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僕のパリ: ジャンゴ/アジェ/佐伯米子そして古書たち Kindle版

最近定宿にしているイタリー広場のアパートメントホテルにチェックインした翌日、朝一番。マンホールの写真を撮りにバスで出かけた。
でも「マンホールの写真、撮りに行くぞ」と嫁さんには言わない。何わけわかんないこと言ってンのよ!と言われちゃうから。
「今回は、ちょっと行ったことない辺りを散歩するぞ」って。
で。アパートメントホテルの横にあるバス停から67番Porte de Gentilly行きへ乗った。
終点で降りた。
この辺りはビジネス街だから何もない。不振がる嫁さんを尻目に資料片手に探し回ること30分。あったあった。ビエーヴル川のマンホールだ。早速写真を撮った。思ったよりちっちゃなマンホールだった。
満足そうな僕の顔を見て嫁さんが言った。
「なに、これ。この写真を撮りに来たの?」
「ん。この下に川が流れてるんだ。パリのもう一つの川さ。」
「下水のマンホールでしょ。これ。」
「下水のマンホールでけど、川なんだ。昔は川だった。今は暗渠になっちまったけど。出自はちゃんとした川だ。泰明小学校の横、コリドー街のところにあった外堀川と一緒さ。今は無くなっちゃったけど、実は地下にちゃんと残って流れてるんだ。ビエーヴル川という。その川が流れている・・今は下水道になっちゃったから上に、こういうマンホールが連々と有るんだ。」
「まさか、それ全部撮って歩くわけじゃないでしょ」
あ・・そんなこと言われると、まさかそうですとは言えないから、笑ってごまかした。
「ビエーヴル川は12区と13区の間を流れているんだ。そして最後は、今も相変わらずセーヌ川に注いでいる。古い川さ。」
僕がマンホールを撮って歩かないと分かると、安心してビエーヴル川については全く関心を示さなくなった。バスマップを一心に見ている。
「21番だとシテ島へ行くのね。ランチは向こうね」
ほいほい。ランチね。はいはい向こうね。
ほんとは地下鉄5番のグラシエールGlaciereへ行くつもりだった。
「どうして!」と聞かれたときに「あ・あのマンホールが・・」と言えないので、だまって21番のバスに乗った。でもバスに乗っても僕の頭の中はビエーヴル川のことだけ。ランチを何処へ行って何食べるかは僕の守備範囲外です。
ビエーヴル川La Bievreのビエーヴルというのはビーバーのこと。きっと昔はビーバーがいっぱい居たのかもしれないな・・と思った
このあと行こうと思っていたグラシエールはビエーヴル川の畔に有った村だった。
グラシエールGlaciere・・氷室って名前。面白いだろう。この村の産業は「氷」だったんだ。この辺りはビエーヴル川の寄り添う沼地だった。それが冬になると凍る。その凍った川の水をカットして藁で包んで、地下にストックした。そして夏にこれを氷室から出して商いした。だから村の名前も「氷室/Glaciere」というわけだ。
面白い話なんだけどなぁ~行ってくれないから、しない。

無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました