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History#4 英国留学|2|
ある種の真理への到達を予感
水平線も地平線も英語では「horizon」と表現します。平行線という意味の言葉です。日本語の「平行線」には「交わることができない」という若干の負のニュアンスも含まれますが、horizonには物理的に平行であるという意味があるだけです。むしろ「“視野”を拡げる」という慣用句にも使われるような、世界の広さや意識の広さ、物事のあたらしい地平を思わせる広がりがあります。
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英語を使いながら生活しているなかで、眼のまえに広がるこの水平線と英単語の奥に潜む意味がイメージとしてつながったとき。それと同時に「交わることのできない」「平行線」に感傷的になったとても日本人的なじぶんと、それを俯瞰しているわたし。交わらないとしても、ずっと並行してそこに有ってくれる水平線への憧憬。自己と他者の真実。
その境界にあるものこそがわたしの作品と制作なのではないのかと、ある種の真理への到達を予感しました。英国に来て数ヶ月あるきつづけたわたしの、このときの閃きを想像していただけるでしょうか。わたしは、水平線と地平線を哲学的に根拠とした、「境界をあるき境界を描く」美術家として生まれなおしたのです。
境界をあるき境界を描く
境界をあるき境界を描く美術家として、じぶんと世界を、また、あなたと世界をつなぐものを作るという意識が芽生えました。それが社会への貢献になると考え、いまも制作をつづけています。
わたしが英国留学の初期にやっていたことは、水平線の向こうに想いを馳せることでした。向こうに手が届かないとしたら、どうすれば向こう側を知ることができるのか? 向こう側を知るための内省がはじまりました。それが深まることで、もしかしたら他者への理解も深まるのではないか。そこには、向こう側を知ろうとする、人が本来もつ「想像力」という美しいちからがはたらくのではないか。これはヒト特有の、人が備えもつとても美しい能力のように思いました。
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境界をあるき境界を描く美術家のわたしは、その境界に作品を置いて、人のもつその美しいちからを思い出させたいんだ。それを呼び起こすような役割を作品に与えたいんだ。他者を本当の意味でぜんぶ理解することなど不可能であると思います。けれど、それを可能な限り理解しようとする人間が美しい。そんな人間が増えれば世界はやさしく平和がひろがるはず。そんな思いをこめながら、作品の向こう側にあるもの、向こう側にいる他者と観賞者をつなぐのが、わにぶちみきの作品です。
英国をえらんだ理由
さて、大学院への留学期間はわずか一年でしたが、英国でこれだけの何かを受けとることができたのには、10代の頃の英国での滞在経験が関係してくるような気がしています。
わたしが初めて渡英したのは14歳のころでした。父の仕事の都合で家族いっしょに3年という期間限定で英国に滞在します。そこでわたしは日本の美術教育では得られなかった、わたしの芯をかたち作る大切な経験をします。
そんなお話を次回書いてみようかなと思いますので、お楽しみに。
https://mikiwanibuchi.com/index.php/2012/03/17/2012-works-final-phase/
https://mikiwanibuchi.com/index.php/2012/03/17/boundary-line-for-her-2/
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