On Silent Wings

メンフクロウのコスは、まだ狩りのしかたも身につかないうちに母を失い、森のなかまに支えられながら生きていく。一方、港町では巨大なラットのフェリカル皇帝が邪悪な力で世界征服をたくらんでいた。善の手にあれば善の力を、悪の手にあれば悪の力を強める〈聖なる羽根〉をめぐり、森のなかまたちとネズミ族の戦いが繰り広げられる。

作者:Don Conroy
出版社/出版年:複数あり
    Kildanore(1989年初版)
    O'Brien Press(1994年初版)
    (本資料はO'Brien Press版にて作成)
ページ数:240ページ
シリーズ:全3巻
ジャンル・キーワード:ファンタジー、動物


作者について

アイルランドの作家・画家・自然保護活動家・タレント。子ども向けの本を数多く執筆し、挿絵も手がけている。動物を主人公にした本が多く、そのほか魔女や吸血鬼が登場する本や、絵の描き方の本も手がけている。邦訳はない。

おもな登場人物

● コス:メンフクロウの男の子。狩りを教わっている最中に母を失い、古城のすみかにひとりで暮らす。
● ノクチュア:コスの母親。賢く、森の動物たちに信頼されていたが、人間のしかけたわなにかかり命を落とす。
● シマー:ミヤマガラスのリーダーで、聖なる羽根の守り手。ノクチュアの友人。ノクチュアが死んだことを知り、コスを支える。
● クラッグ:キツネ。ノクチュアの友人。つれあいのアズレイとともにコスを支える。
● ボーソン:アナグマ。予知夢を見る。
● フェリカル:ネズミ族の皇帝。聖なる羽根の力で邪悪なラット王国を復活させようと目論んでいる。もともと人間の研究所で育った実験用ラットで、巨大。
● ハック、スパイク、スラッシャー、ラトゥス:フェリカルの側近のラット。
● スカイター、ウィザー:フェリカルに協力するハイイロガラス。

あらすじ

※結末まで書いてあります!

 さえわたる月夜の晩、メンフクロウのコスは母ノクチュアに狩りを教わっていた。季節は冬に向かっていて、獲物は少ない。厳しい自然のなかで生き抜くすべを伝えていくノクチュアだが、農場の杭にしかけられていたわなにかかり、命を落とす。ひとり残されたコスが悲しみに沈んでいると、キツネのクラッグとつれあいのアズレイがあらわれた。わなにかかっているのが友だちのノクチュアだと知ると、コスを気づかい、夜の冷気も命取りになるから帰ったほうがいいと声をかけた。
 夜が明けても、コスはノクチュアのそばを離れられないでいた。日中いるはずのないメンフクロウの姿にミヤマガラスの群れが気づき、コスのまわりにおりてきた。リーダーのシマーは、杭からだらりと垂れているノクチュアを見て事情を察した。シマーも、自分はノクチュアの友だちだと言い、コスの助けになることを約束して飛び去った。人間がくる気配があったので、コスはかくれた。ふたりの人間がきて、有益な鳥であるフクロウがわなにかかっていたことにショックを受けながらも、フクロウの標本を作るのもわるくないと話した。人間はノクチュアの遺体を持ち帰り、コスはすみかの古城へ帰った。

 その頃、港の船着場では6匹のラットがフェリカル皇帝の到着を待っていた。外国船に乗ってやってきたフェリカルは、ネコ並に巨大で、恐れを知らないラットだった。その晩、フェリカルは町じゅうのネズミ族を集め、ネズミがすべての生きものの頂点に立つと演説し、盛大な宴を催した。その後、フェリカルは側近のハック、スパイク、スラッシャー、ラトゥスを集め、古代から伝わるラット王国をついに発見したと興奮気味に語る。フェリカルがいなくなると、ラトゥスが衝撃的なことを言った。フェリカルとラトゥスは人間の研究所で生まれた実験動物だというのだ。この発言が聞こえていたフェリカルはラトゥスをかみ殺し、ラトゥスが話したことはすべて嘘だと言った。
 フェリカルは側近を連れ、ラット王国の正確な場所を探すべく荒野に向かった。たどりついた場所は人間の墓地。うす暗い地下道をたどると奥に広間があり、中央にラットの姿が刻まれた石柱がそびえていた。

 ひとりになったコスは、クラッグに助けられたり、ときには農家のネコに襲われそうになったりしながらも、どうにか生きていった。コスの両親と親しかったというトラフズクのバークウッドも、ときどき食料を届けてくれた。コスが狩りの範囲を広げて飛んでいると、どこかからメンフクロウの鳴き声がきこえ、たどっていくと鳥小屋があった。その中に兄のドリアードがいた。車にぶつかって怪我したところを人間に保護されたという。
 鳥小屋から離れられなかったコスは人間につかまった。鳥小屋の主は鷹匠で、めずらしいタカやワシを集めていた。どの鳥も自由を夢見ては脱走に失敗し、絶望に沈んでいた。ある日、コスは近くにシマ―がきていることに気づき、クラッグへの伝言を頼む。クラッグの助けでコスとドリアードは鳥小屋を出て、古城のすみかへと帰った。
 やがてドリアードは雪のように白いスノードロップと結婚し、3羽での暮らしが始まった。夏になると5羽のひながうまれた。コスは手狭になった古城を離れ、クラッグのすみかの近くにある樫の木に住みはじめる。クラッグとアズレイにも4匹のこどもがうまれ、にぎやかだった。
 一方、アナグマのボーソンはラットの悪夢に悩まされていた。ボーソンは予知夢を見ることがあり、クラッグがアズレイと出会ったのも夢のとおりだった。たしかにラットを見かけることが増えていて、気がかりだった。ボーソンはまた、聖なる断崖にワタリガラスが集まっていると聞き、不安を感じていた。

 フェリカルの手下にハイイロガラスのスカイターとウィザーが加わった。ふたりの使命は、ミヤマガラスのリーダーを探し、聖なる羽根のありかをつきとめることだった。聖なる羽根は強力な魔力を持ち、カラス評議会が守っている。カラスのもとにある限り平和が保たれるが、悪の手に落ちると破滅をもたらす。スカイターとウィザーはシマーがリーダーだとわかるとあとをつけ、聖なる羽根が隠されている塔をつきとめた。そして聖なる羽根を盗み、ラット王国の広間に運んだ。その晩、ネズミ族はラット王国への大移動を始めた。
 聖なる羽根をなくしたシマーは裁判にかけられることになった。冬になる前に羽根を取りもどさないと、すべての鳥は空から落ち、二度と飛べなくなる。コスと森の仲間たちは手分けして羽根を探した。森じゅうを飛び回っていたコスは途中でボーソンと会い、墓地の地下に何百何千というラットや野ネズミが向かっていたと聞く。ボーソンは子どもの頃に聞いたラット王国の話を思い出した。その恐ろしい王国が復活したのかもしれない。そして聖なる羽根が関わっているかもしれなかった。
 コスは墓地に急行し、ラット王国に侵入した。ウィザーに見つかって襲われたが、駆けつけた森のなかまたちに助けられ、無事に聖なる羽根を奪い返す。捕われたフェリカルは最後まで抵抗した。スカイターの背中に乗って空へ逃げたものの、ハヤブサの一撃を受けて波間に消えた。聖なる羽根はカラス評議会に届けられ、もとの場所に安置された。シマーの名誉も回復した。

 コスがはじめて外の世界へ出てから1年が経った。ドリアードとスノードロップは人間が設置した巣箱に引っ越すことになり、コスは古城にもどった。ある日、コスは美しいメスのメンフクロウ、クラノグと出会う。クラノグは車にひかれそうになったところを人間に助けられ、この森にやってきたばかりだった。コスは森を案内しようと、クラノグとともに飛びたった。静寂の翼に乗って。   

 日本と同じ島国アイルランドを舞台にした、鳥と動物たちの物語だ。情景描写は美しく、作者自身の手による動物たちのイラストも、深い愛情があふれている。
 本作は、わなにかかったメンフクロウが作者のもとに運び込まれ、獣医に連れて行く途中で死んだという悲しい実体験がきっかけになって書かれた。その日の晩、第1章を書きあげたという。森の動物たち対ネズミ族という構図は、平たく言えば善と悪の対決だが、説教くさくなく、純粋に動物たちの勇気と友情の物語として楽しめる。第1巻と第2巻では激しい戦いが繰り広げられるが、第3巻ではネズミたちも同じ動物として、共存する未来を模索する。
 長年の観察に裏打ちされた、鳥や動物たちの描写がとにかく豊かで、非常に多くの生き物が物語を彩る。生態だけでなく、季節のうつろいも、にぎやかな繁殖の季節から厳しい冬までリアルに描かれている。また、人間(作中では動物たちにヌシャム(Nusham ― Humansのアナグラム)と呼ばれている)は、わなをしかけたり銃で狩りをする、動物たちをおびやかす存在として描かれる一方、動物を保護して自然に帰す姿も描かれている。最後にドリアードとスノードロップが住む巣箱も、自然保護の一環として設置されたものだ。
 動物を主人公にした数々の名作に劣らない作品であり、長年アイルランドの自然に親しみ、自然保護活動に取り組んできた作者ならではの物語だ。鳥が守る「聖なる羽根」には古代から伝わるとされる歌もあり、物語のなかで鳥たちは鳥たちの、ネズミたちはネズミたちの歴史があることがうかがえる。
 是非、アイルランドと同じように緑に恵まれた日本でも、子どもたちに読んでほしい本である(小学校高学年程度から)。
 

シリーズ紹介

第2巻 Wild Wings
1本の木が切り倒された。木のうろにはチョウゲンボウの巣があり、母鳥があたためていた卵は1つを残しすべて割れてしまう。唯一残った卵は鷹匠に保護された。無事に卵からかえったヒナは、年老いたワシのカペラにベガと名づけられる。「お前は大空をはばたくために生まれてきたのだ」というカペラの言葉に背中を押され、ベガは自由を求めて鳥小屋から逃げ出す。一方、外の世界ではフェリカルよりも欲深く凶暴なラット、ナタスがネズミ族を支配し、再び脅威となっていた。森のなかまの一員として、ベガも命をかけて戦いに挑む。

第3巻 Sky Wings
ハヤブサのセイサーは前回の戦いで両親をなくした。聖なる断崖を守る評議会は、セイサーを聖なる羽根の守り手として教育することに決める。その頃、ネズミ族は賢く信頼もあつい白ラットのスプークを中心に平和に暮らしていたが、町の開発で生活がおびやかされ、ラット王国への引越しをよぎなくされる。ところがラット王国の奥深くに眠っていた悪の権化が目を覚まし、スプークたちの意思とはうらはらに森は血に染まる。老フクロウの助言を受け、森のなかまたちは決死の覚悟でラット王国に向かった。セイサーは聖なる羽根をたずさえ、闇にいどむ。

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