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【市会議員への道】役人が作成する文書の巧妙な表現 ~飛騨市税務課の事例から考える~

関西在住の地方公務員で、市会議員をめざしている、みきやと申します。同じ地方公務員として気になるニュースがありました。気になったのは事案そのものよりも、そのあとに自治体側から発出された文書です。

結論を言うと「『に』と『な』で大違い」ということです。


飛騨市税務課の事案

8月の終わり頃、ネットでこのようなニュースを見かけました。

報道によると、3月中旬以降処理すべき課税業務を放置した結果、1000万円ほどの課税漏れとなったそうです。民間企業で言えば売上を1000万円回収し損ねているわけで、深刻な事案です。

ただしその背景には上司である係長の休職が関係しており、この職員は2週間上司がいない状態で業務をこなさなければならなかったとのこと。この職員は減給処分を受けましたが、依願退職したとのことです。

報道を見て思ったこと

職員がかわいそう

この報道を見て、最初に思ったことは「この職員さん、かわいそうすぎる!」でした。係長が休んだ分の仕事が回ってきて、それの処理が間に合わなかった結果処分されるなんて、そんな組織やめて正解だとも思いました。

ちなみにこの件で、なんと病気休職中の係長も処分されています。メンタルを壊された上に休職に追い込まれ、おまけに減給処分なんて、生涯賃金にどれほどのインパクトを及ぼすのか計り知れません。早々に体調を取り戻されることを祈っております。

係長と2名体制だったのが1名になったという事は、仕事量が倍になったという事ですよね。そんな状況を放置した管理体制に問題はなかったのでしょうか。課長級以上の管理職も何らかの責任を負うべきなのでは、と思っていました。

みんな同じことを考えるものだなあ

そうすると8月26日に飛騨市が追加で報道発表をしていました。詳しくは飛騨市のホームページに載っています。

ここで挙がっていた問合せは主に

  • ひとりで処理していたのか、その職員に押し付けていたのではないか

  • 人員配置は適正だったのか

  • なぜ係長、係員を処分したのか

というもの。当初の報道を見ると誰でもそう思いますよね。多くの人々が同じような思いから飛騨市に問合せをされたのだと思います。広聴部門の方は大変だったでしょうね。

飛騨市の回答を読んで思ったこと

2つの疑問

ここで飛騨市が回答をしているのですが、私はこの回答を見たときに2つの疑問がわいてきました。その2つとは

  • 1人あたりの事務が相当過剰になっていたのではないか

  • 実質的には増員とはいえないのではないか

というものです。なぜそう思ったのか、私なりの考察を書いてみました。

1人あたりの事務が相当過剰になっていたのではないか

「語るに落ちる」とはこのことだなと思ったのが、飛騨市の回答にある次の文言です(太字はこちらで太字にしています)。

当該事案の原因等​
「国の定額減税及び調整給付金に関する事務の増加

第1報

「確定申告期間など作業のピーク時は課員全員で対応しています。その後の課税作業は、担当係員4名(主担当1名+補助者(係長含む)3名)で組織的に分担して作業を行っており、例年同様の体制です。」
「係長が病気休暇となった後、直ちに会計年度任用職員の募集を行い」

第2報

定額減税にかかる対応により事務が増加していると認めておきながら、例年同様の体制をとったということは、この時点で1人あたりの業務量は例年よりも増加していたことは明らかなのではないでしょうか。

そして係長の休職後、人員を2名補充しています。採用の補充には人事当局との交渉も必要ですが、当初から2名採用を考えていたという事は、1名の欠員に1名の補充では足りないということを組織としても認めていたと考えられます。

1名の欠員に2名の補充なので、増員しているように見えますが、次に述べるような理由から実質的に増員といえないのではないかと思われます。

実質的には増員とはいえないのではないか

実質的に増員といえないと思われるのは、次の2つの点からです

  • 会計年度任用職員であること

  • 「新たに」配置した職員と「新たな」職員配置があること

具体的に飛騨市の報道発表を見てみると、

「令和6年6月3日より会計年度任用職員2名を新たに税務課に配置しました。うち1名は税務知識と経験が豊富な方です。」
「加えて、他部署からの異動により同年7月1日より税務経験のある新たな係長、同年8月1日より税務経験のある新たな担当職員を配置しました。」

第2報

同じ文章の中で「新たに」と「新たな」という2つの表現が出てきます。ちなみに上記の2文は同じ段落に使われています。

会計年度任用職員2名は「新たに」なので増員です。が、病気休職で出て来られない係長がいる状態なので、1名採用したとしても実質的にプラスにはなっていないでしょう。2名となっていてわざわざ1名は経験者と書いているので、もう1名は軽微な作業のお手伝いレベルのことしかできない職員ではないかと推察されます。そしてどちらも会計年度職員。人数としてはマイナス1に対するプラス2ですが、本当の意味で増員と言えるのかわかりません。

問題は後半の表現です。異動により「新たな」職員を配置、とあります。

異動してきたらその方は当然、「新た」職員です。異動により職員を新たに配置したとは書いていません。つまり単なる人事異動で、他の職員が抜けたことには触れず、さも職員が増えたかのように書いている可能性が高いです。直前の文には「新た」という表現を使っているので、意図的に使い分けていると考えるほうが自然でしょう。

行政として責任ある対応をしたのであれば、「○名の体制を△名の体制に増強した」と書けばいいのですが、そう書けない事情があるような気がしてなりません。

日本全国の自治体で同じような状況におかれているところは多いと思われます。人員体制が適正化され、持続可能な組織運営になることを願っています。

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