[1分小説] 私と京都と「のぞみ」24号 ※フィクション10%(推定値)
幾らかの淋しさと共に新幹線「のぞみ」に乗り込んでから、数十分。
3人掛けの窓際の席に座っていた みき は、窓に体を預けながら、流れてゆく景色をぼんやりと眺めていた。
初夏を思わせるような晴天と暑さが続いた滞在先・京都での日々が嘘だったように、車窓から見上げる空には灰色の雲が垂れ込めている。
視線の先には、粒子の荒い霞んだ町並み、
白茶けた建物が流れてゆく。
遠ざかる、心安らかなひと時。
新幹線が東へ進むにつれて、
そして乗車から時間が経つにつれて、
雲は目を見張るほどに、その厚さと暗さとを増していった。
気がつくと、みきは微睡みの中へ落ちていった。
...
名古屋に停車してから、随分と時間が経ったらしい。
新横浜に到着するというアナウンスで、目を覚ました。
新横浜駅に滑り込む列車からは、すっかり外の地面が黒く湿っているのが見て取れた。
(やっぱり降り出したのね)
ここから東京までは、30分とかからない。
しかし、その間にも雨粒の存在感は大きくなっていく。
「終点、東京駅です」
ホームの安全扉と列車のドアが開くと同時に、外のザーザーという音が彼女の耳を捉えた。
指定席でよかった、思ったよりも乗車率が高かったわ、と思いながら、のんびりと手荷物をまとめる。
みきは車両から最後に降りる乗客となった。
通路に体を乗り出しながら、ふいに座席に視線を投げる。5号車15番A席、忘れ物なし。
どこにいても何をしていても、この確認をしないと、その場から移動することができない。
お姉ちゃん気質な彼女の、いつもの習慣だ。
行きよりも重く感じる荷物を手に、
ひとり、湿っぽいホームに降り立った。
(帰ってきちゃった)
止みそうにない雨が、彼女を平常運転の日常へと誘うのであった。
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