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アジアの奇跡の真っただ中を歩いて思ったこと
僕が官制ワンショルダーバックを担いで、環太平洋の米軍基地を渡り歩いてピアノを弾いていた時期。
1970年から1970年代半ばまで・・米軍基地のあるアジア主要国は、大きく経済発展を遂げた。
僕は基地から出て、色々な町を歩くたびに、それを肌で感じていた。
特に地元のプロモーターに頼み込んで、町ばのクラブやホテルで仕事をさせてもらうと、観客の服装や質がどんどんと良くなっていくのを実感した。
アジアの国々は、ベトナムで流れた"血と金"で豊かになっていく・・そう思った。
この時期のアジア経済について見回そうとする者が、必ず手にする本が有る。それは1993年に世界銀行が出したレポート"The East Asian Miracle: Economic Growth and Public Policy"である。邦題は「世界銀行 1994/東アジアの奇跡 経済成長と政府の役割」1994年に発刊されている。
同書は、以降多々発表されたアジアの経済成長についての資料の中でも、全般を網羅し尚かつ詳細な分析がされた貴重なものだが、実はベトナム戦争"効果"については、数行しか書かれていない。
以下引用する。
「同様に重要であると考えられるのは、米軍によるアジアにおける大量の資材の調達が、育ちつつある輸出産業にお誂え向きの市場を提供したということである。日本の産業は、朝鮮半島に駐留していた米軍への資材提供によって大きな後押しを得た。同様に、韓国の巨大コングロマリットは、ベトナム戦争期に米軍に財貨・サービスを販売することによって、その成長の端緒を得た。」(邦訳, p.78)
同書を手にしたとき、僕は猛烈な違和感を感じた。この大著の中で、この程度で良いのか?まさにアジア主要国の経済発展は、あの戦争にオーバーラップし、なおかつあの戦争に関与した国々の中で起きたものなのに。
ちなみに日本国の「経済白書」1968,69,70を見回してみても、この時期の日本の高度成長とベトナムを結びつけた文言はひとつもない。つまり日本においてベトナム特需は公的には存在しなかったのだ。
しかし、日銀は1970年にレポートとして、8か国(韓国、台湾、香港、フィリピン、南ベトナム、タイ、シンガポール、琉球)の南ベトナム向け輸出総額を1965年(2.8億ドル)1969年(13.3億ドル)と算出し、日本国は1965年(400万ドル)1969年(5.1億ドル)に増加したと報告している。
継いで1972年、日本銀行調査局は日本以外の8か国について1965から1971年までの輸出総額96億3900万ドルと算出し、日本国は22億1100万ドルとしている。
また井村喜代子(慶應義塾大学名誉教授)は、著書「ベトナム戦争と高度成長の再現 破線」(1988)の中で、南ベトナムへの輸出に湧いた各国は、工業化のために大量の機械類を日本から購入したと指摘している。この時期、日本国の輸出年平均増加率は19.6%に達し、その輸出増加額の半分以上が米国とベトナム周辺地域だったと書いている。明らかに「ベトナム特需」はあったのだ。
たしかに米国は、ベトナム戦争参与国だけに直接特需を出すようにしていた。したがって日本に直接特需は少ない。しかしベトナム特需を請け、強力に工業化を推し進める各国は、日本に産業機械と半加工原材料を求めた。とくに韓国は顕著だった。米国から韓国へ流れた資金は、相当量機械類・原材料など購入のために日本へ流れたのである。こうした受注を請けることで、日本は1966年以降年間GNP10%以上の成長を遂げたのである。
朝鮮特需が日本に戦後復興をもたらし、ベトナム特需が驚異的な経済成長を日本にもたらした。
この二つの幸運が、すべて米国のアジアにおける軍事行動から間接的に得たものであることは、記憶しておくべきだろう。そして実は。特需は・・1971年8月15日、もうひとつの8月15日より前に始まっていることを・・
ドルは固定され、360円だったことを忘れてはならない。 輸出は・・売ることは、猛烈に儲かる時代だったのだ。
昨今の地方の地場産業の凋落を見ると、僕は日本国が朝鮮特需/ベトナム特需の夢のまま未だ惰眠んでいるよう見えてしかたない。
チャイナからのインバウンドが停まった今、日本はもう一度大きな曲がり角に来ているように思う。目覚めよ。我が孫らのために
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