『Tomizo~僕と親方の造園日記』②叶姉妹
親方と僕は、夏の終わりを感じさせる虫の音色を聞きながら、三時のおやつタイムを満喫していた。
家主さまが「頂き物ですけど、どおぞ」と言って出してくれた、見るからに高級そうなキャラメルサンドクッキーと、ブラックコーヒーの相性は格別だった。
そんな時、唐突に親方が僕に聞いてきた。
「ノリゾーは好きな女優さんはいるかぁ??」
「えっ、えっとー、親方は知らないかもしれないですけど…永野芽依ちゃんです」
「ん、なんて?」
いつものように何度か伝えた後、僕はスマホで永野芽依ちゃんの画像を見せた。
「ほぉ、可愛らしい子やのぉ。」
「親方は、やっぱ、吉永小百合さんですか!?」
「ん?いや、わし、叶姉妹。恭子さんも美香さんもどっちも選べんなぁ~」
えっ、親方、ものすごニヤニヤしている。
「もし、本人達に会うたら、美し過ぎて、目が開けられんやろうのぉ」
そう言って、細い目を更に細くして、ほとんど閉じている状態で、遠くを見つめていた親方。
親方が大の叶姉妹ファンだとは意外すぎて言葉がでなかった。
てか、エロじぃさんにしか見えなくなった。
親方は、続けた。
「ノリゾーは、その可愛い子ちゃんに鼻毛が出てたらどう思う?」
「えっ!そんなん見つけたら、もーがっかりですよ。テレビ局スタッフに匿名のクレーム投稿します。ちゃんと細部までチェックと手入れしろー!!芽依ちゃんの可愛いさが鼻毛一本のせいで台無しだろー!(怒)って」
「わしは、テレビ局に乗り込むなぁ、絶対に」
親方の真剣な眼差しに、少し引いた。
「ノリゾー、わしにとってはなぁ、関わる庭すべてが、叶姉妹と同じくらい、美しいもんなんじゃぁ」
僕は、はっとした。
「わしら庭師はなぁ、この庭の、いちばぁん端から端まで、隅の隅まで、一つも妥協することなく、美しさを追求して作っとるんじぁ。
この縁側から見て、すべての木、すべての石、すべての草花、とにかくすべてじゃ。
その角度、深さ、全体からみた位置、それがこの大自然と調和して、
自然と心から美しいと思えるものを、わしら庭師は昔も今も追求しとるんじゃ。
その完璧な美しさの空間にじゃ、草が一本生えとる。
その状況は、わしにとってはなぁ、叶姉妹に鼻毛が一本出とるのと同じくらい、悔しいことなんじゃぁ。
分かるか?ノリゾー」
「はい、分かります」
そう言えば、親方は、剪定後の掃除と草取りは、若手の僕だけにやらせず、自ら率先してやろうとする。
しかも、その仕上がりは、とても丁寧で、美しい。
親方は続けた
「落ち葉1枚、草一本もない仕上がりが理想じゃが、それじゃぁ時間がいくらあっても足らんからのぉ。わしでも、無理じゃぁ」
この言葉を聞いて、僕は少しホッとした。
「それでも一度、自分の納得いくまでこの庭の美しさを追求してみるといいぞぉ。木の一本一本が、、、ば、ば、ば、、、」
「映える、ですか?」
「おー、そうそう、今の若者はそういうんじゃろ?映える!叶姉妹は、わしにとってはいつも映えとる」
なんか、ちょっと使い方違うなと思いつつ、重い腰をあげて、二人で最後の仕上げ作業にとりかかった。
僕は、親方の言葉を聞いて、やってみたくなった。
納得のいくまで、美しさを追求してみようかと。
数時間後、庭木の剪定と草取り、そして掃除が無事終了した。
僕は最後にお庭全体を見回した。
何度も見ていたこのお庭が、明らかに、以前とは違う空気に包まれていた。
木々の一本一本、草花の一本一本が、、、映えている!!!すごく!映えている!!
隣にいた親方が、僕に満面の笑みで、親指グーサインをしてくれた。
秋を感じる風が吹いた。
親方の左鼻から出ていた、数本の鼻毛が爽やかに揺れていた。
今度、親方に、電動の鼻毛カッターをプレゼントしようと心に決めた。
後日、お茶請けに出された「キャラメルサンドクッキー」が美味しすぎて、ネットで調べてみたら、
叶姉妹お勧めの高級菓子だった!
ガッテン!!!
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