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「新型ウイルス」とフランスでのアジア人に対する差別行為について
とうとう私にも「その日」がやってきた。
一昨日の夕方、私は家に帰る途中、日本の母に電話した。先ほど母からかかってきたのだが友人とお茶をしていて出られなかったからだ。
いつも、特に用事があっての電話ではないのだが、その日は夜中に起きた地震のこと、「新型コロナウイルス」のこと、そして「フランス人のアジア系に対する人種差別」のことなどを何となく話していた。
まさにその時だった。
向こう側から歩いてきた男がすれ違いざまに、私の顔を見ることもなく何かひとこと、大きな声で叫んだ。
私は母との日本語での会話に集中していたので、男の放ったフランス語は聞こえてはいたが全く気に留めてもいなかった。だが聞こえてきた音をそのまま単語にすると確かに男は、
「Virus (ウイルス)」
と私に向かって言ったのだった。
「なに!???? ウイルス!????」
私は、母と電話中だったにも関わらず、思わずフランス語でその言葉を叫んだ。そしてすぐさま後ろを振り返り、すれ違ったそのフランス人に向かって私は再びフランス語で、
「そいつは面白い!」
と声を張り上げた。
大の大人がそんなこと言うのは本当に馬鹿馬鹿しいし、くだらないと思えたので皮肉を込めてこの言葉を選んだ。
彼は私の言葉に振り向きもしなかった。
私は男のとった行動に甚だ呆れたが、気を取り直してそのまま電話越しの母と会話を続けた。
数日前に、同じくパリに住んでる日本人の友達も被害に遭ったことを知った。
彼女の投稿したSNSによると、どうやら彼女が犬の散歩をしていたら道すがら7、8歳の女の子に「コロナウイルス」と言われたのだ。
特筆すべきことは、相手は「子供」だということだ。
この女の子の両親、あるいは小学校の先生かもしれないが、とにかく周りの大人達が普段話していることをこの子はただオウム返しにしただけに違いない。
実は、私がこういった差別を受けたのはこれが初めてではない。
2003年のSARSの時にも私はパリのメトロで、一緒にいた韓国人の友人が小さく「咳」をした時に一度、レストランで日本人の同僚と共にランチの会計をする時にウェイターから一度、差別を受けたのだ。
まあ、その時もきちんと反論したしその場限りのことだったので、現在はそんなことをされたこと自体忘れていたが、今回の件ですっかり思い出してしまった。
きっと普段から根強くあるフランス人のアジア系差別
2000年からパリに住みだして、随分と長くフランス人と付き合ってきたから、フランス人の良いところも悪いところも十分見てきたし、よく理解しているつもりだ。フランスの会社で働き、フランス人の親友もたくさんいるし、フランス人にいろいろ助けられたことはもう山ほどある。私はフランス人が嫌いではない。
でも、それにしてもどうしてこの国の人々は8000kmも遠く離れた中国のウイルスのことでこんなにアジア人に攻撃的になるのだろうか。フランス人のこの一連の「無差別」な差別には本当に理解に苦しむ。
確か現在のアメリカとフランスの感染者の数はちょうど同じくらいだったが、果たしてアメリカでは同じようなことが差別が起きているのだろうか。
私はニューヨークにも暮らしたことがあるが、個人的にはパリでの方が差別的な被害を受けることが多いような気がする。
それは、もしかしたらきっとフランス人が普段からアジア系の人間に対して差別的な思いがあるからではないだろうか。それで、今回たまたま新型ウイルスが発生したのが中国というアジアの国だったので、普段から隠し持っている差別感情が思わず吹き出でしまったのではないのか。
実は長年、個人的に気になっていることがある。アジアにも様々な国があって、それぞれに違った文化や習慣、言語があるにも関わらず、一定数のフランス人は、それらを全部ひっくるめて「中国」と呼び、なりふり構わずすれ違ったアジア系の女性にわざわざ「ニーハオ」と声をかける行為だ。
私は全くそれを友好的とは思えない。むしろ差別に通じる危険な発言のように思う - 仮に相手が意識的にそう思っていないとしてもである。
( 誤解のないように書き添えるが、その言動はあくまでも「一定数」のフランス人であって、全てのフランス人がそういうことをするわけではない。)
親愛なるマダム、ムッシュ、
私たちアジア系の人間は決してあなたたちの敵ではありません。そして私たちだってあなた方と同じ個々の人間です。それぞれ、「個」として尊重されなけれななりませんし、第一、なりふり構わず私たちをウイルス呼ばわりしたってなんの解決にもなりません。
だからここはパニックにならず、冷静に、皆で協力しあってこの「新型コロナウイルス」の脅威に立ち向かっていきましょう。
世界中が差別のない平和な世の中になることを心から願っている。
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