ベルジュラック03/サンテミリオン村歩き#48
https://www.youtube.com/watch?v=PymW7CvAow8
L'Imparfait(8 Rue des Fontaines, 24100 Bergerac)のランチが、あまりにもクオリティが高いので、思わずワインを頼んでしまった。
https://www.facebook.com/imparfaitlesfontaines
お薦めはChateau VARIの白だったのでそれにした。爽やかなソーベニヨン・ブラン主体のワインだった。
「ベルジュラックって白も色々あるのね。このあたりまで来ると、サンテミリオンやポムローヌみたいに"土地のワインは赤だけ!"という基準が緩やかになるの?」
「ベルジュラックのワインの歴史は、リブリヌ地区のワインと同じくらい古い。ローマが辿り着いた頃には葡萄畑は有った」
「ボルドーに移り住んだローマの退役軍事が、ドルドーニュ川を上流して作った畑じゃなかったの? 」
「葡萄の出自が違うんだよ。リブリヌへ行ったときにリグリア人たちの話をしたよな」
「ええ、イタリア半島の西の根元にいた人たちでしょ。中央山塊を越えてドルドーニュ川まで広がったんでしょ?」
「ん。ドルドーニュ川は、ローマの退役軍人たちが入るまで彼にの土地だった。サンテミリオンくらいまではローマの退役軍人たちの開墾が行われたが、それから上流には行かなかった」
「どうして?」
「葡萄の北限だよ。ローマの退役軍人たちが持ち込んだ葡萄は、イベリア半島から持ち込んだものだった。イタリア半島の葡萄よりは寒冷には強かったが、限界がある。それがサンテミリオンくらいだったのかもしれないな」
「なるほどねぇ、でも上流だったベルジュラックではリグリヌ人が植えた葡萄は有ったんだでしょ?」
「ん。彼らの葡萄はアロブロゲス族の葡萄だ。アロブロゲス族の話は憶えているだろ?」
「ローヌ川で葡萄畑を作った人たちね。バルカン半島の左端からやって来た人たち」
「そうだ。アロブロゲス族は、リヨンから大きく右に曲がってレマン湖に向かうローヌ川の左岸ドーフィネ地方が出自だ。同じく右岸ヴィヴァレ山地にはヘルウィ族がいた。どちらも寒冷種の葡萄を栽培していた。
彼らの葡萄をローマ人たちはアロブロジカと呼んでいた。プリウスの『博物誌』の中に『新しいブドウ品種が、ローヌ河沿いにあるアロブロゲス族の首都ヴィエンヌで生まれた』『寒い土地で霜が降りてから熟す色の黒いアロブロジカという』(十四巻十八章)とある。アロブロジカは今のシラーの原型だ。
たとえばだが・・ローヌ川の葡萄はGSMで作られる。グルナッシュ・シラー・ムールベードルだ。この三種の中で寒冷に一番強いのはシラーだ。だからローヌは北へあがるとシラー中心のワインになる」
「なるほどねぇ。そう言われればそうだわ」
「リグリア人たちは、このアロブロゲス族のアロプロジカを携えて中央山塊西側ドルドーニュ川に移植したんだよ。ローマ退役軍人の移植より500年は早かった。彼らはベルジュラック付近で、自分たちが作るワインと北のガリア人が採掘した錫と物々交換していたんだ。それを主に陸路で地中海側に運んでいた。それでもリブリヌに交易所が出来るようになると、早々に此処も利用した。ドルドーニュ川を使ってワインを運んでいたようだ。リブリヌとベルジュラックの間には早くから平和的な通商関係は有ったようだ」
「ドルドーニュ川下流はローマ退役人の地区、上流はリグリヌ人の土地・・という感じ?」
「ん。すべての地域がローマの支配に入るのはカエサルのガリア侵攻以降だ。ボルドーはカエサル軍を抵抗なく受け入れたが、中央山塊を支配していたガリア人/ビトゥリゲス・ウィビスキ族たちは強い抵抗を示した。両者の衝突はかなり激しい戦闘だった。戦いはカエサル/ローマ軍が勝利するが、彼らは定住せずにさっさといなくなっちまう。カエサルの目的は支配地の確保じゃなくて、戦利品の確保だったからな。彼はその資金でローマを我が物にしようとしたからな」
「だから、いなくなっちゃうのね」
「それでも、この辺りはローマ支配下アキテーヌのものにはなった。・・じつは領域があやふやなンだがな。アンジュー帝国時代になってもあやふやなままだったんだがな・・それでもローマの管理下になったことで、ベルジュラックのワインはボルドーをターゲットにした商品へ変わり始めるんだよ。・・ということは何が起きるか?」
「なに?」
「ボルドーで売れやすい商品/セパージュが植えられるようになるんだ。メルローもカベルネ・フランも植えられるようになるんだ」
「え~いまの長~い話は、ベルジュラックに色々なワインが植えられている理由のこと?」
「ん。この経緯が理由の一端だ。すいません長くて」
「でも最初の話だと、この辺りはボルドーで植えられている葡萄の北限を越えていたんでしょ?」
「ん。そのとおり、しかし開発と交配によって、ボルドーで使われる葡萄は500年余りで大きく栽培北限が伸びたんだ。おかげでロアール川辺りでも葡萄畑が出来るようになった」
「ふうん、そんなふうにロアール川のワインに繋がるわけね」
「ん。この新しい耐寒冷種の開発で、マーケットはラ・ロシェルLa Rochelleに移った。一時はボルドーと同じくらいの出荷量を誇ったんだよ。ラ・ロシェルLa Rochelleとオランダ人とロアール川の話は、いずれしよう。いまはペリゴールのワインの話」
「はいはい」
「実は、こうした出自も有ってベルジュラックと呼ばれるワインは、ベルジュラック周辺だけに有るわけではない。かなり広い範囲なんだ。AOCは12ある。
ベルジュラックBergerac/ベルジュラック・ロゼBergerac Rosé/ベルジュラック・セックBergerac Sec/コート・ド・ベルジュラック・ブランCôtes-de-Bergerac Blanc/コート・ド・ベルジュラックCôtes-de-Bergerac/コート・ド・モンラヴェルCôtes de Montravel/モンラヴェルMontravel/オー・モンラヴェルHaut-Montravel/ソーシニャックSaussignac/モンバジャックMonbazillac/ペシャルマンPécharmant/AOCベルジュラックの12だ」
「よくまあツラツラと言えるわね」
「そんなに難しくない。ベルジュラックの基幹はペシャルマン/ソーシニャック/モンバジャックだ。12のAOCはこれに紐ついている。93のコミューンは93あるそうだ。ペシャルマンは赤だ。ソーシニャックは白が主体だが甘口なものが多い。モンバジャックの白も甘口だ」
「いま飲んだ白は甘口ぽく無かったけど・・」
「Chateau VARIは新進の生産者だからな。ヴェルジュラックの白=廉価な白という概念から逃れているんだろう。
実はね。ヴェルジュラックのワイの面白さは、今話したような出自で、ワインを作る葡萄は世界種を多用しているんだが、絶妙に地元種を混ぜてることなんだ。そこにヴェルジュラックは個性をだしている。例えばフェール・セルヴァドゥFer servadouを使う生産者は他の地区にはいない。北スペインにはある。北スペインではマンソワMARCILLACだ」