「丸亀製麺」ロンドン1号店でのパフォーマンスについて、後日談
先日公開した丸亀製麵さんロンドン1号店、オープニング最初の週末に開催されていたパフォーマンスについて、問題提起をした記事に、たくさんの反応をいただきました。感想、ご意見、ご指摘、どれも大切に読ませていただきました。ありがとうございました。
今回、イギリスの丸亀製麵の社員の方と実際に会ってお話しする機会をいただきましたので、そのご報告と、それをふまえて私が考えたことをこの記事には綴りたいと思います。
noteやインスタグラムのストーリー、またイギリス丸亀製麺さんのインスタグラム投稿のコメント欄で、本件に関する私の意見を発信したところ、Marugame Udon Europeさんのマーケティング担当の方からメールでお誘い頂き、お会いする運びとなりました。
私自身は着物や日本文化の専門家ではない旨、お伝えしたうえで、ロンドンに住む日本人いち個人としての意見が少しでも参考になるのであれば...という気持ちで伺うことにしました。また、私は丸亀さんのロンドン進出をとっても楽しみにしていたファンの一人なので、今後の丸亀さんへの期待も込めて、彼らのお話を伺いたい気持ちでした。
先週末、ロンドンはリバプールストリートに位置する丸亀製麵さんのロンドン1号店に再訪しました。Marugame Udon Europeのお二人にお出迎え頂き、じっくりと会話してきました。
今回訪れたのは週末の15時、ピークは過ぎていたので行列はありませんでした。開店からもうすぐ1ヶ月ですが、今でもピーク時には30分ほど並ぶそうです!人気!
私からお話ししたこと
基本的には私がnoteに書いた記事を元に、皆さんからお聞きした意見を反映しながらお話しました。
あの記事を書いてから、ずっと考え続けてきましたが、やはり先日のパフォーマンスは「cultually insensitive 文化的配慮に欠けている」と考えますし、何より私が一番伝えたかったこと。それは「Authentic 伝統的」な日本を売ることを重視している丸亀製麵さんが、海外で先日のパフォーマンスをしたことはふさわしいことだったのか、という点でした。
特に時間を割いてお話をしたのは、
着物が「日本人の一生に寄り添った衣装」であること。
お宮参り、七五三、成人式、結婚式、お葬式....人生の節目といえる様々な行事で、今も着物を着るという選択肢が、日本人の生活にはあります。だからこそ、どうしても着物に対しては思い入れが強い人も多く、基本的な決まり事でもある「合わせ」の間違いがタブーだと感じる人も多いこと。
また、「ゲイシャ」というイメージや言葉が、海外において日本とは違った認識で広まっていることへの違和感がある日本人も、特に海外在住者の中では多いということ。
少々リサーチしたところ、今回のパフォーマンスの派遣元と思われるエンタメ会社さんを見つけましたが、エンタメ会社さんは、このコスチュームを「Geisha ゲイシャ」であると表記しています。サービス概要の説明をみると、日本っぽい衣装も、中国っぽい衣装も、まとめて「ゲイシャ」のコスチュームとして提供しているんですね。文化をリスペクトしてサービス提供しているというよりは、簡単に実現する「日本っぽさ」「アジアっぽさ」をウリにしたエンタメ会社さんなのかなと感じました。
丸亀さんでこのパフォーマンスを採用したことは「ゲイシャ」の誤ったイメージや「安易な日本ぽさ」を発信していたように見えたこと。これは本来丸亀さんが目指していたマーケティングとは違う方向性になってしまうものではないか、ということも指摘させていただきました。
また、「こんなパフォーマンスだったら楽しかっただろうな...!」というような代替案も、僭越ながら私から提案させていただきました。
丸亀さんは、(一般人でしかない私のお話でしたが)とっても真剣に、質問を交えながら積極的に耳を傾けてくださいました。今回このパフォーマンスを採用した理由について、私からも質問させていただきましたが、振り返ってみると担当者さんご自身も「culturally insensitive」であったと感じているそうで、お詫びの言葉をいただきました。(でも、私は丸亀さんが誰かを不快に思わせるような意図で今回のパフォーマンスを採用したわけではないことはそもそも明らかで、重々承知なので、なんだか申し訳ない気分でもありました...)
Marugame Udon Europeさんからのお話
丸亀さんも、今回の意見を踏まえ、内部できちんと話し合いをしてくださったこと、お話の中からしっかり伝わってきました。
・日本のチームとの連携を強めること
・日本の丸亀における新規開店時のパフォーマンスを参考にすること
・イギリス現地の日本人や日本関連のテーマを扱うアーティストさんとのコラボレーション等を検討すること
などなど。とても前向きで、ステキなアイディアをたくさん聞かせていただきました。
この点については、私からも、これまでのイギリスでの丸亀さんのマーケティングがすごくステキだったこと、お伝えしてきました。(むしろ、どれもステキだっただけに、今回の件がショックだったのです)
イギリス現地の漫画アーティストや日本をテーマにしたストリートアートのアーティストとのコラボレーション、折り紙を使ったイベントなど、どれも日本らしさと、ロンドンで支持されるようなアートを掛け合わせていて、感心しながら見ていたのです。
次はロンドンの「O2」という商業施設内に第2号店のオープンを間近に控えている丸亀さん、良いものにするという強い意気込み、とっても伝わってきました。
また、品質管理の担当者さんからは「日本と同じ味」を届けるための苦労話や、そのための工夫についてお聞きしました。日本を発信するブランドとしての誇りや責任感が伝わってきて、聞いている私まで背筋が伸びるようでした。味に限らず、ブランドとして「日本らしさ」と「現地で馴染むもの」のすり合わせは今後きちんと内部で検討、議論し、進めていきたいと、とっても頼りになるお言葉をいただきました。
私が感じていたモヤモヤは晴れましたし、こんな心強いお二人が率いるチームなら、きっと今回の件を反映してより良いステキなお店作りをしてくださるだろうと、私も信頼の気持ちです。
また、私の意見をきちんと汲み取ってくださったことを知り、お客さんを大切にしてくださっている様子も伝わってきました。
新規店が続々とオープンの予定なので、丸亀さんがロンドンに日本の良い風を吹かしてくれること、期待しています!
日本にはないメニューの白湯うどんをご馳走になりました。美味しかったです。アジアの店舗で既に展開しているメニューで、とんこつラーメンが人気なロンドンでは馴染むだろうと取り入れたんだそうですよ!次は、イギリスで新たに開発されたメニューだという「ビーガンカレーうどん」をぜひ試さねばと思っています!!
一連の出来事を通して、私が考えたこと(長文です)
今回、丸亀さんのお二人とお会いするにあたり、問題提起するにしても、なんだか大ごとにしすぎたと、もっと別の発信方法があったのではないかと、自分自身の反省の気持ちもあり、そんなこともお話してきました。
企業さんに対し、どんなふうに意見を伝えるべきかというのは、なんだか難しいと感じます。(SNSで発信する前に私は企業宛てにメールを送ったりとしていたのですが、返答は無かったです。)
また、皆さんから様々なご意見を頂いた中で、「着物」や「文化」は発展するものだから、その着方や着崩し方に文句をつけるのはナンセンスだというご意見も多数いただき、私の心に響きました。
私も同意見で、着物は「ファッションアイコン」なので、様々にアレンジされて着崩され、着物をインスピレーションとしたドレスや衣装も登場する現代。「着物をルール通りに正しく着ること」が必ずしも絶対的に大切なこと...だとは思っていません。外国人が着物を着ることも、着崩したり、アレンジしたりして着ることも、私は賛成です。ファッションとしておしゃれに着物を取り入れている姿を街で見かけると、私は心がうきうきします。(実際、V&A美術館で開催された「着物展」にて、そんな来場者をみかけました。とてもステキでしたよ)むしろ、日本のアイテムが人気なのは誇らしいです。
(とは言え、外国においても、着物が単なるファッションアイテムなだけではなく、日本では文化的な役割を担う面も知ってもらった上で、ご自身なりのリスペクトを持って気軽に身に纏っていただくことができるなら、それがベストだなという想いは強くあります。そう願う私は欲張りでしょうか...)
着物はファッションアイテムで、誰がどんなふうに着てもいいもの。私は着物が自由であることを認める一方で、先日のパフォーマンスはふさわしくなかったと、どうしても感じるんです。
私が今回のパフォーマンスにこんなにも憤りを感じた理由、それは「コンテクスト」によるものであったと思います。
「Authentic 伝統的 」をウリにしている「日本ブランド」の肩書の元で発信されたから、私は怒ってしまった。日本のブランドだからこそ、日本の文化的な要素を発信する時には、注意を払ってほしかったのです。
伝統がウリの日本ブランドがやっていることは、イギリスの一般の方から見たら、どんな内容の発信であっても「これが本物の日本なのだ!」と思うのではないでしょうか。
それを見た私たち日本人にとって、このパフォーマンスは、海外で発信したい日本のイメージだった?でしょうか。
この特殊なコンテクストにおける相応しさを、私は問題提起したかったのです。
今回と同様のパフォーマンスも、他の開催者による他のイベントであれば、違和感こそあっても、私がここまで怒るようなことはなかっただろうと思います。
例えば、今回丸亀さんが利用されていたと思われるエンタメ会社さんの同様のパフォーマンス、2019年のラグビーワールドカップが日本で開催された際に、イギリスのラグビー・カウンシルが開催したイベントでも登場しています。(着物が同じなので、おそらく同じエンタメ会社さんでしょう)
イギリスのラグビー・カウンシルが、開催国である日本を意識した「日本っぽいパフォーマンス」でイギリスの皆さんと大会を応援する気持ちでイベントを盛り上げる... このコンテクストでなら、私はこのパフォーマンスが必ずしも「間違っている」「ふわさしくない」とは思わないかなと思うのです。
(しかし、誤解を生むという点は大いにあると思うので、とても良いパフォーマンスだと評価したいわけではありません。)
何が良くて、何がダメなのか.... 文化に関する議論はとても線引きが難しい。
ちょっと変だなと感じる日本語表記や、日本イメージのレストラン。そういったものをロンドンの街並みでみかけると、「日本が好きなんだな、日本は人気なんだな」と嬉しく感じる一方で、登場するヘンテコな日本が増えれば増えるほど、私は「日本というイメージがひとりあるきをしている」と、なんだか不安な気持ちにもなります。この感覚は何なのだろう...
先日、丸亀さんの件を熟考している中、イギリスの有名チェーンレストランのプロモーションビデオが炎上しました。
白塗りの「ゲイシャ」さんが、人力車に乗ってレストランへ行く動画でしたが、そのコメディ的な描かれ方が、人種差別やアジア人に対するステレオタイプを助長するものであるとして、大炎上。レストランはビデオを取り下げ、お詫びのメッセージを掲載するに至りました。
このレストラン「The Ivy Aisa」は、老舗の「The Ivy」というレストランが新たにローンチしたアジア系料理の専門店。ですが、この動画より以前にも、「アジアっぽさ」をウリにしたお店のコンセプトそのものを批判され続けていました。(また、私も以前セクシーゲイシャ風のプロモーション画像を不快に思い、インスタグラム上で意見を掲載したことがあります...やっとここまで大きく非難されるようになったのか、というのが私の正直な感想です。)
ビデオが削除されてしまっていて、お見せできないのが残念ですが(The Ivy Asia video等のキーワードで検索したらまだ出てくるかも?)... 私がこのビデオを見て感じたのは、私は不快に感じたけれど、このコメディを「面白い」と感じる人もきっといるだろう、ということでした。
私はふさわしくない表現だったと強く感じていますが、これは「コンテクスト」というよりも、人種や文化の特徴を面白おかしく取り上げてしまったことが問題であったのかなと考えます。
「文化盗用」という考え方がある、という点にも先日の記事では触れましたが、考えれば考えるほど、この考え方の定義は難しく、今の私は一言で言い表せる自信がありません。
ある人は、自分のルーツに関係のない文化を利用するのはすべて文化盗用
ある人は、他者の文化を利用し、そこに経済的な不利益がうまれた場合
そしてある人は、尊敬のない文化利用は文化盗用だと...
以前にも何度か、似たようなテーマを考えて書いてみたことがあるのですが、その頃から私の考えも変化し続けて、いまだに私の答えは出ていません。
今回、丸亀さんのパフォーマンスを見て、よくよく自分で考えて、また様々なご意見を元にさらに学んで考えて...
The Ivy Asiaさんのタイムリーな炎上で、またも「アジア」とは「日本」とは「日本人」とは「文化」とは....と、考えに考えることとなり...
なんだかひたすら考えた日々でした。そして、こうやって「考える」ことで見えてきたものもあります。
まず、「文化」はとても難しいけれど、発信者にはリスペクトの上にコンテンツを作っていってほしいということ。リスペクトの欠けた安易な決断や選択は、大切にしたかったものまで見失うようなコンテンツを作ってしまう可能性がある。
私自身も規模は大きく異なりますが、発信者として気を付けていきたいポイントです。
そして、意見を交わすことがとても大切だということ。
私の先日の記事は、事件の直後で感情的だった面もあり、かなり未熟な書き方だったと振り返ります。その記事へたくさん意見もいただいたからこそ、私自身もっと考えを深める努力をすることができました。
まだまだ、私の考えは深めていく途中ですし、この記事もまだまだ未熟です。
今回の件をきっかけに、皆さんと今後も意見を交わし続けていけたらと願っています。
長い記事になってしまいました。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ご意見、感想、ご指摘いただいた皆さん、そして(一般人でしかない私と)一緒に向き合って、話し合いの時間を作ってくださったMarugame Udon Europeの皆さまへも、感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。