人はなぜラグビーに感動するのか? を「ラグビー憲章」から知る
ラグビーワールドカップ2019日本大会で、日本中がラグビーの魅力に気が付きました。その要因は、日本代表の大躍進はもちろんのこと、「試合後に会場で一列に並んでお辞儀をする」「危険なプレーをした選手が、相手のロッカールームで謝罪」「カナダ代表がボランティア活動」など、ラグビー選手のラグビー場内外の姿勢や活動が感動を呼びました。
感動を呼ぶ姿勢や活動の裏には、ラグビーに携わる 全ての人が大切にしている共通の価値(core value :コアバリュー)があります。
ラグビーをプレーする価値(コアバリュー) ~ ラグビー憲章とは
トヨタ自動車ヴェルブリッツ・姫野選手は、ジャパンラグビートップリーグ2020のPVで「ラグビーとは何か .... 命」と答えます。命、自分の人生をかけてプレーをするほどのラグビーの魅力とは何か? その答えを、姫野選手に続く、神戸製鋼コベルトスティーラーズ・ダン=カーター選手が「5 Value」であると語ります。この「5 Value」こそが、ラグビー憲章で示された5つの価値です。
ラグビー選手、スタッフ、コーチなどラグビーに関わる人が、大切にするべき価値、従う行動指針の上位概念として、ワールドラグビーによって、2009年に5つの価値(コアバリュー)が制定されました。
ラグビー憲章は、2009年に突然に設定されたものではなく、ラグビーができた18世紀から、ラグビーに関わるすべての人たちが大切にしてきた行動をまとめたものです。ラグビーは「紳士のスポーツ」と呼ばれますが、ラグビーが「紳士のスポーツ」と呼ばれる所以をまとめたものがラグビー憲章ともいえるでしょう。
ラグビー憲章(1)品位 <INTEGRITY>
ラグビー憲章の一番最初が「品位」です。
誠実であり、正直であること。誠実さに基づきフェアプレーであること、それを「品位」と称します。
ラグビーは人がぶつかる危険なスポーツです。自分と相手を守るために、「品位」が重要なのです。
例えば、ラグビーワールドカップ2019のプールA、日本vs.スコットランドの試合で、日本HO堀江選手が、スコットランドの選手から強力なタックルをされて、その場で倒れ込んだシーンがありました。そのシーンでは、当たったスコットランドの選手が、その場で手を挙げて、試合を止めました。スコットランドが押していたシーンだったので、続けていればスコットランドには有利な状況でした。悪く見れば、プレイヤーが一人減ったのも有利な状況です。その有利さを捨てても、試合の相手を尊重したスコットランドの選手は、まさに「品位」を体現しました。
ラグビー憲章(2)情熱 <PASSION>
ラグビーは体がぶつかり、怪我が当たり前の「痛い」スポーツです。それでも、なぜ人はラグビーをするのか。それは「仲間のため」「チームのため」「家族のため」「自分のため」など理由は様々です。理由は違えど、その想いが情熱となり、プレーをする原動力となります。
その情熱が、ラグビーを支え、ラグビーを面白いスポーツにしています。
先に紹介した、ジャパンラグビートップリーグ2020のPVの中で、ラグビー日本代表キャプテンである東芝ブレイブルーパス マイケルリーチ選手は「情熱がなければ、続けられない」と語っています。
ラグビー憲章(3)結束 <SOLIDARITY>
ラグビー憲章に基づき、規律を守り、品位ある行動で相手を尊重する。チーム全員がこんな行動をしたら結束は強くなります。結束すれば、さらにチームは強くなります。強くなったらさらにチームを好きになり・・・ と好循環の中で、結束が高まります。
ラグビー日本代表メンバは、国籍も年齢も様々な集まりです。価値観も経験も多様です。そのメンバが結束するためのキーワードが「ONE TEAM」です。結束を強くするために、ラグビーだけではなく日本文化を学ぶこともありました。「ONE TEAM」は自然に作られたのではなく、意識をして「結束」をした結果なのです。
ラグビー憲章(4)規律<DISCIPLINE>
ラグビーは人と人が力でぶつかる「危険」が伴うスポーツです。怪我も毎試合あります。だからこそ、試合中に規律を守ることが、安全にプレーをすることにつながります。
さらに加えると、ラグビーは戦術のスポーツです。チームで決めたことを一人が守らないだけで、チームのやろうとしている戦術は崩れ、勝利から遠ざかります。
試合中も、選手同士で「規律、規律」「ディシプリン(Discipline!)」と声を掛け合います。
ラグビー憲章(5)尊重 <RESPECT>
ラグビーは、敵味方に分かれるスポーツです。つまり、相手がいるからラグビーができる。中立的なレフリーがいるから試合が円滑に進行される。この場所を作ってくれた人、会場を準備した人、選手を支える家族やファン、その他すべての人がいるからラグビーができる。その気持ちが「尊重」です。
ラグビー日本代表のヘッドコーチ、ジェイミー・ジョセフ氏は、選手発表などの記者会見では、必ずはじめに謝辞を述べます。謝辞だけで3分以上経過することもあるほどです。まさに「尊重」を体現しています。
ラグビーワールドカップでは、試合中に相手に危険なプレーをした選手が、相手の選手のロッカールームまで行って謝罪する。また謝罪に対して寛容するシーンも見られました。
ラグビー憲章がある意味
先にラグビー憲章が策定された経緯を書きましたが、そもそも、どうして言語化されたのか。それは、ラグビー憲章の「はじめに」に書かれています。
ラグビー人口が増え、プレーヤーが多様化する中で、反則すれすれのプレーや危険な戦略が生まれてきました。いくらルールを決めても、すべての危険なプレーを罰することはできません。そのため、競技規則のはじめに、その精神、行動原則としてのラグビー憲章が定められています。
ラグビー憲章とは、プレーヤーとレフリーが超えてはいけない「境界」であると表現されています。超えてはいけない境界の中で、自分が何をすべきなのか、を考え行動させることが、ラグビー憲章がもつ本当の意味ではないでしょうか。
後記
この記事を書くにあたり、改めてラグビー憲章及び競技規則を読みました。
精神・行動原則をラグビー憲章として定めることで、すべてのプレーヤー、レフリー、コーチ、スタッフ、その他関係者が自らを律し、ラグビーを素晴らしい感動するスポーツにしているのだと思いました。
競技規則は、英語にすると RAW(法)であり、RULE(ルール、約束)ではありません。これもほかのスポーツとは違う点です。関係する全員が従うべき法ですから、基本となる思想が必要になる。それが「ラグビー憲章」なのだと知りました。
ラグビー憲章があるから、ラグビーがより感動する競技になっているように感じました。
この記事が参加している募集
サポートはラグビー関係のクラウドファウンディングや寄付に充てます(例:ブラインドラグビーのイングランド遠征)。「いいな」と思ったら、サポートをお願いいたします。