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22 訪問リハビリの日常「本当の優しさとは」
「訪問リハビリの日常」は、私の体験をもとにしたフィクションです。登場人物は架空の人物であり、実際の出来事とは異なります。
先日は、佐伯さん(80代 女性)の訪問リハビリに行ってきました。
佐伯さんは3年前に脳梗塞を発症し、現在は旦那様の介護を受けながら生活されています。旦那様はとても優しい方で、佐伯さんの生活を献身的に支えていらっしゃいます。
佐伯さんは右半身に麻痺があり、主に左手で生活をされています。そのため、旦那様が「大変だから」と手助けされる場面が多く見られました。
リハビリを始めた当初は、服を着たり靴を履いたりすることができていました。またサラダなどの簡単な料理をしたり、二階に上がり洗濯物を干すこともできていました。しかし、旦那様が「大変だから。」と佐伯さんが行えることまで、介助してしまっていました。
訪問リハビリに行くようになり少しずつ信頼関係が築けてきた頃、私は旦那様に「できることはご本人にやってもらいましょう。」と促しました。しかし旦那様は「聞き手の右手が動かないんだよ。大変なんですよ。」と言って、変わらず奥様を手伝い続けました。
佐伯さんが好きだった料理も、「大変だからやらなくていいよ、俺がやるよ」と、いつの間にか旦那様がすべて行うようになりました。
1年、2年と経つうちに、佐伯さんは退院直後にはできていたことが、次第にできなくなっていきました。しかし、それは麻痺が悪化したわけでも、加齢による筋力低下が原因でもありません。
原因は「不動(動かさないこと)」による能力の低下でした。
やれないことを手助けするのは必要ですが、必要以上の手助けは、その人の本来持っている能力まで奪ってしまうのです。
旦那様はとても優しい方ですが、本当の優しさとは、できることは本人にやってもらい、できないことを助けることだと、私は考えます。
佐伯さんも、「介護を受けている負い目」があるため、旦那様に強く言えず、ただ「ありがとう」と感謝の言葉を伝えるしかないようでした。しかし、心の中では、自分がどんどんできなくなっていくことに、不安や悲しみを抱えていました。
「優しさ」の裏にあるもの
旦那様も80代。医療職である私たちが「やりすぎると、できることまでできなくなります」とお伝えしても、なかなか受け入れてはもらえませんでした。
現在は、サラダを作ることもなくベッドで横になることが増え、階段で二階に上がることは無くなり、1日中テレビを見て過ごすようになってしまいました。認知機能も徐々に低下してきてしまいました。
以前は、旦那様と一緒に毎日家の周りを散歩していましたが、外を歩くこともできなくなり、最近は車椅子で散歩をするようになりました。
旦那様の優しさが、結果として佐伯さんの能力を奪ってしまったのです。
本当の優しさは、「厳しさ」の裏側にあるのではないかと、リハビリの仕事をしていると、強く感じています。
「楽をさせる優しさ」ではなく、「できることを続けさせる優しさ」—— それが、長い目で見たときに、その人の生活を支えることになるのではないでしょうか。
この話は、私の経験をもとにしたフィクションです。
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