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ブラックメタラーの青春「ロード・オブ・カオス」

17日、シネマート新宿にて『ロード・オブ・カオス』を観てきた。

ノルウェーのブラックメタル・バンドMayhemのリーダー、ユーロニモスを主人公にした青春映画。

私が「ブラックメタル」を知ったのは確か中学生の頃。Marilyn Mansonを神と崇めていて(腕に”Marilyn Manson"と刻んだりしていた笑)、当時流行りのKornやSlipknotなんかを聴きつつ、もっとヤバイ音楽が知りたい!!と思っていた頃だった。そんな中2病真っ盛りの頃に、ブラックメタルかっけええ!!!とか思っていた人は結構いるんじゃないでしょうか。

ただ、私の場合は「悪魔主義者のバンド」「いくつもの教会に放火した」「メンバーが自殺して、その脳味噌を食べた」といった数々の有名な極悪エピソードを知って興味を持ったクチで、実際に聴いてみると不気味で怖いけど単調でノリづらい音楽だったので特にハマらず、その後高校でGUNS N' ROSESに出逢ってハードロック路線に進むことになっていくのだけど。

まあ、前置きが長くなりましたが、ブラックメタルに関して浅い知識しかない私も、やはり今でも心惹かれる部分があり、公開を楽しみにしてきたのがこの映画。


監督はブラックメタルバンドのドラマーだったジョナス・アカーランド、主演はロリー・カルキン(マコーレー・カルキンの弟!)、そしてヴァル・キルマーの息子ジャック・キルマーも出ている!(ヴァル・キルマー、ジム・モリスン役が神がかっていたので息子が音楽映画に出るというのはなんか嬉しい。)

「実話を元にした創作ストーリー」ではあるけれど、作中で描かれる事件はすべて実際に起きた事件

物語は86年、Mayhemが1stデモアルバムを出した頃から始まる。


主人公ユーロニモスが「ただ毎日邪悪な音楽を聴いて演奏して、この頃は本当に楽しかった」みたいなことを言うのだけど、確かに邪悪な音楽をやっているという点以外は普通の若者で、酒飲んで女と遊んで、Mötley Crüeの青春映画『ザ・ダート』とそんなに変わらない雰囲気。「悪魔っぽく見える?」なんて妹に聴きながら、北欧人らしい薄い金髪を黒髪に染めるところなんかもかわいい。

雲行きが変わってくるのが、1991年、デッドの自殺からだ。デッドはMayhemのフロントマンで、当時ユーロニモスと一緒に暮らしていた。

ユーロニモスはデッドの死体の第一発見者になるのだけど、映画ではかなりショックを受けた様子で、しかしそれを隠すかのようにデッドの死を商業的に利用しようとする。警察に通報する前にまず写真を撮り、骨の一部をアクセサリーにしたのだ。これが未だに語り継がれるMayhemヤバいエピソードになっているので、彼の本心がどこにあったかは今となってはわかりようがないけど、バンドの伝説化には大いに役立ったと言えるだろう。

そして次に、ヴァーグとの出逢い。はじめは本名クリスチャンを名乗り、スラッシュメタラーっぽいジージャンにScorpionsワッペンをつけた普通のメタル青年だった彼。憧れていたユーロニモスに話しかけたら「Scorpions?ニワカかよ」みたいなことを言われて、愛憎混じり合った感情を抱くことに。

で、Scorpionsワッペンを外してゴミ箱に捨て(Scorpions良いバンドなのに!笑)、「ヴァーグ」と名乗るようになった彼は、ユーロニモスに対抗するようにひたすら邪悪な道に進んでいく。彼のバンドこそ、Mayhemと並んで悪名高いブラックメタルバンド、Burzumなのだ・・・!


で、周りを巻き込んで邪悪対決(というより勝手にヴァーグが対抗意識を燃やしてたしてただけでユーロニモスは自主的には何もしてないんだけど)をしていった結果、教会の放火、殺人の肯定、とどんどんエスカレートしていって、ついにヴァーグが逮捕。ユーロニモスが経営していたメタル専門レコード店「ヘルヴェテ」も警察に目をつけられ廃業に追いやられる。何もかもうまく行かなくなってムカついていたユーロニモス、「マジでヴァーグぶっ殺す!死ぬまで拷問して撮影してやる!」と口走ったら、「ユーロニモスがヴァーグに殺害予告!」という噂になってヴァーグ本人にまで届いてしまう。この辺、深刻な話なんだけどちょっとギャグ漫画感があって笑ってしまった。

こうして、ユーロニモスはヴァーグとの縁を切り、悪魔主義ごっこをやめてMeyhemとしての音楽活動に専念しようとしていたのに、噂を信じたヴァーグにメッタ刺しにされて死ぬことになる。

過激化した青春の悲しい最後なのだけど、語り手でもあるユーロニモスは、「俺の死を悲しむな、ポーザーどもめ!」と煽って締める。これはなかなか、死してなお健在!という爽やかささえ感じさせて、いい終わり方だったと思う。

このposer(=ニワカ、偽物、素人)という言葉は映画でのキーワードで、「自分がニワカじゃないことを証明しようとして暴走した若者たち」がテーマと言える。それ自体はそんなに珍しいことじゃなくて、ただ主張がサタニズムだったからこんな悲劇を生むことになってしまった、というのが監督の立場なんだろうな。

これはあくまで映画の話だけど、ユーロニモスは後半、デッドの死体が何度もフラッシュバックして苦しんでいる(このシーンがホラー映画のようで結構怖い)。デッドの死を利用したのも、死に魅了されていたデッドへの彼なりの葬いだったのかもしれない、とも思えた。

「国中の教会に火をつけるんだ!」と煽っていたらそれを行動に移してしまうヴァーグのような男が現れ、一瞬驚くけど「あいつは俺の指示通りに動いたんだ」などと言ってついつい自分の手柄にして自慢してしまい、「ちょっと変な方向に行ってるな」と思いつつも、「ここでひよってposerと思われたくない」「これを利用してMayhemはマジでヤバイと思わせよう」という気持ちが先行したんだろうな。

ヴァーグもヴァーグで、悪魔主義者だと自称しながら北欧神話を信仰しているようなことを言うし、ナチスも大好き。つまりしっかりした思想があるのではなく、なんでも良いから、人々に悪意を振り撒く邪悪なものが大好き、という性格の持ち主として描かれている。

この辺りにはちょっと滑稽さがあってカッコイイとは言い難いので、本気のブラックメタルファンが観たらどう思うのか気になる。特に北欧のガチの人なんて怒らないのかな。まあでも、メンバーの名前自体が「ネクロブッチャー」とか「メシア」とか「マニアック」とか、本人たちは大真面目でもちょっと笑ってしまう中2感があるのは事実だからそういうものなのかも知れない。

しかしそういう意味では、1番本気で本物だったのは(何の本物なのかよく分からないけど)、自殺したデッドだという気がする。彼が始めた白塗り死体風メイク=コープスペイントは死体への純粋な憧れ(死体になりたい!)だと思うし、その愛を人へ向けるのではなく自分へ向けたところも、成功するかしないかはどうでも良かったところも本物感がある。


それからもうひとつ興味深いポイントが、殺しのリアルさ。

映画ではユーロニモスの殺害シーンの他に、Emperorのドラマー・ファウストによる殺人事件の様子が長く描写される。この事件もブラックメタル史で結構有名な事件なので重点的に撮ったのかも知れないけど、この2件の殺害シーンが妙にリアル。人間は数回刺したくらいじゃ死なないんだなと。一度深く刺すと相手は苦しんで命乞いをしてくるが、気にせず刺しまくって、動かなくなったと思ったところで刺してみるとまだ反応があって、だからさらに何度も何度も刺して、それでやっと死ぬ。余程の恨みがないとここまで出来ないな・・・と思わせるシーンで、なんでこんなにリアルに撮ったんだろう、と印象に残った。

あと、個人的に面白かったのは、ヴァーグの「Morbid AngelのTシャツを着ているキッズどもはまとめてガス室にぶち込んでやれ」というセリフ。Morbid Angel 聴いててチャラい奴扱いされるって、どんな世界だよw


ちなみにヴァーグ本人は、Wikipediaによると2009年に21年の刑期を終えて出所していて、映画『ロード・オブ・カオス』に対しては軽蔑の意を表明している、とのこと。まあ自分の描かれ方としては微妙だろうな〜。

ユーロニモスは死人に口なしで、本当はどうだったかなんてもはや誰にも分からないけど、まあそれはそれとして、異色の青春映画、ひとつの時代を描いた映画として面白かった。


★K.ROSE.NANASE★









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