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夏目漱石が嫉妬した? 木島櫻谷の実験的日本画『寒月』
2022年 京阪神エルマガジン社MOOK「アートなおでかけ」寄稿より
木島櫻谷は、長らく「忘れられた作家」だったが、近年、リバイバルが賑やかしい。その魅力は、有無を言わせぬリアリズム。
師匠の今尾景年は、写生を重視した円山応挙の系譜を受け継ぐ。櫻谷も、どこへ行くにも画帖を持ち歩き描写力を磨いた。
それに加えて「技のデパート」と呼びたくなるほど、櫻谷は幅広いテクニックを駆使した。
絵の具の濃淡だけで量感を表現する「立付」、細やかに筆を走らせたモフモフの「毛描き」。作品『獅子』では、油絵のように重層的に絵具の色を塗り重ねて立体感を描き、『孔雀』は、あえて細部を省略するモダンさで目を引いた。
構図も巧みで、『和楽』では、牛、犬と農民と子供、という盛り込みすぎな要素を、優れた構成力でまとめ上げた。屏風画では「左右一対で描き分ける」というセオリーを超えて、全体で迫力あるパノラマを展開している。
画壇に嫌気が差すほどの賛否両論。その後の櫻谷を追い込んだ
櫻谷はこうしたテクニックを、新しい日本画の創造へと注ぎ込んだ。特にそれが際立つのが『寒月』だ。純白の雪原が月明かりのスポットライトを浴びて広がり、まるで舞台装置のような竹林がドラマチックだ。その竹林は日本画的な様式美で描かれているが、竹の幹は、墨の上に粒子の荒い青の岩絵具を重ねて、油絵風に盛り上げてある。
夏目漱石はこれを見て「写真屋の背景にしたほうが適当」と酷評した。
日本画と西洋画の融合を狙った櫻谷の表現に、拒絶反応を起こしたのだろう。賛否両論を巻き起こしてしまったこの絵だが、その主人公の狐が、雪の上を足跡を残しながら歩んでいる姿は意味深い。
櫻谷の動物画は、写実を超えて、表情に人間的な感情を滲ませるところに真骨頂がある。狐の鋭い眼差しには、論争も画壇の派閥争いも嫌った櫻谷が、前人未到の画境へと孤独に歩んだ、その闘争心の炎が宿っているように見える。
CMの時間です:このほか、展覧会で見られる櫻谷作品を丁寧解説!全文は「アートなおでかけ」でお読みください!
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