書けん日記:44 ささやかな楽しみと、贅沢
農奴仕事でうっかり傷めて壊してしまった足も、冬を前に次第に癒えて。
されど、もはや晩秋の農閑期――
体は癒えても、おちんぎんを稼ぐ力仕事のあてもないまま……他の仕事を探したり、だめだったり、もらった日雇いに精を出したり。
前回の、高速音読で脳と体に喝をいれつつ、こうして、テキストを書いてみたりの。
そうして、しばらく臥せっていたりで手つかずになっていたままのテキストが、再確認してみたら。すっかりシーズンを外していて戦慄したり……でもやるしかねえ!とキーボードを叩いたり。そして、他の企画のネタに目移りしてみたり。
はい、いつもと変わらない、いつもの不肖です。
そんな不肖、はたから見たら田舎の一軒家で蟄居して不善をなす独居老人そのもののような不肖ですが――こんな自分でも、日々の暮らしの中、それなりの楽しみとか、贅沢を見つけていたり。
今回は、そんな不肖のささやかな贅沢を、こちらで……。
・Meet1 味噌
T氏「……贅沢の話題で、初っぱなから味噌とか。まっ、貧しいざます(永野のりこ先生風)」
不肖「ししし、失敬な。この味噌というやつが。お金払ったら払っただけの価値が、うま味があってですねえ」
T氏「そりゃそうだろうけど。でも、お前の贅沢で味噌、だろぉ?」
不肖「ふっふっふ。三河の、八丁味噌のうま味を知らないとは、これだから海育ちは。――まずは、こちらをご覧ください」
T氏「なんだ、この三河モンの魂が形になったような一膳は。戦国時代か。家康家臣団か」
不肖「いや、これがですねえ。うまいんですよ」
T氏の言葉もごもっともではあるが――
うまいんですよ、美味しいんですよ。この、八丁味噌を乗せただけの白飯。ごはん。めし。炊きたてのごはんを、ジャーで冷ました白めし。その上に、匙ですくった八丁味噌をひとのせ。
この八丁味噌、ブランド、製品はいろいろありますが。不肖のお気に入りはこちら。
岡崎城のお膝元、まさしく八丁味噌の「まるや八丁味噌」さんの「ゴールド赤だし」。
純粋な八丁味噌ではありませんが、擦り、ブレンド、風味、すべてのハーモニーが三河ものの私だけではなく万人に刺さることでしょう、そんな逸品の味噌。
この味噌は、お味噌汁はもちろん、炒め物、お肉や野菜に塗るだけのシンプルな使い方でも風味は絶品。ですが……個人的に、一番美味しい、お気に入りの食べ方が、こちら。
炊きたてのごはんではなく、ジャーやおひつでちょっと冷めた「めし」。その上に、お好みの量の八丁味噌を乗っけて、あとはお箸で味噌をほぐしてめしに乗っけながら。
あとは、アウンあうんと。めしを口にかっこんで、がつがつと。味噌の塩味、そしてうま味が、めしを咀嚼する甘みと一緒になって、ごきゅごきゅ、嚥下される……この、類のない快感、美食。
一合くらいのめしは、あっというまに胃の腑に落ちてしまう。
いろんな味噌を、各社の八丁味噌を試してみましたが、不肖のベストフィットはこの「ゴールド赤だし」でした。
みなさまも、機会がありましたらぜひ……。
・Meet2 カップめん
T氏「ぜいたくの ほうそくが みだれる なんだよ、味噌の次がカップめんて」
不肖「ふっふっふ。カップラーメンも、各社、様々の製品が――中には売り切れ必須の人気な高額カップめんもありますが。この度、この不肖がご紹介しますのは、こちら」
九州は佐賀県の「サンポー食品」さんの、カップラーメン。
九州豚骨系のフレーバーのカップラーメンが多いのですが、こちら、イメージに反して食べてみると――よくある、豚骨の臭み、それがすべてうま味に昇華された絶品のカップラーメンでして。
いろんなシリーズがありますが、今のところどれを食べてもはずれなし。
しかも、お値段も一般的なカップラーメンのそれでリーズナブル。
三河ものの不肖でも、これが地元にある佐賀のみなさんが羨ましくなってしまう、そんなイチオシのカップめんです。
――中でも。
サンポー食品さんが、驚安の殿堂ことドン・キホーテさんとコラボしたこちらの商品――
『くさいけどうまい ――九州人もうなる 納得のくさ豚骨』 こちら。
コラボのときに偶然、こちらを興味本位で買って。家で作ってみたら……。
カップの中にいれる、粉末スープの袋を開けた時点で「 うえップゥぼあ 」とくる、猛烈な豚骨臭が。正直、買ってきたことを後悔するレベルの臭気のそれに、あきらめ気分で熱湯を注いで……3分。
すると――
仕上がったスープは、あの粉末からは想像もできないほどの、かぐわしい、胃の腑をねじる豚骨の芳醇な香りが。専門の豚骨系ラーメン屋さんでも、この領域に達するのは並大抵ではない……と思わせる、まさに芳醇、濃厚、食欲に火を付ける貪欲なまでの豚のうま味香。
そして太目の麺も、そのスープに良く絡んで……絶品。
なんで、もっとたくさん買いだめしておかなかったんだ自分ッ! と後悔してしまうほどの逸品。惜しむらくは期間限定らしきコラボ商品なので、残念ながら今は手に入らないのです……。
ドン・キホーテさん、サンポー食品さん…… チラッチラッ
・Meet3 煙草
煙草。東京時代、若輩だった不肖にいろんなことを教えてくれた恩人の先生が、大人のたしなみ方を教えてくれた嗜好品、そのひとつの煙草。
もう何十年も前から、ときおり、飲酒したときやテキスト作業でくたびれたときなどに、手を伸ばして――不肖が紫煙をくゆらせるのは、いわゆるスロースモーキング。
葉巻やシガリロ、パイプのような肺に入れない喫煙で煙を、そしてアルコールやカフェインより、遥かに強力でキックのある危険なニコチンを舌と鼻に染み込ませて陶酔する……そんな。
1ヶ月で、おそらく10本も喫煙しない不肖の煙草。
数十年の、不肖の煙草経歴。それも最近は、こちらの――
手巻き煙草。往年のアメリカ映画、西部劇とかでたまに出てくる、あれ。
昔は私も、気取って、切り抜いた辞書とかの紙で、ひとつまみの煙草を巻いてツバで濡らして……というのを何度か試しましたが。
はい、ことごとく失敗しまして。
いまは、専用のローラーにフィルター、巻紙をセットして。そこに適量の煙草の葉を詰め込んで。くるくるっと……意外と簡単にできあがり。
以前は、フィルターなど軟弱ゥ、とそのまま巻いていたのですが――
それだと。両切り状態だと、葉っぱが口に入って舌について、それを指でつまんで取りながらの喫煙に……。
イタリアンなマフィアの彼らなら、その仕草もセクシーでしょうけれど……不肖がやっても、ただの不審者。
しかも、両切り状態で煙草をすっていると……フィルターのない煙草が燃えて短くなってくると。
煙草をつまんでいる指が熱くって、吸い切る前に火を消すはめになってしまって。もったいない。
……これが、イタリアンなマフィアたちの強キャラ、親父世代のごつい手指、分厚い背中のおっさんたちなら、指に挟んだ煙草が燃えきるまで、一息ですったりすると絵になるよナァ、などと思いつつ。
そして、ふと気づく不肖。
……フィルター入れておけば、熱くなってきたあたりで火を消せば、煙草の葉は吸いきってね? 煙草の葉が無駄にならなくね? と気づいて――それからはフィルター派です。
そんな、ゆるくてぬるい不肖の煙草趣味ですが――
もう一つのお気に入りが「アメリカンスピリット」。
それのペリック、いわゆる黒スピ。
ペリック葉、味噌やワインのように発酵、熟成させた煙草葉を使ったこの煙草は……残念なことに、生産終了となってしまいまして。
このペリック葉は、熟成で風味が増し、甘い独特の香りが際立ってくるのですが――そのぶん、生産にも管理保存にもコストがかかるため、どこのメーカーでも生産をやめてしまっているらしく。
しかも、その流れは世界的で……フランスの有名なゴロワーズ、ジタン。それらも、ペリック葉をつかったシリーズは生産中止、しかも最近の時流で、ブランドそのものもなくなるというせつない話が……。
それを知ってしまった、以前の不肖は。
いきつけの煙草屋さんにあった、黒スピのカートンをひと包み、購入。
……そして――
このキャラメルをむく、その思い切りがないまま。
「なにかいいことあったら」あるいは「もはやこれまで」な気分になったらこれを開けよう、と思いながら。良し悪し、そのどちらもないまま今に至っております……。
・Meet4 コストコのガソリン
言わずとしれた、会員型大型倉庫店。コストコ。
不肖が、ときおりT氏の事務所に、名古屋に車でお邪魔をして――
その帰路が、まだ夕刻などのとき。
……ちょっと、贅沢しちゃおうかなあ、と。ハンドルが向いてしまうことがある、コストコ。
その贅沢、は――
コストコの構内で、不肖は。
精肉コーナーの、高品質大ボリュームのカナダ産豚肉、アメリカンなチョイスビーフ、そして海産物のあれやこれ。そして……。
連想しただけで口内につばが湧いてくる、コストコ・フードコートのリーズナブル&危険物なうまさのホットドッグ、ハンバーガー、ピザ。各種様々、豊富大量の誘惑。
ですが――不肖のコストコ贅沢は、それらではなく。
それは……コストコ併設のガソリンスタンドでいれる、コストコのハイオクガソリン。
このコストコのガソリンは、一般のガソリンスタンドのそれよりリッターで10円から20円安いその価格も魅力的ながら――不肖が、名古屋の帰路についついハイオクを満タンにしたくなる、その贅沢をしたくなるその理由があるのです。
はい。コストコガソリンの、特にハイオクの品質。
これに関しては、気のせい、オカルトだという意見もございますが――
添加物、洗浄剤などの品質が、他社のガソリンスタンドのそれよりコストコのハイオクのほうが上なのでは? と思ってしまうほどに。
私の愛車、もはや15万キロ走らせてしまった農作業用アバルトには、なぜかこのコストコのハイオクガソリンがぴったり、はまるのです。
欧州車は大抵そうですが、ハイオクガソリンしか食わない、私のアバルト。
以前は、ハイオクを入れて走らせても、アバルトのデモムービーにあるようなエンジンの吹け上がりをせず、エンジンブレーキのキレも「まあ、こんなもんか」で。
「あのデモムービーは、そういう専用車両だから」「あれはプロが乗ってるから」と……。
――思っていたのですが。
ある日、コストコのハイオクガソリンをアバルトに食わせてみたら。
帰り道でのエンジンの吹け上がりに !? となってしまった不肖。やべえ、調子こいて踏んでると免許どころか命なくなるわ、これ、と。
松本零士御大の不朽の名作、戦場まんがシリーズ『ザ・コクピット』などで――
大戦末期の日本軍パイロットが、もはや在庫乏しい国産ガソリンの低品質に嘆きつつも、戦い……そして最後の一戦の愛機に、不時着したB-29から回収したアメリカのハイオクガソリンを食わせて出撃、獅子奮迅、というエピソードを思い出してしまう。そんな、アメリカ資本のガソリン。
それ以降、不肖が名古屋にお邪魔して。その帰路に、時間とお財布の余裕があるときは……。
つい、コストコのガソリンスタンドに寄って。ハイオク満タンにして。
エンジンに、インジェクションに新しいハイオクが回ってきた頃合いで――
いつもの帰り道を少し外れて、寄り道して。
昔は、オートバイでやんちゃしていた峠道、ワインディングにアバルトを走らせて。
いつもよりも吹ける、吠えるエンジンの咆哮、タイヤがアスファルトを噛むキック、本来の凶暴さを思い出したようなハンドルを楽しみながら……安全運転で家に帰る。そんな、私の贅沢な時間――
……こうして、思いつくままにつらつらと。
私のささやかな楽しみ、贅沢を並べてみると――そのどれにも共通しているのは。
……安い趣味、まあそれは置いておくとしても。
味噌も、カップめんも、煙草も、ガソリンも、車も。
『選べる』『好きなものを自分で選べる』
という、その選択肢があるゆえの楽しみ、悦楽、贅沢を私は享受しているのだなあ、と。
――この『選べる』というのは、メンタルにはとても重要なことなのだろうな、と。
大昔、東京に登った若輩の不肖が、日雇いのアルバイトで食いつないでいたとき。
大手倉庫で、フォークリフトに轢かれそうになりながら倉庫で担ぎの仕事をしていたときも。
昼食の時間、もらった食券で「カレーライス」か「うどん」が選べる――
それだけで日雇い仲間が、
「今日どっちにする」「昨日カレーだったしなあ」「うどんにして、コロッケは別にして晩酌のあてにするべ」「社員はいいよなあ、食券で定食くえて」
などと、文句たらたらなれど笑いながら食堂に向かっていた光景を思い出す不肖は。
別の日雇いの現場、機械組み立ての某工場では、出される昼食が毎日同じ定食。
その内容は、ベシャベシャのつめたい白米が一皿、オムレツ、を装った卵焼きっぽい何か。もやしの煮付け、柴漬け二切れ。それが毎日……日雇い仲間も、昼食のときはずっと無言で――その現場では、バックレや、日雇いと社員のいざこざも日常茶飯事だったナァ、と思い出し。
この『選べる』という行為、その選択そのものが贅沢なんだなあ、と思う不肖でした。
そして――
この不肖の最大の贅沢、この身に余るほどの栄誉、それが。
こうして、こちらで。これまでのテキスト作品で。
この不肖が書いたテキストを、みなさまに選んで頂いている、という――
この贅沢、栄誉に感謝を いつも、本当にありがとうございます!!
これからも、みなさまに選んでいただけますよう微力を尽くします……!!