「もう一軒」行ったら、空前の青森トークが始まった
「もう一軒行く?」と「もう帰る?」の瀬戸際、23時。
一軒目で食べた本日のお目当て・ブリしゃぶが(相手的に)満足じゃなかったらしい。「二軒目が空いてなかったら帰ろう」という妥協案の末、歩くこと3分。たどり着いた先は、入り口の狭いこぢんまりしたバーだった。
中に入ると、バーと向かい合わせのカウンターが4席、テーブルが2、3席。女性社員とアルバイト2人で店を切り盛りしていた。カウンターには1名の中年男性。テーブルでもスーツ姿のグループが談笑していた。どうやら全員常連さんっぽい。店員との会話を聞くとまるで「ホーム」のようだった。
たまたまこの地に訪れただけのアウェイな私たちは、入り口にいちばん近いカウンター席についた。1、2杯サクッと飲めればいいや。そう思って私はおすすめの麦焼酎を水割りでいただく。
まさかこの後、終電を忘れてみんなで語り合うことになるとは微塵も思わずに。
年の離れた飲み友だちと会うのは3回目。お互いの情報は一通り頭に入っている。私がフリーライターを目指していて、ひとり旅が好きなことはすでに知っているうえで、友だちはこんな質問をしてくれた。
「いろいろな拠点で働くっていいよね。どこで働きたいとかあるの?」
特に決まったところはなかったが、来年の夏は東北に2週間ほど滞在したいと思っている。特に青森のねぶた祭りは毎年の楽しみなので、来年は八戸や五所川原など行ったことないところも巡りたい。そんな風に答えた。
「えっ、青森行くんですか?私青森出身ですよ!」
声の主は若い女性。隣の隣の隣に目を向けると、黒髪ショートカットの女性がこちらを向いて明るく話しかけていた。
「そうなんですか!私毎年行ってます!」
「ええ、青森何もないのに(笑)」
空前の青森トークに興奮気味の私たち。そこに「田舎何もないですよね、やっぱ東京がいいですよ」と長野出身の友だちが加わる。「栃木も何もないからな〜」と、間に座る常連さんも入り、4人でのトークが始まった。
青森熱は冷めず、「来るときうち泊めますよ!」と言われてその場でLINEを交換した。彼女は私の1歳下で、母校の大学で先生をしているそうだ。このバーの元アルバイトで、今でもよく飲みに来るのだとか。
ライターをしていると伝えると、「さっきのアルバイト紹介したかった!」と悔しがっていた。どうやら辞書の出版社に勤めているらしい。それは私も会いたかった。
帰りがけ、「ほんといい店なので、また来てください!」と、お酒も後押しした笑顔と勢いで言われた。こちらも勢いで「うん、また行く!」と返す。片道1時間かかるとか、そういう現実的なことはひとまず置いといて。
彼女は律儀にも、私たちが帰った後に「ありがとうございました!」とLINEをくれた。LINE交換は決して「酒の場のノリ」じゃなかったところがまた、嬉しい。
私は居酒屋に行くときはいつも、同じ場所に行くことが多い。
けれど、こうして縁もゆかりもない場所に飛び込んでみると、日常生活では交わることのない出会いがあったりする。
「気乗りのしない飲み会ほど、行くとチャンスがあるかも」と、企画メシ第6回「脚本の企画」で政池さんがおっしゃっていたように。
これほど行ってよかったと思える「もう一軒」は、今までにない。
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