神々の沈黙
たった一冊の本を遺し、脳溢血で逝ってしまった碩学の徒ジュリアン・ジェインズのことを少し書く。
彼はプリンストン大学で心理学を教えていた。非常に人間味豊かな人で彼を慕う学生は多かったという。
しかし彼がテーマとしていた「神の声」については、あまりにも個性的で戸惑う人も多かったらしい。本書「神々の沈黙」は、そのジュリアン・ジェインズが語り続けた"神"論の集大成である。
ジュリアン・ジェインズは言う。
ヒトは古代において右脳から語りかけられていた。そんな右脳を「神の脳」と呼び、通常生活を管理している左脳を「ヒトの脳」と呼ぶ。彼はこうした状態の脳のことを彼は「二分脳」と呼んでいる。
古代人は、ヒトの脳は左右統合の統合のされ方が、現代人と違った・・
という仮説である。
ジュリアン・ジェインズは本書の中で、古代ギリシャの神との関わり合いを解く。古代ギリシャにおいて、神との出会い・神からの啓示は、ごく普通に有った。これは聖書もそうだ。ヒトは神と、当然のように話していた。
ところが、神々はある時期から突然"沈黙"する。そして、かくも長き"不在"が始まる。
なぜか。
左右の脳が3000年前、何かの理由によって(彼は言語が意識を生み出したためという)突然、統合されてしまった。そのため、分断されていた二つの意識が一つになってしまったからだ。。と彼は説く。
この長き「神の沈黙」が、宗教者にとっては何とも悩ましい問題でもあるわけだが、実はこの「神の沈黙」こそが、ここ3000年のヒトの営みの根底にあって、ヒト全ての行動様式を決めている最も大きな要素になっているのではないかと、僕はひそかに思っているのです。
ジュリアン・ジェインズは、そンな風に思っている僕の背中を本書で押してくれている。
もちろん仮説である。傍証はヤマのようにある。しかし実証は・・ない。
しかしですねぇ。ウェゲナーだって仮説だったんですよ。アインシュタインの相対性理論だって彼が25歳で発表したときは、実証実験はされていなかった。
関心を持たれたら、ぜひ手にしてみてください。
"神なるもの"に出会える大著です。