
民泊でコミュ強おばあちゃんと、人生初めての栗おはぎをつくった話|智頭町滞在記⑥
現在私は『遊ぶ広報』のプログラムで、鳥取県智頭町に13泊14日しています。このnoteではそんな遊ぶような旅の記録を残していきます!
滞在の目的・やることはこちら
「みかちゃーん、きしえさんが栗持ってきてくれたけ!」
民泊の朝、『油屋』を切り盛りするふさこさんの声が、3部屋先の私の部屋まで響き渡る。この家では毎日、私が姿を見せるまでふさこさんが「みかちゃーん」と呼び続けるのがお決まりとなっていた。とっくに聞こえている私は、スマホを持ったり身支度を整えたりしてもたもたしている間に、いつも3回ほどふさこさんに名前を呼ばれてしまうのだ。
私は3泊4日、民泊で『油屋』にお世話になっていた。ここには家の主であるふさこさんと旦那さん、そしてネパールとスリランカ出身の留学生5人が暮らしている。
ここで代々麹屋を営んでいたふさこさんは、この辺りでは知らない人はいないほど顔が広い。70年以上この場所に住んでいることに加え、誰とでも話し、誰にでも世話を焼く、現代になぞって言えば「コミュニケーションおばけ」だった。おかげで『油屋』には毎日、近所の人がひっきりなしに訪れては世間話をして、たまに一緒に夕飯を囲む。
近所の人が『油屋』に自由に出入りするように、ふさこさんもいつも自由だった。前の日も、近所の人が遊びに来たというのに「あたしは旦那さん迎えに行ってくるけ」と、私たちを置いて車で家を出てしまうものだから、ふたりで取り残されることもしばしばあった。こんな留守番はしょっちゅうだったし、「これ切って炒めといてくれっか」と、料理途中でどこかへ行ってしまうこともあった。
けれど、それもそれで楽しかったし、ふさこさんも「娘ができたみたいだけ」と、まんまるの目を無邪気に開いて喜んでくれていた。
そんな滞在中のある日、いつも訪れる近所のおばさんからたくさんの栗をいただいた。しかも、すべて皮が剥かれていたのだ。
「栗の皮を剥くの大変だっただろうに、全部やってくれたんだ……」と呟くと、「今日は栗ご飯か栗おはぎにして、近所の人に持っていくけ。どっちがいい?」と、魅力的な選択肢が与えられた。私はおはぎが大好きだった。
「おはぎがいいです!」「うん、わかった。だけん、うちには餅米が無いけ。こうてきて(買ってきて)くれるか?」「わかりました!」ふさこさんは今日、朝から鳥取市内の病院に旦那さんを連れていくそうだ。
木曜の朝、早速夜の楽しみが増えた。

その日は『遊ぶ広報』が主催するアテンドツアーだった。ガイドさんが2名付いて、智頭のまちを歩きながら歴史を学ぶような内容だ。
その途中、お昼頃にふさこさんからLINEが入っていた。
「餅米は買えましたか?」
まだツアー中だから買えないよ!と思いながら、その旨をすこし文体を丁寧にして送る。その様子を見たガイドさんは「もう友だちじゃん!」と笑っていた。
ツアーの最後は、いつもお世話になっている『ちづの農家旬菜屋』だった。
※旬菜屋さんについては滞在記③で書いています!▼
「こんにちは〜」と奥さんと目線を合わせると、棚に置いてあるぶどうの奥に茶色い米袋が目に入った。両手でちょうど抱えられるくらいの、小さなサイズだった。
「これって……もしかして、餅米ですか?」「はい、餅米です!」
なんと、こんな出会いがあるのだろうか。いつもぶどうを買いに行く場所に餅米が置いてあるなんて……!
ことの次第を話すと奥さんは笑顔で「そうですか!ぜひこれで美味しい栗おはぎを作ってください!」と応えてくれた。ツアー最後にして、私のノルマは無事達成されたのだ。

餅米を持って帰ると、ふさこさんはとても喜んでくれた。栗を蒸し器でふかして、餅米を炊飯器で炊く。それらをそれぞれ、好みの大きさまで棒で潰し、栗には砂糖と塩を加える。仕込みはふさこさん、潰すのは私の役割だった。「じょうずね〜、さすが店長!」と、彼女は元居酒屋店長の私を持ち上げた。

材料が整えばあとは、餅米を丸めて栗餡を周りにまぶす。けれどこれがなかなかコツが必要で難しい。
餅米は熱くて、手を水にこまめに浸さないと持てないし、栗餡は栗が粗いと餅米にまとわりつきにくい。そして当たり前だが、おはぎは餅米の周りを餡が覆うのだから、餅米は少しちいさめに丸めないと、特大サイズになってしまう。
あれこれ考えながら、手を茶色くしていると「まあ〜、じょうずね〜!」と彼女はまた褒めてくれた。彼女は人を否定することを絶対にしない。失敗しても「こうすれば大丈夫け」と導いてくれるし、相手の意見にも口を挟まずすべて聞き入れてくれる。本物の「コミュニケーションおばけ」なのだ。
こうしてできあがった栗おはぎを、早速ふさこさんは近所の人に車で配りに行った。私はいつも通り留守番。
どうやら「みかちゃんがつくったけ!」と言ってまわったそうで、お母さんの料理をお手伝いした子どものような心地になる。私もう、今年で28歳なんだけどな。
初めての栗おはぎは、素材の甘い味が引き立ってとても美味しかった。ふさこさんは「これ食べたら、他のは食べられんけ」と言っていたが、本当にその通りだと思う。おはぎはスーパーで簡単に買えるけれど、自分でつくれば粒の大きさも餡の甘さも自分好みにできる。家でもつくってみたいと思った。
食卓には、いつも訪れる近所のおじさんが「中秋の名月やけ」と言って持ってきたわれもこうとススキが飾ってある。秋の訪れと、ひとときの娘に、ふさこさんはまた嬉しそうに栗おはぎを頬張った。
