【つぶやき】絵本詩集「かぜのえはがき」のこと
小さな喫茶店で、
ひとり、
コーヒーを淹れながら、
仕事の合間に、
絵を描いて、
それを絵はがきにして、
今月のコーヒーはこんなのですって
お知らせを書いて、
ダイレクトメールにして、
お客様に毎月届ける。
17年間そんな事を
していました。
店は小さくて、
コーヒーを淹れる所も、
お客様の席も同じ
小さなひと部屋にあったので、
作業台の隙間で、
絵を描いていました。
絵はがきの大きさは、
だから、
ちょうど良かったのかも
しれません。
ひとりでやっている
小さなお店なのに、
あえてカウンター席を
つくりませんでした。
作らない、
というより
作れない。
そういう喫茶店主でした。
作らないことには、
わけがあり、
作れないことにも、
わけがあり、
そこに、
大切にしたいことが
あったから。
「人と人の輪が、
小さな喫茶店から、
つながり、広がる。」と、
雑誌や記事に
取り上げられるような、
小さくても有名な、
キラキラとしたお店に、
なったのだけれど…
そうではない喫茶店でした。
お客様同士をつながない、
距離感。
人の輪が広がらない、
距離感。
いつもあの人がいるという
常連様感をうまない、
距離感。
人と人とのつながり、
そして輪が広がることは、
とても大切。
生きていく上で、
これがないと困ります。
でも、もうひとつ。
こんにちはってニコッとしたら、
あとは、
お互いの行方不明の時間を
守る。
そこに相手への
大きな深い愛情があって、
それが、あたたかく、
ここではきちんと成立すること。
それもまた、
大きく深い思いやりのひとつ。
だということも、
大切にしたいこと、
貴重なことだと、
思ってきました。
ここだからこそ、
お客様に届けられる愉しみが、
あるはず…と。
それを伝えるのは、
なかなか難しいことでした。
小さな喫茶店が、
届けたかったこと。
あがり症の喫茶店主が、
伝えたかった思い。
それは、作業台の隙間で、
毎月、絵はがきになりました。
絵はがきと一緒に書いて、
しまい込んで隠してあった詩も、
いつの間にか少しだけ、
たまっていました。
届けたいことが、
うまく届かない、
もどかしさ。
「伝え方が悪い」…
確かにそう言われてしまえば
その通りだけれど、
それで片付けられてしまうという
もどかしさ。
そんなことも、
少しずつ、
たまっていました。
ある日、
たまっていた絵はがきと詩を、
思い切って絵本の公募に、
出しました。
落選でした。
まぁ当たり前かぁ、
絵本じゃないのに、
絵本の公募に出したし…
納得の落選。でも、
どこに出したら良いかも
よくわからなくて…
イチカバチカ、
というのは、
こういうことで。
おかげに落選を、
素直に受け止めていた所、
………
本にしてみませんか?と、
拾ってくださる方がいて、
いろんな方々のおかげで、
絵はがき達を、
本というカタチにすることが、
できました。
隠していた詩も、
ようやく絵と一緒に、
なりました。
(もう昨年のことですが)
小さな喫茶店が、
届けられたこと。
届けられなかったこと。
大切なことは、
成績表で◎が付く項目だけでは
ないかもしれない。
人とつながることや、
人の輪に入れるのが◎かもしれない。
けれど、
それが苦手だからこそ持っている、
そのあなたの大きく深い愛情が、
ありがたくてあたたかくて、必要な人も、
どこかにはいるはず。
あなたの中に、
あなたの深くに生きている、
あたたかなもの。
薄っぺらい所で、
暗くガチャガチャしたものの奥に
隠れてしまった、
あたたかな大きな優しさ。
成績表の◎と、
そこにはおさまりきれない
あたたかさや優しさも知っている心。
そこを拾い上げたい…
そして大切にしたい…
大切にしてほしい…。
そんなことを思いながら、
作業台の隙間でかいてきた
絵と詩たち。
新しいどこかの誰かにも、
届いたらいいな…と。
はるのはじまり。
本にしてくださった方々に、
あらためて感謝を込めて。
そして、
これまでのさまざまなご縁と、
これからのご縁に、
感謝を込めて。
2024年立春
…………………………
絵本詩集「かぜのえはがき」
はじまりのページです。
合図がありました
さむい かたい せかいから
首を持ち上げて
今日 抜け出します
さあ ひかりを見よう
今日 わたしは
芽を吹きます
いきるものたちが
はるのきざしを
見つけられるように
いきるものたちの
心が 動き出すように
今日 わたしは
芽を吹きます
あなたの中に
ひかりが生きているから
あなたが
合図に気付くかもしれないから
あなたがまた
ほほ笑むかもしれないから
わたし 芽を吹きます
さむい かたい せかいから
抜け出す 合図です
©️Mifu Sato
(amazon以外のネット、書店さんでも販売して下さっています。)