シリコンバレーでの修行が始まる
私はエンジニアではないし、テクノロジーに特に興味があるわけでもなく、シリコンバレーに支社があるテクノロジーのリサーチ会社に就職が決まったのは運のなせるわざだ。ドットコムブームで住んでる場所がたまたまシリコンバレーに近かったし大量に資金が投入されているドットコム系の会社の求人が多かったので就職先として狙ってはいたけれどまさかテクノロジー専門のリサーチ会社で働くことになるとは思っていなかった。
テクノロジーの知識がものすごく低い段階での就職だったので、超特急で知識を身に付けなければならなかった。そもそもC言語って何?なんでAやB言語はやらないの?と真顔で元エンジニアの夫の書棚を見て質問していたレベルでこんなところに来てしまった。職場にはもとエンジニアやテック企業でマーケや商品開発にかかわっていた人たちがごろごろいる。エンジニアからITアナリストという流れでそこにMBAつけてという経歴の人が主流だった。PhDの所持者も少なくない。
毎日が修行だった。私の頭はぐるぐる回り始めしだいにパンク状態になっていった。それでなくてもよくわからないテクノロジー業界なのに専門用語がバンバン出てきて日常の社内コミュニケーションでも大変な思いをする。担当している業界はエンジニアでなくても比較的理解しやすい業界だったが、ほぼゼロからのスタートなので学ぶことは山積み。テクノロジーの仕組みを理解するための関連の書籍を買ってみるなど努力もした。でも勉強しようと思っても、基本的にあまり興味がないので読んでてもすぐに意識がどこかに飛んでしまう。
ベンダーブリーフィングと呼ばれるテクノロジー企業のプレゼンに参加するのが何よりも苦痛だった。企業は自分たちが開発している商品や今後の戦略についてプレゼンするものだ。テクノロジーが好きな人ならトップ企業の機密に触てまだ市場に出ていない商品やサービスを事前に知ることができるのは最高に楽しいことだと思う。でも私にとってはわけのわからない(テクノロジーの)内容のプレゼンされて何か質問されたらどうしよう常に恐怖に怯える場所だった。
今でこそブリーフィングはオンラインで行われるが当時は100%面と向かって行われた。シリコンバレーにある会社へは先方へ出向いてのブリーフィング。遠方にある会社の場合はうちの会社の会議室で行われる。はるばるアジアの諸国からブリーフィングのためにテクノロジー企業が訪問してくることも少なくなかった。
一番最初に面接してくれた御茶ノ水博士はこの業界では著名な人だった。組織的には直属の上司であるCさんのボスで、うちの大きな部署のトップという位置づけだった。彼はどんなブリーフィングでも勉強になるからといって私を連れて行ってくれた。ありがたかったけど、これがまた特に恐ろしかった。
彼が連れて行ってくれるブリーフィングはエグゼクティブブリーフィングといってテック企業のエクゼクティブチームが直接プレゼンするものだった。テックおんちの私でも知っているような有名企業のエクゼクティブたちがずらっと並んで今後の戦略などをプレゼンする。はっきり言ってプレゼンの内容は90%理解できなかった。たいてい密室で少人数で行われるもので、エグゼクティブたちは御茶ノ水博士のコメントを一生懸命メモしている。わーホントにすごい人なんだなーと感動しつつ、すごく自分が場違いのところにいるんだなとひしひしと感じた。
この場違い感はずいぶん長く勤めている今でも残っている(現在も同じ会社に勤務)。運と度胸でここまできたけれど、テクノロジー業界は私が本当に所属するべき場所ではないのだ。今では驚くべきことにテクノロジーの専門家として大手のメディアからインタビューを求められることも多い。でもそのたびに心のどこかで私に聞いちゃっていいの?という気持ちがある。そのため自分の談話が載っているインタビュー記事や映像は基本的に見ない、とうか見たくない(うちのPRチームがメディアカバレージのレポートをリンクと一緒に送ってくる)。まるで違う自分がしゃべっているかのようなこそばゆい気持ちになるのだ。
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