ジンファンデル種の謎: ジンファンデルは北米西海岸原種ではなかった Kindle版
99%海外からの移民で構成されているアメリカ合衆国民は、自分のルーツ探しが大好きです。以前アフリカ系アメリカ人が、自分の祖先を辿る本/映画が有りましたが、大ヒットしました。ゴーギャンではありませんが「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのかD'où venons-nous ? Que sommes-nous ? Où allons-nous ?」これは、自己のアイデンティティに深くかかわる問題です。
カルフォルニアに居を構えるクロアチア出身のワイン農家マイク・グルギッチMiljenko“Mike”Grgichが、自分の栽培する葡萄・ジンファンデルについて「どこからきたのか?」と強い疑問を持ったのは、いかにもアメリカ人らしい疑問だったのかもしれません。
その頃、ジンファンデルはアメリカ・カルフォルニアの地葡萄だと流布していました。マイク・グルギッチはこれに疑問を持ちました。彼はジンファンデルが、自分と同じクロアチアから来た葡萄だと信じていました。理由は定かではありません。しかし自信はあったようです。
そこでマイク・グルギッチは、大々的な調査をカルフォルニア大UCディヴィス校に依頼します。同校はボルドー大に肩を並べる醸造学の権威あるところです。担当したのはキャロル・メレディスCarole P.Meredith教授で、彼女はチームを組成すると、クロアチアのザグレブ大学の協力を得てアドリア海東海岸の果樹園を丹念に調べあげました。依頼は1996年から始まりました。しかし「らしき」ものは全く見つかりませんでした。
実はかなり早い時期から、様々な文献調査の結果、カルフォルニアのジンファンデルはプラバック・マリPlavac Maliの派生だろうと思われていました。ブラバック・マリは、イタリアのソルタ島で使用されるワイン用の葡萄です。寒冷種で結実が早く多産な葡萄です。味もジンファンデルに近い。
しかしDNA検査法によって、プラバック・マリ=ジンファンデル説は一蹴されてしまいました。プラバック・マリは、"プリビドラッグ"と呼ばれていた東欧種とアドリア海のソルタ島island of Šoltaに自生していた地元種Dobričićとの混成であることが判ってしまったのです。カルフォルニアのジンファンデルには、ソルナ島の葡萄の"血"は混ざっていない。混ざる前の"片親"の子です。プリビドラック直系の子です。
ほとんど暗礁に乗り上げて5年目。とうとうメレディス教授は、カシュテラKastelaという小さな町の果樹園でシェルリェナック・カシュテランスキーCrljenak Kastelanskiを発見しました。これがカルフォルニアにあるジンファンデルとおなじ原種だったのです。Kastelaは、クロアチアで二番目に大きい街スプリットSplitのすぐ北に有る町です。ところで。Crljenak Kastelanskiという名前ですが、"ツェルリェナックCrljenak"は「赤い葡萄」という現地語だそうです。そして"カシュテランスキーKastelanski"は、この葡萄が発見された町カシュテラKastelaから来ていると云います。
発見は2001年、そのときシェルリェナック・カシュテランスキーCrljenak Kastelanskiは、すでにもうたった9本しか残っていなかったのです
=目次=
●はじめに
1-1マーケットの拡大は高級品を生み出す余地を育む
1-2ジンファンデルのルーツ探し
1-3双子姉妹プリミティーヴォ
2-1 ジンファンデル、海を渡る
2-2 ロッキーの向こうに植えられたジンファンデル
3-1 カルフォルニアワインの歴史
3-2 カルフォルニアワインの歴史#02
3-3 20世紀に入ると激変したカルフォルニアワイン
●おわりに