017年
ページ数:364ページ(日本語版は~400ページ程度の見込み)
シリーズ:全3巻
ジャンル・キーワード:ファンタジー、ミステリー、家族


おもな文学賞

・クライムフェスト賞クライムノベル児童書部門受賞 (2018)
・ウォーターストーンズ児童文学賞ショートリスト (2017)
・Redbridge Children's Book Award受賞(2018)
・Hillingdon Primary Book of the Year(2018)
ほか、多数入賞。

作者について

アイルランド南部の都市キルケニー出身の児童文学作家、グラフィックデザイナー、イラストレーター。冒険物語を書くのが大好きで、本作がデビュー作。

おもな登場人物

● ヴァイオレット・ブラウン:パパの仕事の都合で〈カンペキ〉という名前の町に引っ越してきた女の子。10歳。思い立ったら動かずにはいられない行動派。消えてしまったパパと変わってしまったママを取り戻すべく奮闘する。
● ボク:無人区の孤児院に住む少年。内気だが、ヴァイオレットとともにカンペキ町の謎に挑むことになる。両親のことは知らない。
● ユージン・ブラウン:ヴァイオレットのパパ。眼科学者で、カンペキ町に招かれる。
● ローズ・ブラウン:ヴァイオレットのママ。引っ越しを嫌がっていたのに、なぜかあっという間にカンペキの町になじむ。
● エドワード・アーチャー、ジョージ・アーチャー:カンペキ町の権力者で、アーチャー眼鏡店、アーチャー紅茶工場を経営するふたご。
● ウィリアム・アーチャー:エドワードとジョージの兄弟だが、ふたりとは対立しており、無人区にひっそり暮らす。
● マキュラ・アーチャー: ウィリアムの奥さんだが、エドワードのせいではなればなれになり、ゴーストタウンに住んでいる。

あらすじ

※結末まで書いてあります!

 ヴァイオレットは、眼科学者のパパの仕事、〈カンペキ〉という名前の町に引っ越した。引っ越しには反対だったが、パパの仕事だからしかたがない。引っ越し先の家には、のっぽでひょろりとしたジョージ・アーチャーとチビでずんぐりしたエドワード・アーチャーというふたごの人が来ていた。パパを呼び寄せたのは、このふたりだ。町の権力者で、町の中心である眼鏡店を経営するだけでなく、アーチャー通りと名づけられた通りがあったり、毎日すべての家庭に配られるアーチャー紅茶の製造を手がけたりしていた。アーチャー紅茶は、好きな飲み物の味がするふしぎな紅茶だった。
 この町の人は、全員赤いレンズのめがねをかけていた。なぜなら、この町で暮らし始めると、だんだん視界がぼやけ、しまいには失明するからだ。アーチャー眼鏡店で作った赤めがねをかければ、きちんと見える。引っ越しの翌朝、さっそくヴァイオレットたちの目は見えなくなり、めがねを作ってもらった。無事に見えるようになったが、なぜか前よりも町全体がきれいに、アーチャー兄弟も見栄え良く見えた。これからめがねをずっとかけつづけなくてはいけないと思うと、ぜんぜんカンペキとは思えない。しかも、ママはやたらと町をほめちぎり、かつてないほど社交的になり、むしろ気味が悪かった。学校は規則でがんじがらめなうえに、クラスメートは全員素直に従っている。みんなと違うことをして目立ってしまったヴァイオレットは、IDDCS(過敏性機能不全児童症候群)と診断され、あやしい薬を飲まされることになる。その薬を飲むと、カンペキ町に対する疑問がわかなくなるのだ。ヴァイオレットはどうにかして薬を飲まないようにした。
 ある日、エドワード・アーチャーが家に来て、パパが急に出張になったと言った。パパが直接言いに来ないなんておかしい、とヴァイオレットは納得できないが、ママはそういう考え方もIDDCSの症状だと言って相手にしない。怒りにまかせて部屋に駆け込むと、ベッドの中に見たことのないめがねケースがあった。中には木製フレームのめがねがあり、かけると部屋のなかが今までと違って見えた。そして、部屋のすみに男の子がいた。

 引っ越してきてから今まで、赤めがねをかけていないときに、男の子の声がすることがあった。ところが、ママにもパパにも聞こえないらしく、気のせいにされていた。今はじめて、実際に男の子がいることが分かった。男の子は〈ボク〉という名前で、カンペキ町の人から存在を消されている〈無人区〉に住んでいた。ヴァイオレットはボクに連れられて家を抜け出し、無人区へ行く。カンペキ町との境界には、ぐるりと塀がめぐらされていた。
 無人区には、カンペキ町の規則に従わない人や自分の意見を主張する人が放り込まれていた。無人区の住人はみなカンペキ町に家族がいるが、カンペキ町に住む家族のほうは、無人区に住む家族のことを忘れていった。ヴァイオレットのママのように、住んでいるうちに人が変わるからだ。でも、ボクにはもともと家族がいなかった。赤ちゃんのときに無人区の孤児院の前に置かれていたからだ。無人区とカンペキ町では生活時間が逆転していて、無人区では夜になるとみんな働き始める。昼間はカンペキ町には出てはいけない規則で、〈ウォッチャー〉と呼ばれる監視員が巡回していた。逆に、カンペキ町の住人も、夜は外に出てはいけないことになっていたが、だれも何の疑問ももっていなかった。赤めがねをかけると、無人区の住人の姿もウォッチャーの姿も映らないからだ。ボクは、ヴァイオレットのパパがこの謎を解決してくれるのかもと思い、家のまわりをうろついていたのだった。

 ヴァイオレットとボクはアーチャー眼鏡店にしのびこんだ。奥の部屋には棚がいくつもあり、カラフルなビンがずらりと並んでいた。近づいてみると、名前と、「完全」や「不完全」などのラベルが貼られてあり、カンペキ町の住人の名前のビンは「完全」、無人区の住人の名前のビンは「不完全」と書かれていた。ところが、ヴァイオレットの名前がついたビンは「処理中」となっていた。ジョージ・アーチャーが入ってきたので2人はさっと隠れ、ジョージのあとをつけた。地下におり、奥の通路に入ると、何百年も前からあるようなトンネルにつながっていた。出口は墓地だった。無人区の奥にある川の対岸だ。墓地の近くには住宅街があり、「すばらしい家庭生活を!」と書かれた看板と、花壇、きれいな家々があった。だれも住んでいない、のろわれていると言ううわさのゴーストタウンだった。
 ヴァイオレットとボクは勇気をだしてゴーストタウンに入った。一軒の家をのぞくと、植木鉢がずらりと並び、眼球のなる植物が育てられていた! 目的はわからないが、ヴァイオレットはゴーストタウンのどこかにパパがいるはず、と確信した。はしごを伝って2階の窓から入ると、階段をのぼってくる足音がした。2階の部屋にいた黒髪の女の人がヴァイオレットをかくまった。ママと同い年くらいの人だ。監禁されているわけではないが、外の世界に思い残すことがなくてここにいると言う。
 逃がしてもらったヴァイオレットはパパがいる家をつきとめるが、エドワードがいて身動きがとれず、いったん川を渡って無人区に戻る。鍵がかかっていない家に隠れると、勝手に入るな、と怒られた。ここはエドワードとジョージの兄弟、ウィリアム・アーチャーの家だった。ウィリアムと母のアイリスは、エドワードとジョージと対立していた。ウィリアムはヴァイオレットのめがねを見て、自分が作っためがねだと言い、どこで手に入れたのかたずねた。ボクが孤児院の前に置かれていたときに添えられていためがねだと説明した。「これで見えなくなることはないはず」というメモもあったと補足すると、ウィリアムは考え込むようだった。ヴァイオレットはウィリアムに力になってくれるよう頼むが、かたくなに断られた。
 その晩、ヴァイオレットは孤児院に泊めてもらった。孤児院の本棚に『ホドホド町の歴史』という本があった。ぱらぱらとめくってみると、見覚えのある町並みの写真がある。カンペキ町は以前、ホドホド町という名前だったようだ。そして結婚式の写真にヴァイオレットの目はくぎづけになった。ウィリアムと、ゴーストタウンで会った女の人の結婚式だったのだ。女の人の名はマキュラと言った。
 ヴァイオレットとボクはふたたびウィリアムの家をたずね、マキュラがゴーストタウンにいることを伝えた。マキュラは死んだとエドワードから聞かされていたウィリアムは怒りをあらわにし、ヴァイオレットたちに協力してくれることになった。

 ウィリアムは、エドワードとジョージのたくらみを教えてくれた。眼鏡店の地下に並んでいた色とりどりの液体は、住民から奪った想像力だった。想像力がない人間はコントロールしやすいため、自分たちに都合のいい町をつくれる。町の人の目が見えなくなるのはアーチャー紅茶のせいで、赤めがねは想像力を毎日吸い取る装置だった。そして今、目そのものを開発し、赤めがねの代わりに目を交換しようとしているのだ。
 エドワードとジョージは、母の愛情を一身に受けていたウィリアムを憎んでいた。母はエドワードとジョージのことを愛していないわけではなかったが、ふたりからウィリアムをかばい続けた結果、みぞが深まってしまった。そして、エドワードとジョージが夢中だったマキュラがウィリアムと結婚したことが決定打になった。アーチャー紅茶の開発を始め、町の名を〈ホドホド〉から〈カンペキ〉に変え、意に沿わない人たちを無人区におしやったのだ。ウィリアムは監禁され、解放されたときにはマキュラは死んだと聞かされた。それ以来、ウィリアムは生きる気力をなくしていた。

 ウィリアムは、閉ざしていた実験室を開き、アーチャー紅茶の効果をなくすエキスを作った。ヴァイオレットとボクはアーチャー紅茶の工場にしのびこみ、製造ラインにしかけをして、紅茶の葉にエキスがかかるようにした。あとはみんながこの紅茶を飲むのを待てばいい。それから、ウィリアムは〈想像力回復機〉を作った。無人区の子どもたちに協力してもらい、アーチャー眼鏡店から盗み出した想像力のビンを使って、カンペキ町の住人に離ればなれになった家族の記憶をとり戻させた。無人区のおとなはなかなか協力しなかったが、効果が見えるにつれ協力しはじめ、カンペキ町の住人も想像力を取り戻した人から順に協力した。
 ついに、対決のときがきた。エドワードとジョージ率いるウォッチャーたちと、ウィリアム率いる無人区の住人がぶつかった。新しいアーチャー紅茶を飲んだカンペキの町の住人たちも、ウィリアム側に加わった。負けが見えるとエドワードは逃げた。後を追ったヴァイオレットとボクは、エドワードがゴーストタウンからヴァイオレットのパパとマキュラを連れだすのを阻止する。エドワードはそのまま姿をくらました。後から来たウィリアムは、ついにマキュラと再会した。さらに、ボクが持っていたメモはマキュラが書いたものだとわかった。ウィリアムとマキュラは、ボクの両親だったのだ。

 平和が訪れた。カンペキ町の住人は想像力を取り戻した。ヴァイオレットのママも、いつものママに戻った。エドワードは行方知れずのままだ。ジョージは裁判にかけられることになり、無人区を囲んでいた壁は取り壊され、カンペキの町はただの〈マチ〉という名前で再出発することになった。めざすのは、ひとりひとりの個性を尊重し、同じところもあれば違うところもあると認めあえる町だ。

〈カンペキ〉とは名ばかりで、町の住民は視力を失い、赤レンズのめがねをかけないと生活できない。しかも、美味しいけれど怪しい紅茶を、何の疑問ももたずに毎日飲む。問題の根は、単に目が見えなくなることではなく、創造力を奪われ、心が盲目になること。そんな町の問題に、想像力豊かで大胆なヴァイオレットと、無人区でひっそり生きてきたボクが挑む。ミステリー、ファンタジー、冒険、ホラー、家族の愛情、権力の問題といったさまざまな要素が盛り込まれているが、まとまりはあり、作者のセンスの良さが感じられる。
 カンペキ(Perfect)、ホドホド(Adequate)、マチ(Town)といったネーミングなど、教訓めいている節もあるが、シュールな設定やめくるめく展開に惹き込まれ、物語の面白さにのめり込んでしまう。特に、ウィリアムが反旗をひるがえしてからのラストスパートは、ハラハラドキドキの連続だ。2巻、3巻も、逃げのびたアーチャー兄弟とマチの住人のバトルがクライマックスだが、地下通路がますます複雑になっていたり、ゾンビが出てきたり、ボクについてさらなる過去が明らかにされたりと盛りだくさんだ。舞台を観ているような賑やかさである。
 さまざまなテーマが盛り込まれている分、読者によって共感する場面、印象に残る場面は異なるだろう。さまざまな読み方ができる、魅力的な作品である。

シリーズ紹介

第2巻 The Trouble with Perfect
平和を取りもどしたはずの〈マチ〉で、盗難事件と子どもの失踪事件があいついだ。疑いの目はボクに向けられ、ヴァイオレットは犯人探しに乗り出すが、逆に捕まってしまう。姿をくらませていたエドワードがヴァイオレットたちを救出するが、もちろんすべてエドワードが仕組んだことだ。そしてエドワードの手下となっているのは、ボクにそっくりな少年だった。

第3巻 The Battle for Perfect
5人の科学者が行方不明になった。またもや姿をくらませていたアーチャー兄弟のしわざだ。アーチャー兄弟はなんと、科学者たちの力を借りて、ゾンビの軍隊をつくりあげていた。ヴァイオレットとボクは科学者たちを救い出し、〈マチ〉の住人と一致団結してゾンビ軍と戦う。

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