『最低の生活』と『引き出し』
人によって『最低の生活』の水準は違うだろう。だけど、漠然とお金がない状態を認識していると、いつもお金や生活の不安が付きまとう。
11月から活動時間を制限して売り上げが下がったと言うと、周りの人は「それで大丈夫なの?」と不安げな顔を見せる。正直、生活をするのにギリギリではあるが、当の本人である私は全くもって不安がない。
その理由は、私にとって『最低の生活』というものが何であるかが見えているからだ。
10代後半。景気の煽りと親の事業の失敗から、私は借金を抱えた。20歳になり、その額はさらに膨れ上がった。最高時では5,000万円にまで上った。
当時、専門学校を中途退学して派遣会社と請負契約。幸いにも、高校時代に培った知識と経験から、本来なら大卒者でしか参画できないプロジェクトに抜擢され、20歳そこそこで月100万近い額を得ることができた。
それでも5,000万円の借金がすぐに消えるわけではなく、毎月収入の半分以上の金額が借金返済に消えた。そんな中で発覚したのが、街金の借金だった。親の名義で契約したものだったが、取り立ては厳しく、頻繁に黒服の男が家に尋ねてきた。
当時、携帯電話が普及し始めて数年が経った頃だったが、主な連絡手段はまだ固定電話が多勢。しょっちゅう取り立て屋から家の電話にかかってきていた。
払っても払っても減らない借金。しまいには、当時借りていたマンションの家賃すら払えない状況になった。
ある日、マンションのオーナーがやってきて
「支払えないなら、近日中に退去してくれ」
と言われた。それまでにも親には、もっと安い家賃のマンションに引っ越そうと説得を試みていたが、何に執着していたのか親は一向に首を縦に振らなかった。
仕方なく派遣の仕事と並行して苦手な水商売でもアルバイトを始め、どうにか事なきを得た。その経験から、私の中での『最低の生活』ラインが定まった。
「家を失うようなことにならなければ、まだ巻き返せる」
そう考えるようになったのだ。
人によって『最低の生活』と感じるラインは異なるだろうが、漠然とした不安を抱えるくらいならば、どんな生活をしたくないのかを明確にしておくことは不安解消に役立つはずだ。
いま、私は以前に比べて売り上げが半分近くまで落ち込んでいるが、それでも不安視はしていない。お金の稼ぎ方は、考え方次第でいくらでも方法が見つかるからだ。
そう考えられる根拠は、自分の経験によるところが大きい。女だからとかいった理由で仕事を選ぶ以外に、私にはできることがたくさんある。そのスキルを駆使すれば、どうにでもなるという自負があるのだ。
経験とスキルは武器になる。自身が思う最低の生活をしたくないならば、引き出しはたくさん持っておくに越したことはない。引き出しが少なければ、選ぶことさえできないからだ。
将来への漠然とした不安を軽減させるには、『最低の生活』のラインを知ることと、自分の引き出しを増やすこと。これだけあれば少なくとも、無用に将来を不安に感じることは減るだろう。