History#5 世界とつながること
答えのはやい時代
なんでも答えのはやい時代になりました。スマホひとつであっという間に求めている答えが見つかります。便利で手軽な世の中だというプラスの側面もあるのですが、わたしは手元のスクリーンばかりを見ている人々に(わたし自身も含め)、ある種の怖さを感じています。わたしたちにはまわりの世界がほんとうに、リアルに、見えているのか?と。
もともと人というのは見たいものだけ見る性質があります。最近はAIなどの学習によって選別され、それがさらに強化されているように感じます。興味のあることの外側にあるものには目の触れる機会すらありません。それでいいのだろうか、と思うのです。じぶんとおなじ考え方をする人と一緒にいれば平和かもしれませんし、楽かもしれません。でも、世の中にはじぶんの考えだけでは到底およばない、千差万別の広い世界がひろがっているのですから。
その世界とつながること、逆に言えば簡単に他者を排除しないために、じぶんとちがう考え方をする人の、じぶんの望んだ答え “以外” のものをも見ることに重要な何かがあるとわたしは感じています。そうすれば、差別や不理解がなくなり、もっと人と人の世の中は優しさに満ちるのに、と思うのです。
リアルに世界をあるくこと
こう考えるようになったのには、思春期に英国で生活をした経験がわたしにあるからかもしれません。留学をした経験があるからかもしれません。留学してきた世界各地からの同級生がいたからかもしれません。言語や文化のちがいからくるコミュニケーションのむずかしさと、それでもなお通じ合えたり思い合える、おなじ「人間(ヒト/ホモサピエンス)」としての喜びを経験しているからかもしれません。
こういった背景から、制作の際には「じぶんがリアルに世界をあるくこと」をまず大切にしています。知らない街へ実際に赴き、その土地土地の人の営みを見ることや知ること、感じることが制作のインスピレーションになります。また、展示の機会をいただいたときには、その展示場所に関わることから始めることにしています。
2014年にgallerismでの展示の機会をいただいたときには、会場となる施設がある大阪市北区の天満橋周辺を100日あるき「Walking in Tenma Project」を制作しました。
2015年の箕面の森アートウォーク参加の際には箕面公園を行ったり来たりして色を集め、その色をまたそこへ戻すという「Walking in Minoh no Mori Project」を、箕面市での個展ではギャラリーのある桜井市場をあるき色を集め「Touch the boundary」というシリーズを制作しています。
台湾の高雄市でアートフェアに参加したときには、高雄市の色を集めて、帰国したのちに「KAOHSIUNGシリーズ」の作品を制作しました。
あるいた風景から色を採集すること
リアルにわたしがあるいた風景のなかから色を採取して作品を制作する。抽象化されたそれを観てもらい背景にはどんな風景があったのかを想像してもらう。観賞者自身に答えを探してもらい、想像力をあらためて呼び起こしてもらいたい。そんな思いが強くありました。
また、留学中にメインのモチーフとなった水平線ですが、それを立体的に捉えるようになりました。作品そのものが、わたしのリアルに見た風景とあなたとの間にある境界線である、ということ。伝わるでしょうか? 作品のなかでは「白い面」として表現していたものですが、境界線があるとして、それを立体的に白い面として可視化する。それを一部切り取ったものがわたしの作品であるという立ち位置になります。