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ほんの夏炉冬扇2

今回は記事翻訳の内幕のお話。

取材通訳や記事翻訳をすると原則として自分の名前が掲載ページにクレジットされます。一般的に、紙版であれば記事の扉ページに、WEBであれば記事の終わりに小さく「翻訳:〇〇」「通訳:〇〇」というふうに日本語または英語で記載されます。

最初は自分の名前が出る嬉しさを感じるのですが、実はこれ、“〇〇が翻訳した”と掲載された本文の内容に対する責任の所在を表すためでもあります。

ただし、名前がクレジットされて内容の責任を持たされるにもかかわらず、翻訳原稿は買い取りがほとんどで、翻訳した文章の著作権は出版社側にあり、著作者人格権は認められるものの、著作権は放棄するというのが慣例になっています(この2つの権利の説明はここをクリック)。

著作権のことなど知らない小娘の頃に記事翻訳を始めたため、翻訳料は編集部の言い値で、翻訳原稿は買い取り、翻訳記事の再使用は編集部が自由にできる…というのが当たり前だと思っていました。そのため、海外のライターたちと仲良くなる前には気にも留めていなかった…というのが本当のところです。

しかし、書籍翻訳では必ず出版契約を締結するので、翻訳者の権利と印税の条件が明記されています。これを見て初めて、記事翻訳が“こなし仕事”と同列に扱われていることに気付きました。(いや、確かに、時間的な余裕のないときは思い切り翻訳マシン系こなし仕事になりますが…笑)

法律のことは詳しく知らないのでこれは憶測ですが、きっと編集部員も「著作権はオリジナルを作った人にのみある」と考えていて、その観点で「翻訳はオリジナルではないので著作権なし」とみなしているのでしょう。確かに原文がある点で著作物のオリジナルは著作者が作ったものですが、この考え方だと、著作者オリジンの著作物の翻訳は翻訳者が作った“オリジナルの翻訳文”という観点が欠如しています。

ある出版社の国際部のおばちゃん時代に「古い翻訳記事でも翻訳者の連絡先を探して再使用の連絡をしてほしい」と編集者たちにお願いしていました。ギャラが発生しなくても、少なくとも「再使用の許諾」を受けてほしい、と。

この場合、著作権を持っている海外のライターには必ず連絡して許諾を得て、再掲載料の交渉をします。それを怠ると著作権侵害で裁判を起こされても仕方ないので、それにかかる費用の膨大さで脅して編集者に自覚を促していました。ちなみに、こういった著作権侵害の裁判は著作者が居住する国の裁判所で行うため、海外在住者だとその費用は膨大になり得るのです。

現在主流のWEB雑誌の記事翻訳でも、ワード単価を最初に決める程度で著作権に関する話はなく、もちろん翻訳出版契約書もありません。秘密保持契約書に署名させられるのみです。ここから推測するに、著作権に関する取り決めがないのだから翻訳者に翻訳文の著作権はないと考えるのが筋でしょう。

それでも記事翻訳は翻訳の訓練になります。WEB雑誌では翻訳のクオリティ+スピードが要求されます。編集部の要請によって納期は異なるとはいえ、2000ワード程度の記事なら1日で仕上げられるのがベストです。もちろん、この翻訳作業には記事内の固有名詞や日本語表記などをしっかりリサーチすることも含まれます。

かつて翻訳者は与えられた文章を翻訳すればいいだけでしたが、現在はネットでいくらでもリサーチできるため、昔は編集者が行っていた校閲作業も任される流れになっています。これを面倒と捉えるか、内容を深く理解できるので楽しいと捉えるかで、AIに負けない翻訳者になれるか否かが決まるような気がしますね♬

※上の写真は凄腕ドラマー二人(長谷川浩二さんとトーマス・ラングさん)に挟まれた私。取材後にアーティストと写真を撮ることはほぼないのですが、このときはトーマスの取材後にライブに誘われて、そこに登場した日本人ドラマーさんたちとのコミュニケーションを助けた縁で何故か写真撮影に。懐かしいな〜。

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