THE GRIFFIN GATE

グリフィン家は、モアランドの監視官として秩序と安全を守っている。グレースのひいおばあちゃんが作ったグリフィン・マップを使って国じゅうの町や村に瞬間移動し、困っている人を助け、事件を解決するのだ。監視官になれるのは15歳から。まだ13歳のグレースは、年齢なんか関係ない、早く任務につきたい、とやきもきしている。ある日、ママと兄がいないときに出動要請がきた。思わずひとりで飛びついたグレースは、大きな陰謀に巻きこまれる。なお、本書はディスレクシアの読者にも読みやすいよう、フォントや紙質等の配慮がされており、事前の試し読みもおこなわれた。

作者:Vashti Hardy(ヴァシュティ・ハーディ)
出版社:Barrington Stroke Ltd(イギリス/エジンバラ)
出版年:2020年
ページ数:112ページ
シリーズ:既刊4巻
ジャンル・キーワード:ファンタジー、家族、ディスレクシア配慮


作者について

イギリスのブライトン近郊在住の児童文学作家。元小学校教員。児童文学作家を支援する出版社と作家の組織ゴールデン・エッグ・アカデミーの創設者でもある。2018年のデビュー作『BRIGHTSTORM』はWaterstones Children’s Book Prizeはじめ数々の児童文学賞にノミネートされ、2作目『WILDSPARK』も2020年のBlue Peter Book Awardsを受賞した。

おもな登場人物

● グレース・グリフィン:13歳の女の子。はやく監視官になりたい、13歳でもできるってことを証明したい、と思っている。
● ブレン・グリフィン:グレースの兄。15歳。監視官の仕事を始めたばかり。
● アン・グリフィン:グレースたちの母。責任感と誇りをもって監視官の任務にあたっている。市民にも慕われている。
● ワトソン:機械製のワタリガラス。話すことができ、グレースたちの指導にあたる。いちど聞いたことは、声色もそのままに再生できる。
● ピック市長(クレメンス・ピック):コパーポート市の市長。コパーポート科学アカデミーでアンと同窓。とてもフレンドリーで、ファーストネームで呼ばれるのを好む。
● セリア:マッドフォード(グレースが行く村)にあるセリア雑貨店の店主。

あらすじ

※結末まで書いてあります!

 グレースのひいおばあちゃんが発明したグリフィン・マップには、モアランドのすべての村や町が描かれ、それぞれに金色の門が立っている。現地にある赤い通信ボックスから呼び出しがあると、門の色が変わる。赤は緊急、青はささいな用件だ。門に触れると現地に瞬間移動でき、戻るときはリコンパスという道具を使う。ひいおばあちゃんがマップを開発したのは、遠くの町のトンネル事故で友だちが生き埋めになったとき、あと一歩のところで助けが間に合わなかった悔しさがきっかけだった。マップのおかげで、困っている人のところへはすぐに駆けつけることができるようになったし、犯罪件数も大幅に減った。グリフィン家は監視官として、誇りを持ってマップを守っていた。

***

(物語はここから)
 グリフィン家の3人、アン、ブレン、グレースは、任務完了報告のためにピック市長を訪れた。まだ13歳で任務に出ていないグレースは気乗りしないが、グリフィン家は団結して行動するものだとアンに言われ、しぶしぶユニフォームに着がえる。でも、市長はグレースの椅子を用意していないし、ブレンをほめちぎってばかりだ。手持ちぶさたのグレースは部屋に並んでいる小型望遠鏡、スパイグラスを眺めた。きれいで大きなスパイグラスを覗こうとして市長に怒鳴られ、思わず取り落とす。アンは平謝り。市長はブレンに褒美としてスパイグラスをひとつ贈った。代々スパイグラスを作っている、市長の親戚の手によるものだ。
 数日後、グレースとブレンはグリフィン・マップの部屋で留守番をしていた。グレースが機械のワタリガラス、ワトソンと訓練をしていると、玄関のチャイムが鳴った。ブレンが応対しにいっているあいだに、グリフィン・マップの門が赤く光った。緊急事態だ! ブレンはまだ、しつこいセールスマンの相手をしている。グレースは今こそ自分の能力を証明するときだと、ワトソンの反対を振り切って門をさわった。ワトソンも道連れだ。

 着いた場所は、おとぎ話に出てきそうな、森のはずれの村だった。近くにあったセリア雑貨店を手始めに、なにが起きたのか聞き込みをする。森にモンスターがいるらしい。みな一様に、モンスターは「大きくて怖い」としか説明せず、名前を聞くとファーストネームで答えた。グレースはおそらくキツネかなにかだろうと思いつつ、森を調べることにした。
 モンスターのすみかを発見した。モンスターは寝ている。足を踏み入れるとモンスターは動いたが、グレースが逃げても追いかけてこない。戻るとモンスターはまた寝ていた。なにかおかしいので調べてみると、モンスターは本物ではなく、機械仕掛けの動物だった。入り口のセンサーで動くしくみになっている。グレースは、別の仕掛けも見つけた。床のボタンを踏むと、柵が落ちてきて閉じこめられるのだ。仕掛けには触れずに、いったん引き返すことにした。
 ママたちの助けは求めたくなかったが(めちゃくちゃ怒られるのは分かっている)、しかたがない。ところがポケットに入れたはずのリコンパスが見当たらない。森にも、村にもなかった。しかも、マップを呼び出すための赤いボックスも壊されていて、連絡を取ることもできなかった。暗くなってきたので、セリア雑貨店の2階に泊めてもらうことにした。

 夜中、寝つけなかったグレースは、1階から話し声が聞こえて起きあがった。ワトソンを連れてそっと階段をおりると、セリアがスパイグラスに向かって話している。市長の部屋で見たのと同じようなスパイグラスだ。スパイグラスから聞こえる男の人の声も、セリアが呼びかける「クレム」という名前も聞き覚えがあった。そして、はっと気がついた。クレメンス・ピック市長! ここは市長の故郷で、みんなピック家だから名前で呼び合っているのだ。ふたりが話している内容は恐ろしいものだった。グレースはモンスターに襲われて死んだことにされ、アンは監督不行き届きで投獄されるというのだ。そのあとグレースは凍てつく北の鉱山に売られる。階段をのぼろうとしてつまずいたグレースはセリアにつかまり、地下の物置に閉じこめられた。ワトソンは煙突から逃げた。セリアはグレースにリコンパスを見せた。最初の聞き込みのとき、いつのまにか盗んでいたのだ。グレースは疲れはて、眠りに落ちた。
 翌朝、ワトソンが助けにきた。まずセリアの家の窓をたたいてセリアの注意をひき、森までおびき出してから急いでグレースを助けにきた。地下倉庫から出たグレースはスパイグラスをいじり、ブレンと連絡をとろうとした。ゆうべ、市長はスパイグラスでブレンを監視していると言っていたからだ。スパイグラスをもらったときから、すでに陰謀は始まっていた。でもなぜ? まずは市長の部屋を見ると、市長と補佐官が話していた。なんと補佐官はあのときのセールスマンだ。市長の目的はグリフィン・マップを自分のものにし、自分が監視官になることだった。ブレンは孤児院へ送るという。グレースが任務に出たがっているのを知っていた市長は、わざとグレースがグリフィン・マップの部屋にひとりになる状況を作った。グレースは見事に相手の策略にハマったのだった。
 ふたたびスパイグラスをいじると、ブレンとつながった。グレースは一部始終を手短に話し、スパイグラスを持って市長の家に行くように言った。いまは市長の家にグリフィン・マップがあるからだ。セリアが戻ってきてグレースを捕まえようとしたが、一晩寝てグレースも元気だ。逆にセリアを地下倉庫にとじこめ、リコンパスも取り返した。
 グレースはスパイグラスを調節して市長の動向を探りながら、ブレンと連絡をとり、グリフィン・マップの電源を入れてもらった。グレースとワトソンは無事にリコンパスを使って帰る。ほっとしたのもつかの間、市長が部屋に入ってきた。
 グレースとワトソンは窓から逃げ、立法省にかけこんだ。そして市長の悪事を報告し、自分は無事なので母を解放してほしいと訴えた。あとから市長とブレンも駆けこんできた。市長は無実を主張するが、セリアに話したことをワトソンがそのまま再現したので言い逃れできず、逮捕された。
 グレースとアンは涙の再会を果たした。アンはグレースの能力をきちんと評価していなかったことをわび、グレースも勝手な行動を謝った。ブレンはまたいっしょに訓練しようと言った。いっしょに訓練をやらなくなったのは、グレースに負かされることが多くなったからだった。3人は家に帰り、グリフィン・マップをもとの位置に広げた。

 数日後、グリフィン・マップの門が赤く光った。今回はグレースも置いてけぼりではない。年齢に関係なく、グリフィン家の監視官のひとりとして、母と兄とともに任務に向かうのだった。


 代々監視官をつとめるグリフィン家の一員として、意識は高いが15歳に満たないというだけで認められてもらえず、のけ者の気分を味わうグレース。グリフィン・マップの部屋にひとりでいるときに門が光った誘惑には、あらがえなかった。「ちょっと行って、すぐ解決して戻るから」のつもりだったのに、そもそもが自分の性格につけ込まれた陰謀だったと判明する。
 13歳という微妙なお年頃の女の子が主人公だ。本人は「もう子どもじゃない」と思っても、周りから見ればまだまだ子ども。そのあたりの背伸び具合、背伸びして失敗してしまう感じ、失敗もあるけどできることもある、という等身大の13歳が、生き生きと描かれている。ファンタジー作品だが、ファンタジー世界よりもグレースのほうが印象に残る。意思の強そうなグレースのイラストもいい。
 主人公の年齢のわりに、ページ数も薄くコンパクトな本だが、本書のいちばんの目的はディスレクシアの子、読書にコンプレックスがある子も楽しめる本づくりだ。段落ごとに1行空きがあり、フォントやレイアウト、紙質も配慮されている。登場人物にディスレクシアの子がいるわけではない。読者は自分のコンプレックスを意識させられることなく、純粋にファンタジーの世界を楽しめる。しかも、周りからは未熟だと思われつつも頑張るグレースの姿は、大きな励みになるに違いない。読者によっては、これが初めて読めた本、ということもあるだろう。難なく読書ができる小学校低中学年の子どもから、困難を抱える中高生まで、幅広く楽しめる本である。
 逆にいえば、これだけのページ数でこれだけの世界や人物を描けるのは作者の手腕だと言えよう。地図の門をタッチするとその場所に行けるという具体的でわかりやすい設定、おとぎ話のような村、なつかしい電話ボックスを彷彿とさせる赤い通信ボックス、ユニークな小道具や魔法や科学技術の共存。過去と未来が盛り込まれ、読者も読者をサポートする側も楽しめる物語となっている。
 ディスレクシアに配慮した本は、欧米でも日本でも増えている。本書も、同様の配慮をしたうえでの翻訳出版が望まれる。


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