謎解きミステリーのようなノンフィクション「ある行旅死亡人の物語」
ブックオフで並んだ古本の背表紙を何となく眺めていて、目についた1冊の本があった。「ある行旅死亡人の物語」。2020年4月に兵庫県尼崎市で孤独死した老女。40年もそのアパートに住んでいたというのに、住民票がない。そして死亡後に部屋から発見された3400万円もの大金。共同通信社の記者2人の取材から書き起こされた単行本がこの本だ。
なぜ大金を持っていたのに、こんな粗末な6畳のアパート暮らしをしていた?どうして親族とも連絡を断ち、周囲ともほぼ交流を持たなかった?工場に勤務していた時に、右手の全部の指を失う労災に遭いながら保険の支給も断ってしまったのはなぜ?年金の支給も受けず、干支一回りも生年をサバ読んでいたのはどうして?保険証もなしに病院にもほとんどかかっていない。40年も同じ場所に暮らしながら、その老女のことを知る人もいない。馴染みの店もない。
部屋に残されていた、アルバムの中の老女の若い頃と思われる写真。おしゃれで美しい人だった。目元に色気があり、聡明そうな雰囲気を漂わせている。アパートの賃貸契約書には男性の名前があったが、大家も「ずっと一人暮らしだった」と証言している。残された写真の男性が賃貸借契約を結んだ男性なのか?後に判明した親族が戸籍を取り寄せたが、婚姻歴はなかったと言う。
残された大金を遺族に返すため、弁護士や警察による身元調べがなされるが、その時は身元は判明しなかった。2人の新聞記者の粘り強い取材によって本名が判明して親族も見つかるが、結局親族と連絡を絶って世間から身を隠すように暮らしていた理由は分からない。風呂もない粗末な古いアパートに、周囲への警戒心を表すかのような緊急通報アラームと、自分で取り付けたドアチェーン。部屋の3箇所の窓には防犯のためか棒が挟まれていた。
そして大切に保管されていた、星の刻印のロケットペンダント内に残されていた謎の数字、韓国ウォン紙幣。北朝鮮との関係も疑われるが?
広島出身で女学生時代に原爆で被爆していたらしい。被爆の事実を隠すため生年を偽っていたのか?広島から大阪、尼崎と居を移していたが尼崎の古びた風呂無しアパートで一人暮らしをして40年。最終的にその老女の本名も判明し親族も見つかった。遺骨は親族に引き取られ葬られたが、肝心の「一体なにが理由で、その老女は大金を自室に保管したまま周囲との関係を絶って、孤独に暮らしていたのか?」は結局判明しない。
小説ではない、ほんの数年前の実話でルポルタージュなのだけど、読後に「どうして?なぜ?」という疑問が消えない。全く持って、事実は小説より奇なりと言う言い回しそのままの奇妙な話なのだ。自分の本名を隠し、住民票さえ何らかの事情で抹消されている。室内での孤独死だったが、部屋からはカギも見つかっていないと言うのだ。
ブックオフで持ち込んだ不用品の査定を待つ間、ちょっと立ち読みするつもりが展開の面白さに続きが読みたくなり、古本なのに1300円もの金額を出して購入してしまった。で、結局夕方までかかって一気読みしちゃった。最初はネットで公開され話題になったルポだったらしい。あまりにも謎が多すぎるこの「身元不明の老女の孤独死」。なぜ?どうして?と言う疑問が頭の中でぐるぐるしていて全く消えない。記者2人の取材力と筆力には一気に読ませるものがあったが、解明されなかった真相を考えて、今夜はなんだか眠れそうにないわ〜💦
(1/11夜執筆)
↓綺麗なカットガラスの、小ぶりのペンダントライトです。照明を一つ変えるだけで部屋の雰囲気は一変します。あなたのお部屋に是非。