古代美術商としてのクレッセントハウス 〜西洋古美術の魅力〜 <中編>
Q これは中国の古いものですね。
石黒 そうです。中国の隋だと思います。こういうメダリオン、貼り付け模様、これは完全にイランあたりの銅器の打ち出し模様を陶器で真似したものなんです。ですから、唐三彩なんかのこういう貼り付けもようといったものも、こういったものから発展しているし、そういうような意味で面白いですね。イランと中国との交流という意味でこのコレクションに入っているわけです。
ここにあるのは、ガラスのビーズなんですけれども、古代ガラスで、上の段が紀元前2世紀から紀元後1世紀位のアレクサンドリアそれからここの全部がイランの前5百年位のビーズですね。それから、この顔がフェニキア(今のレバノン)ですね。それから、この鷹の頭は、前5、6年のエジプトですね。そして、これらが・フューズドモザイクグラスといって金太郎飴と同じように、向こう側までつながっているんです。それを打つ切りにして、断面にするわけですね
Q銀化は、あまり少ないですね。
石黒 色のついたものは、あまり銀化しないですね。この辺りがローマですね。
Q これはどのくらいの時代なんですか?
石黒 これは、紀元前後、エジプトのアレクサンドリアでしょう。これはどういう手法で作ったか現代の工芸家が見てもわからない様です。亀裂がつながっているんですから。表面を顕微鏡で見ますと、非常に細かく削ってあるんです。研いだんです。ですから分厚いこういうものを合わせて、,周りを最後にツイストのあるガラスでしめているんです。
Q 綺麗ですね
石黒 だから破片でも、いろんな時代いろんな種類のガラスを集めた小さなケースというものは、非常にコレクションとしては面白いですね。
Q これは非常に良い勉強になりますね。この細工は、日本の職人がしたものですか?
石黒 これはみんな、私のところで作りました。(ビーズ等が置かれているコレクションケースのこと。三日月では、アンティークに見立てた家具やコレクションケース等を職人さんに作って頂いていて、レストランクレッセントの方でもダイニングの家具類全てを三日月家具で揃えていました。)
破片でもなんでも、美しく見られるように考えるのは楽しいですよ。例えばこういうビーズでも、一つずつ、こんなことをするとか、木の格好にして、木にこういうふうにとまらせる様にするとか何とかいうふうにして楽しめるわけですね。
Q これは値段それぞれ違うんでしょ。これらのガラスの破片はどのくらいで変えますか?
石黒 こういったビーズは、非常に珍しい種類のものもあるし、普通のものもありますけれども、1個だったら、そんなに高いものでもなくて、うんと良いのでも、2〜3万円とか、そのくらいで買えると思いますね。
Qこれはエジプトのものですか
石黒 エジプト18王朝のレリーフですね。これは、ササーン朝の銅器なんですけれども、こういうところにある毛彫だとか、把手は鳳凰の首になっているんです。そんな様なことが、中国の唐から日本の奈良朝にも関係あるものですね。
Qしかし見るからに美しくできておりますね。
石黒 これは、メキシコなんです。
Q 最近古代メキシコの文化が脚光を浴びてきた様ですね。
石黒 メキシコのプレコロンビアとか、ペルーのインカやプレインカの中には非常に新しい感覚の面白いものがあります。たださっきからお話している様に、私なんかが面白いと思うのは、非常に高い文化の揺藍時代というか、幼稚園の時代のものが非常に面白いんで、インカとかマヤのように、文化があたけれども、急に面白いんで、インカやマヤの様に、文化があったけれども、急に切れてしまったあとは何も続かないというものは、そういった意味では面白さが半減してくるわけなんですね。それだからこういった歴史的な面白さというものは、ちょっと違うわけで、インカやマヤのものとか、これから例えばアフリカとか、オセアニアの土人芸術というのは、やはりプリミティブ・アートで別のジャンルになると思うんです。
Q なるほど
次に、これはガンダーラ、パキスタンの西北方、アフガニスタンとの国境地帯です。ご存知のように、アレクサンダー大王があの辺りをせいふくして引き上げたと考えられているのですが、そのギリシャ人たちが仏教彫刻をはじめるわけです。ですから仏像の一番初期のものはガンダーラのものですね。これは、仏の周囲に並んで彫られた供養者です。きっと右側の方にお釈迦様でしょう。様式化された仏の本体よりも、供養者のほうに非常に面白いものがありますね。
Q 芸術的に非常に高い彫刻ですね。
石黒 それは大変な技術者ですね。ガンダーラの石の断片というものは、相当たくさんあるものなんですけれども、その中でも高度の芸術性を持ったものと、さほど関心しないものがあり、その辺をよく識別してコレクションすることが肝要だと思います。
では今度はこっちの部屋ですが、この部屋はさっきお話したように、主として先史時代のもので、時代的に古いところが主なんです。その中で新しい方から行くとこのあたりは、紀元前千年から紀元頃までのイランです。
例えばこの横に掛かっているのはペルセポリスと言って、南部イランのシラツ市のそばに、アケネメス朝(紀元前5世紀頃)の大変に大きな宮殿跡がありますが、その宮殿の断片で、古代ペルシャ芸術の頂点を示す時代のものであると共に、非常に少ないものです。
ペルセポリスには、5、6回行きましたが、実は昨年、偶然アバダナという王様の諸見の間に昇る階段の4段目に、こういう穴のあいた場所を見つけ、それを写真にとって複合写真を作ってみました。ですからこの部分がこの破片です。
Q ぴったり合うみたいですね。
石黒 大体は合うんです。戦争前にヨーロッパのコレクションに入っていたもので、私が収集したものはもう十八年前です。
Q 17、8年前はどのくらいの値段でしたか?
石黒 6、70万だったと思いますが、今もしヨーロッパの市場に出て、どうしても買いたいと思ったら、少なくとも1500万円はするんじゃないかと思います。しかし市場に現れたことは滅多にありませんがね。
小さな蕾 (昭和50年2月発行)より
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