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受験生の娘が、志望校の受験日に家にいる理由


今日は、中学3年生の娘が、何ヶ月も前から第一志望としてきた県立高校の受験日です。

受験生活の集大成とも言える大切な日。

当の本人は、会場に向かうことなく、使い込んだテキストやノートを山積みにし、黙々と片付けをしています。

昨日まで、先生や友達を巻き込んで、悩みに悩んでいたのが嘘のような、スッキリとした表情です。

春の嵐から一転、気持ちよく広がる青空を見て、まるで娘の心のようだと思いながら、朝の空気を吸い込みました。

この子が産まれた日も、こんな青空だったな。

「この子の人生を信じよう。この子のためなら、どんな恥をかいたっていい。私が謝ることでこの子を守れるなら、何度だって頭を下げる。」

まだ、へその緒で繋がっている状態の娘を、胸の上で抱きながら、そんな風に感じたことを思い出しました。

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娘が、突然、第一志望の県立ではなく、すでに合格している私立に行こうか迷っていると言い出したのが、受験4日前の夜。

土曜日の21時過ぎ。そろそろ下の子達を寝かしつけようと、ベッドを整えている最中でした。

これまで、学校や塾との面談を重ね、何度聞いても、自宅から徒歩5分の高校に行く。理由は、近いから。

1度も迷うことなく言い続けてきたのに、ここにきて急に「どこまでできるか、自分を試してみたい」という気持ちが湧いてきたと言うのです。

娘が志望する県立高校は、県内でも優秀な学校です。
正直、1年前の成績では、合格は「一か八かの賭け」というくらい、高望みな高校でした。

優秀なのに勉強だけに縛られず、部活や文化活動も活発。生徒たちも高校生活を楽しんでいるように見受けられます。

娘が、突然迷い出した私立高校は、難関国立を目指す進学校。
この学校を選んだならば、朝から晩まで勉強、勉強。大学合格が第一目標となり、恋と友情を謳歌する、青春の高校生活とは縁遠い3年間となることでしょう。

子供が少しでも良い大学に合格してくれたなら、親としては嬉しいし、鼻高々に自慢したい気持ちになると思います。

何より、自分がどこまで出来るか挑戦したいという娘の気持ちを、全力で応援してあげたいです。

ただ、果たして、10代のかけがえのない時間を、勉強一色で過ごすことが、この子の人生にとって幸せなことなのか・・・。

その日は深夜まで話し合い、次の日も、一緒に考え、一旦離れて別々に考え、また二人で話し合う、ということを繰り返しました。

自分はどうしたいのか?どうしたくないのか?
どんな高校生活を送りたいのか?送りたくないのか?
自分にはどんな環境が合っているのか?合ってないのか?
それぞれの学校の進学実績は?校風は?口コミは?
将来は何になりたい?未来から逆算すると?
勉強、部活、友達、遊び、大学、就職・・・。

ネットで調べたり、紙に書き出したりしながら、思いつく限りの方向から話し合いました。

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普段、心理カウンセラーとして活動し、人の心理や話の聞き方など、他のお母さんよりは心得ているつもりです。

ですが、いざ娘のこととなると、思いっきり私情が入り込み、聞く技術など吹っ飛びます。
ただただ、一緒に迷い、悩み、娘の気が済むまで話を聞くことしかできません。

最後は本人が決めるしかない。この子を信じて、ギリギリまで一緒に悩もう。

もし、学校や先生など、迷惑をかけてしまうことがあるならば、ひたすら頭を下げて回ろう。

結論の出ないまま、土曜、日曜と時間が過ぎ、月曜日に学校で先生に相談するということで、悩み疲れたであろう娘を、なんとかベッドに向かわせました。

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まさか、ここに来て、こんな悩みを持つことになるなんて、1年前には考えもしませんでした。

部活を頑張りたいから、通信講座で勉強する。そう言って塾に行くのを拒んだ娘。

なんとか自宅学習を進めてきましたが、授業はだんだん難しくなり、コロナで部活動がなくなり、遅ればせながら、中3の5月に「やっぱり塾に行く」と言い出し、入塾テストを受けました。

塾の先生との電話で、テスト結果を聞いている時は、入塾すら断られるかもしれないと思い、メモを取る指先が硬くなりました。娘に正直に話していいものか、迷うような点数しか取れていませんでした。

入塾後の面談で、志望校を聞かれた時には、口に出すのも恥ずかしく、遠慮がちに高校名を伝えました。大人の対応を心がけつつも、驚きを隠せない先生の表情を、今でもハッキリ覚えています。
まるで、ビリギャルの母になったような気分でした。

どうやら、自分たちが思っている以上に、あの高校に入るのは難しいらしい・・・。

遅れを取り戻すかのように塾に通い、合格安全圏にのぼりつめ、あと数日で受験が終わるというこの時に、志望校変更?今、悩む?

いや、今、悩めてよかった。そう思おう・・・。

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娘は、月曜の朝、教室のドアの前で先生を待ち構え、ホームルームが始まる前に、自分の迷いを伝えたそうです。

いつも遅刻ギリギリの娘が、神妙な面持ちで立っている姿を見て、さぞや先生は驚いたことだろうと、不謹慎にも心の中で苦笑いをしてしまいました。

娘の話を聞いた先生は、他の先生方にも相談してくれて、双方の学校の情報をかき集めてくれました。

娘の気持ちに寄り添い、中立的な立場からアドバイスをしてくれたそうです。

受験前の忙しい中にもかかわらず、休み時間も放課後も、娘のために時間を割いて下さいました。

私も、先生と電話で話しましたが、「いざとなったら、当日の朝、受験欠席という形でも構わないから、後悔のないよう決断して欲しい」とのこと。

子供の未来を最優先してくれる言葉に、受話器を握り締めたまま、何度も頭を下げました。

受験前日、朝から嵐のような風が吹いていました。

娘の決断によっては、願書を取り消しするための手続きで、学校に行くことになるかもしれない。
受験するなら、今夜はトンカツ。明日はお弁当だ。

昨夜の様子からすると、きっと今頃、泣きながら先生と話しているだろうな。

そんなことを想像しながら、暴風の中、買い出しをすませ、娘の帰りを待っていました。

案の定、娘は目を真っ赤に腫らして帰ってきました。
まっすぐ前を向いて歩いてくる姿を見た瞬間、私立に決めたんだな、と思いました。

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その後、担任の先生とお話をしました。

「15歳の子には、重い決断だったと思う。ただ、点数だけで進学先を決める子が多い中、〇〇さんは、しっかり自己分析して、自分と向き合ってこの決断をした。

この1年での成績の伸びは素晴らしく、他の教師も、あの子が一番質問に来たと言っている。

自分の経験や、それぞれの高校に進んだ教え子の話、その高校を卒業した同僚教師の話などを交えて話をさせてもらった。
どちらの高校に行っても、〇〇さんなら大丈夫と伝えた。

今朝、学校に来たときは、ほぼ私立に行くことを決めており、あとは背中を押してもらいだけという印象を受けた。

当日の受験キャンセルなんて、毎年あることだから、学校側のことは気にせずに、この決断をしたことを誇りに思ってもらいたい。」

一言一言、言葉を選ぶように、そう伝えてくれました。

これまでにも、いい学校だな、いい先生だな、と感じてはいましたが、思春期の娘が、中学校の先生方を信頼する理由が、ハッキリわかった気がします。

「今日ね、廊下歩いているとね、何人もの先生が『〇〇ちゃん、がんばれ!』って声を掛けてくれたんだ。」

迷惑をお掛けするというのに、なんてありがたい。

「あなたが1年間、一生懸命頑張って成績を上げてきたから、どんな選択であれ、先生たちが応援してくれるんだと思うよ。」

そう伝えると、小さく「うん」とうなずきました。

この学校で、この先生方に導かれて、3年間の中学校生活を送れたことを本当にありがたく思いました。

こんなに素晴らしい環境に身を置き、こんなに温かく見守られて育った。この子はきっと大丈夫。この子の人生を信じよう。そんなことを思い、感謝の気持ちが溢れてきました。

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カウンセリングをしていると、学生時代、先生に言われた一言が、大人になってからの人間関係や、職業選択に影響を与えている、という方のお話を伺うことも少なくありません。

私自身、中3の時に、担任の先生に言われた言葉をずっと信じ、進路を選んできたようなところがあります。

子供にとって学校は、家庭外で初めて接する小さな社会です。学校という集団生活の中で、先生は、ある意味「目上の人」のシンボルともいえるでしょう。

それゆえ、大人となり社会に出た後、先輩や上司、お客様、メンターといった目上の方と接する際に、本人も気づかぬうちに、子供時代の先生との関係性を重ね合わせてしまう。心理的に、そんなことが起こることもあるのです。

先生を信頼し、また、自分も信頼されていると実感できる環境で、多感な時期を過ごした娘は、きっと社会に出た後も、自分を導いてくれる人を信頼し、良い関係を築いていくことができるだろうな。

台風の様な精神状態を超えて、大きな決断をした娘の未来を、親として心の底から信じようと思える出来事でした。

今日は、これから塾の先生に、進路変更の結果報告です。

他の子供たちが試験を受けている時間帯に、娘と一緒に塾に行ったら、きっと先生方もザワつくことでしょう。

「この子のためなら、どんな恥をかいたっていい。私が謝ることで、この子を守れるなら、何度だって頭を下げる。」

この気持ちに変わりはありませんが、実際には、頭を下げるどころか、この子のお陰で、感謝ばかりを感じる。そんな母親人生を歩ませてもらっています。




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