私が買ってくる生花は、花瓶に入れた途端に下を向く。 揃いも揃ってうなだれ、花弁に包まれた中心部を決して私の方へ向けない。落し物を探しているかのように、熱心に下を向き続ける。 もちろん、試行錯誤はした。なるべく机と直角になるように花柄を花瓶に差し込んだり、少し強引に花の頭をぐいと持ち上げてみたり。 でもそんな私の一方的な熱意など少しも興味がないように、彼らはそっぽを向き続ける。 少しムキになって、強めの息を吹きかけてみた。 花柄のそのしなやかさを見せつけるように、数秒だけ小刻み
最後に更新したのが9月だと言うことに、今更気づく。 何をしていたかと思い返すと、年明けに締め切られる新人賞の応募作の執筆、配信番組の立ち上げ企画の準備、本業の仕事、9.11からイラク戦争に到るまでの経緯を調べること、そして英会話。 後半2つは娯楽に近いので無視したとして、執筆とアイデア出しと通常業務で頭がパンパンになっていて、noteの存在をすっかり忘れてしまっていた。 書く練習として始めたはずが、それを放ったらかして面白いことを書こうと呑気に思っている。筋トレや
私のような人間は、「おしゃべり」に向かない。 誰かと話すためにはリズムが重要で、それを乱すと時間を要すし、違和感が生まれる。 そしてリズムを維持すると、思考が足りなくなる。 十分な考えもなく口に出すから、後々冷静になった時に、自分の言動と思考の矛盾に気がつく。 「本来の自分」ではない自分が話していたことになる。 「本来の自分」なんて実はいなくて、全部が自分だと言われるけれど、 正直、十分に思考した自分以外の自分なんて必要ないと思う。 思考を持ったからには十分に思考したいし、自
受ける方ではなく、相談する方。 相談先は主にラジオ。 投稿してみると、読み上げられやすいチャンネルや、取り上げられやすい投稿内容の傾向がわかってくる。 私は出来るだけ「エグい」内容で相談することを心がけている。 パーソナリティの人も喜んで答えてくれるし、「エグい」相談に共感して同じことを悩んでいる人が意外といるから。 と言ってもそんな経験が有り余るほどあるわけではないので、家族関係やセックスの問題に関して多方向から掘り下げながら相談をばら撒いている。 相談し続けて
私がもっと小さかったら うさぎやネズミのように小さかったら この鼓動がいつも通りだと言い張れるでしょう 私がもっと熱かったら 焚き火のような熱さを体内に持っていたなら ガラスの瞳に潤む涙を結露のせいにできるでしょう 人だけが持つ唯一の武器も あなたの前では無力なのです 夜に駆け出し暗闇を探して 遠くにいる星を繋ぎ合わせて あなたの顔を描くことしかできないのです 私はそれで良いのです このままが良いのです あなたに気にしてもらうのも あなたを気にする立場に立つことも
〜みんなの思いを聞かせてくれよ〜 インパクトのあるワードを使って興味を引いたと思ったかい?いや、これはまさに文字通りの訴えなんだ。「これが正しい生き方だ」なんて説教くさい文章を書くつもりはない。ただの愚痴なんだ。“やりたいこと”に縛られた社会現象に嫌気が差している。それが何であれ、“やりたいこと”をやった人を称賛する流れができているから、自分もそっち側の人間になるために時間とお金と労力を使う。前提として言っておくが、それが「良い悪い」の話をしたいんじゃない。むしろしたくな
もうこの先は、君のために悲しむことは終わりだ。 君の写真を見て涙するのも、 懐かしい美しさを思い出して声を洩らすのも、 寝床について眼を枯らし疲れ果てた後に朝を迎えたら、 すべて終わりにする。 最後の夜には、遠い空に繋がる虹の上に立つ君が、 「どうしたの?」といった顔で頭を傾げ、 そのまま二度と振り返らずに向こう側へ走ってしまう、 そんな夢を見るだろう。 君と初めて会った日は、 私の人生の中で一番のサプライズで、 この先もそれは変わらない。 これからは、君がくれたこの幸
答え その多くは もしくはそのすべてが“死”というものであり、 解を得た途端に 過程=生はそれを終わりと成す 心が耐え切れないのは 生きたからである 闇の中 備えるものもなく 恐怖のみを抱えながらも 変化を求め 勇敢に踏み出した一歩が 小さな石ころにつまずき 顔でその地の強靭さを身を以て知った結果である 誰も知りうることがないだろう 私の抱える恐怖を 私の深みを 私の知を 誰も理解できないだろう 私の歩んできた人生の意味を 誰も知ることなしに 終わってしまうのだろう
実家の飼い犬が死んだ。 遠く離れて住む実家の母と妹と11年5ヶ月一緒に暮らしていた。 私が実家を出てから飼った犬だったから、帰省の時に遊ぶくらいの犬だった。 彼女が来てから、母が少し明るくなっていった気がした。 クリーム色の毛をした小型犬で、母に甘やかされて育ったから、家族で一番のわがまま娘だった。 彼女の一生はほとんど家の中で過ごしたから、他の犬や人間とも滅多に合わず、少なくとも社交的ではなかった。 新しい人が家に入ってくると、怯えながらも強がって吠えた。 でも、時々ながら
家事が好きではない妻は、いつも楽をしたがった。 朝に使ったお椀は洗わずにお昼に使い回し、掃除は来客がくる前日に見える場所だけ、洗ったバスタオルはカーテンレールにかけて干した。 家事のやり方に不満はなかった。自分自身、だらしないところがあるし、結婚前はほとんど妻と同じことをして生活していたから。 花粉も落ち着き、暖かさが吹いてきた頃、会社の後輩と飲む約束をした。妻と会いたいというので家に連れて来るつもりだと、妻には1週間前に言っておいた。 妻はいつも通りに、前日に掃除
こんな気持ちは若い頃以来だったかなと、米村は思った。 窓を開けて、外の天気を確認する。 「あー、いい天気だねぇ」 錆びたヤカンに火をかけて、棚からティーバックが入ったを取り出す。隣の一軒家に住む佐々木の妻が旅行のお土産に渡してくれたものだった。箱から一つ、オレンジ色の袋を取り出して、椅子に腰をかけた。ティーバックを湯呑みに入れて、お湯が沸くのをじっと待つ。 「米さーん」 玄関の扉を叩く音が響く。米村が扉を開けると、佐々木の妻がビニール袋を片手に立っていた。 「持って来