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25 訪問リハビリの日常【頑張ばりの代償】
「訪問リハビリの日常」は、私の体験をもとにしたフィクションです。登場人物は架空の人物であり、実際の出来事とは異なります。
「嘘をついたほうが良かったんでしょうか?」
そう私に尋ねたのは、60代の男性の川村さん。彼は脳梗塞の後遺症で左半身に麻痺が残り、現在は介護保険を利用しながら一人暮らしをしています。手すりやベッドなどの福祉用具のレンタルや、デイサービスや訪問リハビリ、ヘルパーなどの在宅サービスを活用しながら、日々リハビリに励み、以前は介助が必要だったことも今ではほぼ一人でできるようになりました。しかし、片手での家事は依然として大変で、麻痺に対するリハビリも必要な状態が続いています。
そんな川村さんは、今月末で切れる介護保険の更新のため、1ヵ月前に認定調査を受けました。彼は調査員に対し、「以前よりも多くのことができるようになりました。家事も工夫しながら頑張っています。」と、介護保険を利用し自分が色々なことができるようになったこと、そして頑張ってリハビリをしている事を伝えたそうです。また、「左半身の麻痺に対するリハビリも継続し、少しずつ動かせるようになってきた」と調査員の人に報告しました。
そして、介護保険の更新の結果が届きました。結果は「非該当」。つまり、来月から介護保険の対象外になってしまったのです。
この結果により、現在レンタルしている福祉用具は自己負担(10割負担)で借り続けるか、返却しなければなりません。また、訪問リハビリは医療保険に切り替えれば継続可能ですが、デイサービスやヘルパーなどの介護サービスは利用できなくなります。
「頑張れば良くなるんだ。これからも頑張ろう!」
そう思っていた矢先の「非該当」の通知は、あまりにも残酷に思えました。
ケアマネに相談して、介護保険の再申請の検討しているものの、川村さんは悩んでいます。
「前回の認定調査では、できることが増えてきて、嬉しくなって話してしまった。でも、それが非該当の結果につながったのなら、次は“少し大変なふり”をしたほうがいいのでしょうか?」
彼の言葉を聞いて、私は改めて介護保険制度の矛盾を感じました。
努力が報われない現実
介護保険の認定は、調査員が聞き取った情報や本人の状態を基に決まります。しかし、同じような状態でも、 「自分はできる限り頑張りたい」と前向きな人は介護度が低くなる傾向 にあり、逆に 「大変です」「できません」と伝える人のほうが手厚い支援を受けられる ことがあるのです。
実際に、
「認定調査の時は調子が悪くて、たまたま動きが悪くて。」
「歩けるけど、認定調査のときは歩けないふりをしないと。」
「おじいちゃん、調査のときにあんまり動いちゃダメよ」
といった本人や家族の発言を耳にすることもあります。
一方で、リハビリを頑張っている人ほど、介護度が下がりやすく、必要な支援が受けられなくなる現実があるように感じます。
本来、努力している人こそ支援を厚くするべきではないかと思います。
しかし、制度の仕組み上、「頑張らない人のほうが介護サービスを受けやすい」という矛盾が生じています。
「頑張った人が報われる制度」
そんな制度になればいいのに——そう強く思わずにはいられません。
川村さんはこれからもリハビリを続け、より良い生活を目指しています。私は彼の努力を支えられるよう、できる限り訪問リハビリのスタッフとしてサポートをしたいと思っています。
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