”社会派”ではなかった劇作家・ペヤンヌマキが杉並区長選挙に挑む岸本さとこのドキュメンタリーを撮る理由
いくつもののぼりが今日も風にはためいている。
「静かな街を壊さないで」というその言葉を幾度も通り過ぎた先に私の家はある。初めて見たのはいつ頃だっただろう。3年くらいは経つだろうか。調べずとも、その横に添えられた「133号線道路延長反対」「測量お断り」という文字を見れば、この南阿佐ヶ谷・成田東区域の住宅街や病院や木々や公園を根こそぎ壊して道路が作られようとしていることはわかる。子どもの通学路やこの辺り一帯の保育園の散歩コースにまでその道路は及んでいた。家こそ対象区域ではなかったもののまるで他人事ではなかった。
「杉並区 都市計画道路」と調べてさらに慄いたのは、133という数字だけではなかったことだ。132号線拡幅計画、有線整備路線227号線の具体化…。西荻に高層ビル、高円寺純情商店街の危機、阿佐ヶ谷北東地区の再開発計画と、「まちづくり」という名で杉並のあらゆる街並みが壊されるかもしれないこと、そして多くの住宅に住む人々が立退の危機に脅かされていることを知った。
杉並に住んで10年、待機児童問題をはじめこれまでもあらゆる区政のやり方に暮らしを翻弄されてきた私がこの問題に関心を寄せるのは自然な流れだった。
だから、昨年の衆院選は一つの光だった。11回目の当選を狙っていた自民党の石原伸晃氏が我が東京8区で敗れた上、比例代表の東京ブロックも惜敗率で及ばず落選したのである。当選したのは吉田はるみ氏だった。“新人”と書かれた文字がとても清々しかった。初めて選挙が面白いと思った。
「政治の話はやめろ」、「選挙の話をするな」という人がいる。それは、「暮らしの話をするな」と言っているようなものだと思う。「税金高いね」とか「近所の児童館つぶれちゃって」とかは日常会話に普通に出るのに不思議な話だ。
私はそれに抗いたい。
総理大臣は選べないが、区長は私たちが選ぶのだ、止めるのだ、と今回の選挙について鼻息荒く調べていると、意外な名前が目に入ってきた。
ペヤンヌマキ。
「ブス会*」主宰の劇作家で演出家の、あのペヤンヌマキさんである。
彼女の創る演劇や脚本映像が好きでこれまで何度も観てきたが、「選挙」に紐付いてその名前を見つけたことに最初は驚いた。検索すると、「○月○日、区長になる女」と題された動画が出てきた。区長選に立候補した岸本さとこ氏に密着し、ドキュメンタリーを撮っていたのである。めちゃくちゃ面白かった。
一人の区民としてそれを撮るに至った理由や思いを知りたいと思った。演劇について書くライターとして私だからこそできることかもしれない、とも思った。
そう思い立ったが吉日、私は今日ペヤンヌマキさんのお家に伺い話を聞いてきた。これぞ、まさに突撃インタビューだ。これからここに書くのは、選挙と創作、それらを含む“暮らし”の話である。
【突撃インタビュー】
ペヤンヌマキが岸本さとこドキュメンタリー「○月○日、区長になる女」を撮る理由
ある日突然ポストに入っていた、「測量」という文字
――早速なのですが、ペヤンヌさんが岸本さとこさんのドキュメンタリーを撮ろうと思ったきっかけを教えてください。
ペヤンヌ:自然豊かなこの場所がとても気に入っていて、ここに住んで20年近く経ちます。そんな中で、3年くらい前かな、初めてポストに「測量」のチラシが入っていたんですね。近所のかかりつけの病院でも「道路計画の反対署名のお願い」というポスターが貼ってあって。その計画が進行されると、病院も私のマンションもこの辺り一帯が立退になるとそこで初めて知って。これは他人事ではないぞ、と調べ始めると、杉並区の悪政がバーっとネットに出てきて。どうやら道路計画・再開発計画も住民の反対を押し切って押し進められようとしていると…。「自分の住まいが奪われる」という身近な危機を感じて初めて区政に興味を持ち始めたんです。それが最初のきっかけでした。その後、1年後の6月に区長選挙があること、そこで区長を変えないとこの計画が進められてしまう、という情報まで辿り着いて…。
――私もそうなのですが、やはり暮らしの危機というのが背景にあったのですね。
ペヤンヌ:そうですね。だから、その区長選にはボランティアでもなんでもいいから何かしらで関わりたいと思っていて情報を追っていたんです。そんな中で「住民思いの杉並区長をつくる会」っていうのが今年の1月に発足されて…。でも問題は、「候補者がいない」ということだったんですね。
――その段階ではまだ岸本さんの名前も挙がっていなかったと。
ペヤンヌ:そう。発足したもののこの段階で候補を探すところからって大丈夫?って正直思ったんですけど(笑)。現職の区長は3期12年やっているし、頼もしい候補がいないと致命的だなと思っていたところに「岸本さとこさんが立候補することになった」とニュースが入ってきて。調べたら、ヨーロッパで市民運動を支えるNGOの仕事を20年やっていた方で、しかも女性で同世代。その段階でかなり気になって4月の決起集会に行ってみたんです。そこで初めてご本人を見て「この人を応援したい」と思って、そこから3日間街宣のビラ配りに行ったんです。
――実際に参加をしてみてどうでしたか?
ペヤンヌ:ご本人とお話する機会もあったので、自分が演劇をつくったり本を書いたりしていることを伝えたら、ボランティアの方の中にも創作をしている人がたくさんいるからクリエイティブチームを立ち上げて外に広がるような動きができたら楽しいよね、出るなら面白い選挙にしたいよね、って仰って。もう大賛成!と思いましたね(笑)。そもそも投票率自体が30%とかの険しい現状なので、そこを上げるところから取り組む、映像とか創作の力を信じて今まで仕事でやってきたことが活かせるなら尚良いなと思ったんです。そこでYouTubeで選挙期間中に密着したドキュメンタリーを発信して、岸本さんの魅力や活動を伝えられたらと。あと、それとは別にもう一つやりたかったのが、選挙後も含めて岸本さん自体のドキュメンタリーを長く撮っていきたいということ。そんなお話をして撮らせてもらうようになったんです。
ドキュメンタリーを撮ってはじめて、余所者ではなくなった気がした
――それはやはり創作を生業とするクリエイターとしても、「この人に迫ると面白いだろうな」という魅力があったということでしょうか?
ペヤンヌ:そうですね。自分の生活を守りたい、区長を変えたい、というのが最初のきっかけだったのが、岸本さんと直接お会いしたらすごく魅力的な方だったので、「この人を撮りたい」という気持ちになってきて…。それはたしかにクリエイターとしての創作欲の芽生えだったと思いますね。岸本さんが区長になられた後に、これまでの悪政をどんな風に正していくのかっていう過程を見たいというのもありました。めちゃくちゃ面白いだろうなと思って。
――ペヤンヌさんの作品を観てきた一人としても、その創作活動との紐付きにはとても関心がありました。
ペヤンヌ:でも、そこには落とし穴もあって。創作欲ということに振りすぎちゃうと、自己顕示欲みたいなものが強く出てしまうので、それはボランティアとしてマズイな、とは常に意識していましたね。選挙を使って選挙に関係のないことを、平たくいうと、自分のやりがいにすり替えちゃうと全然違う方向に暴走しちゃうので。それが恐ろしいところでもあって…。
――なるほど。
ペヤンヌ:でも、そういった形で創作に取り組むことで、新たな出会いや発見がたくさんあったんです。岸本さんに密着するようになって早くも暮らしが変わったというか、自分の生活に地域の人との関わりが初めて生まれたんです。長崎から上京してきた私は、20年住んでも、これまではどこか他所者という感覚があったし、賃貸で近所付き合いもなくやってきて。でも、この133号線に反対する人はすなわちみなさんご近所なわけじゃないですか。だから、気付いたら近所にめちゃくちゃ知り合いができていたっていう…。中でも、森さんという方はとても象徴的な方で。いろんなお話を聞いているうちに家に遊びに行くことになり、お裾分けなんかもしてもらって(笑)。森さんのお宅には75年をかけて育ったすごく立派なメタセコイヤの木があるんですけど、計画が進むとそれもバッサリ切られちゃうんです。
――緑豊かな〜なんてよく言いますが、それは、何年もかけて緑を育んだ場所ということですよね。住宅はもちろん、住民やこの街に訪れる人にとって安らぐ居場所である公園や木々が壊されることもとても気がかりです。
ペヤンヌ:先日、道路計画や再開発に反対する大きなデモがあったんです。高円寺と西荻とここ成田東を起点にそれぞれのチームが出発して、最終的には落ち合うみたいな形で。高円寺のチームには若い方も多く、西荻のチームには商店街のお店の方がたくさんいて。私は自分の暮らしのあるここから出発したんですけど、お年寄りが本当に多く参加をされていて。最高齢で90歳だったかな、その方にも話を聞かせてもらって。一生懸命歩いていらっしゃいましたね。
――よく銭湯に行くんですけど、そこにも本当に多くのご老人がいらっしゃいます。誰にとっても受け入れ難いですが、この街で長く生きてきたお年寄りの住み慣れた家を奪い、慣れない場所に追いやる、ということはとても酷なことだと感じます。
ペヤンヌ:調べれば調べるほどおかしなことが出てきますよね。選挙活動でもしがらみを感じることが多々あります。日本の政治の縮図みたいになっているんですよね。区政で食い止められることや変えられる体制もあるのに…。こんなに生活に関わる選挙ってないなって思いながらドキュメンタリーを撮っています。でも、関わって初めて思いましたけど、選挙って面白いです。今回の特殊なところって岸本さんは無所属で住民の会が立ち上げた候補者ということ。だから、街の人が中心になってやっている。大変なこともありますが、楽しいです。
女性のほとんどいない区議会の傍聴で感じたこと
――岸本さとこさんが当選したら、杉並区初の女性区長ということになります。女性の生きづらさが叫ばれる今、そのこともとても心強いと感じました。街宣で岸本さんが仰った「女性が無理なく長く働ける社会、安心して暮らせる社会、それは誰もが無理のない社会」という言葉がすごく印象に残っています。
ペヤンヌ:女性だからなんでもいいわけではないけれど、実際に区議会の傍聴に行ってみたら、一人を除いて区の職員の幹部は全員男性、もちろん区長も男性、その側近も男性というのが現実の風景にあって…。そんな状況で女性が過ごしやすい社会やその権利を守る区政ができるとはとても思えなかったんですよね。単に女性を推したくてやっているわけじゃなく、理由があって変えたいと思っているんです。
――そうですよね。何かを変えたいと思った時に、これまでのやり方ではそれが叶わないように、人が変わらなければ、区政も国政も世の中も変わらないと私も思います。
ペヤンヌ:今の区政は裕福な人や力を持っている人にしか目がいっていないというか、市井の人々一人一人の暮らしがまるで見えていない気がしていて。でも、政治って弱い立場の人に寄り添うものであるべきだと思うんですよね。現職の区長を悪者にしてディスるとかは良くないと思うけれど、「なんでこんな区政になったんだろう?」っていうことを考えていくと、やっぱり同じ人が同じポストに長くいることってどうしてもしがらみができてきてしまうし、その人や周囲が有利な状況ができてしまうと思うんです。単純に人間の仕組みとして。だから、誰であろうと良くない状態だと思うんですよね。
――選挙や政治に関することを言及したりすると、少なからず煙たがられたり、タブー視される現状が未だにあって。たしか、安保法案強行採決のあたりに「非戦を選ぶ演劇人の会」を取り上げたいとあるメディアに企画を出したらはねられたことがあったんですけど、こういう忖度って本当にあるんだとすごくショックだったんですよね。選挙に関してもきっと山ほどあると思います。このタブー視と投票率の低さや選挙との距離感って絶対無関係じゃないですよね。
ペヤンヌ:私自身、創作活動をやってきた割には「社会派」ではないというか、これまで社会的なお芝居をやってきたわけでもないし、そういった発信もしてこなかったんです。でも、コロナ禍で国に起きていることが悉く酷いことの連続で…。一気に自分の将来が不安になりましたし、それを守ってくれる政治ではないということがとても怖いと感じましたね。諦めずに変えていきたいけど、国政ってなかなか変えるのが難しい。だけど、区長を変えるのは直接投票だからダイレクトに影響する。国単位で言うと話が大きくなってしまったり、接点を見出しにくかったりするけど、目の前の暮らしについてなら誰もが自分事として考えることができるんじゃないかなって…。少なくとも、区政から変えていける状況があれば、国も今よりも少しはよくなるんじゃないかなって。
街宣は演劇に、選挙は劇団に似ている?!
――先日、初めて街宣を最初から最後まで聞いたんです。岸本さとこさんと山本太郎さん、吉田はるみさんの3名がお話をされていて。ものすごく分かりやすく勉強にもなりましたし、何よりめちゃくちゃ面白かったんですよね。
ペヤンヌ:そうなんですよ! 街宣の面白さに気付くとハマりますよね(笑)。候補者も結局会ってみないとわからないじゃないですか。生でみた情報じゃないと選べないんですよね。生身の人間から発せられる情報ってすごいから。その点ではかなり演劇と近い。その人の人柄やバックボーンって体から立ち上がっていくものだから、舞台から発せられる役者さんの情報やエネルギーってやっぱり豊かじゃないですか。それと同じものを感じたというか、今回やってみて、私の中に「演劇好きは選挙にハマる説」が浮上しましたね(笑)。なんか、劇団ともちょっと似てるんですよね。一人の人が立候補して、そこを支えながら共に作る人たちがいて…。それで言うと、山本太郎さんは政治の世界に山本太郎劇団を立ち上げたんだなと感じましたね。
――なるほど、候補者は劇団主宰…。これは、ペヤンヌさんだからこそ聞けるお話ですね。そういう意味でも山本太郎さんの街宣はものすごく面白かったです。なんというか、「仕上がっている!」と感じたし(笑)、一瞬も飽きなかったんです。
ペヤンヌ:誰にでも分かりやすく、国政のこと、世の中のことを解説していらっしゃるんですよね。だから、みんなの政治だと思えるというか…。やっぱり、俳優さんって人に伝えることに長けていらっしゃる。今回の選挙でも応援演説に俳優さんが駆けつけてお話されていましたけど、やっぱり聞かせる力があるんですよね。
――普段ペヤンヌさんがされているお仕事と思いがけないリンクがあったのですね。街宣は演劇に、選挙は劇団に似てるというのはとても面白いお話でした。
ペヤンヌ:私も2010年に「ブス会*」という自分の劇団立ち上げて、都度つくりたい演劇を掲げてきたわけなんですけど、やりたいことをやるだけだと自己満足になっちゃうし、人に観てもらわないと意味がない。だから、制作さんや広報さんの力をお借りして、宣伝にかなり力を入れてきたんですけど、それって、今自分がやっていることとほとんど同じなんですよね。ボランティアに行くと、まずチラシの折り込みからやるんです。これの速さに関してはやっぱり演劇人に叶う者はいない!(笑)。もう効率が違いますからね。
――面白い! 演劇のチラシ折り込み文化にまで通じているとは!
ペヤンヌ:演劇と似ていると思ってはじめたわけではなかったのに、似ていることがたくさんあったのは発見でしたね。最初は創作する立場の人間が権力側についちゃダメだろうという気持ちがあったし、政治と関わる芸術家の方もいるけれど、そことは無縁でいたいと思っていたくらいで。でも、今回のこういうことって権力にすり寄ることではなく、“暮らし”なんだと実感しましたね。社会と演劇が繋がっているという発見もあったし、自分事だということをすごく感じました。
――私は四人姉妹なのですが、うち三人が杉並区民なんです。姉妹の夫も交えて選挙について話したり、友人との会話の話題に出るんですけど、やはり一人一人考えは違って、失望を通り越して諦めている人もいて。誰がなっても一緒だ、という具合に。その気持ちもわからなくないんですけど、極端な話、現状10個ある暮らしのトラブルを15個に増やす可能性のある人と8個に減らす可能性のある人だったらどちらに託したいかという話なんじゃないか、と私は思ったりして。
ペヤンヌ:その暮らしの上で抱えているトラブルの原因が隠されてしまっていることもまた問題なんですよね。岸本さんは市民参加型の政治をやりたい、そのためにどんどん区民に向けた情報開示をやっていくと仰っていて…。区長が変わるだけでなく、仕組みが変わらないと世の中は変わらないし、区長一人でできることは限られているから、杉並区のことをよく知っている方や暮らしの中に問題を抱えている方からの声を集めることで、その案を吸い上げていいものを作っていく。その過程を追うってすごく面白いと思うんです。それが、私が選挙期間だけでなく、岸本さんという人をできるだけ長く撮り続けたいと思った一番の理由なんです。暮らしを守りたい一人の区民としても、面白いものをつくりたい一人の創作人としても。
――とても興味深いお話の数々でした。私も一人の区民として、この町で子どもを育てるいち母親として、そしてフリーライターとして、選挙や政治について考え続けたいと改めて感じました。
インタビューを終えた後、荻窪駅の街宣に向かうペヤンヌさんが活動を通して知り合った森さんという70代の女性を紹介してくれた。あの立派なメタセコイヤの木のあるお家である。
立ち話をしていると、その隣に住む外国人の親子が「hello」と声をかけてくれた。「How do you say nice to meet you in japanese?」という女性の言葉に森さんがからっとした声で「ごきげんよう!」と答えた。私たちはしばらくそこで会話を交わした。選挙の話をした。家族の話をした。今晩の夕飯の話も。「see you soon」と親子が家に入る。木漏れ日のような髪色をした小さな女の子が笑いながら手を振ってくれる。森さんが「カブを漬けたのよ」とペヤンヌさんに小瓶を差し出した。「じゃあ、またね」。みんな、生きている。切られるかもしれないこの木の下で、壊されるかもしれないこの場所で、今日の暮らしを生きている。明日も、明後日も、何年もこの風景がどうか守られてほしい、と思わずにはいられなかった。
杉並区に来てすぐの頃、待機児童問題が深刻でフリーランスの我が家は保育園に入れず、仕事のある日は牛込の姉の家に娘を預けていた。移動費や駐車費で時間とお金の出費がかさみ、働いても働いてもお金は全く手元に残らなかった。
悔しくて、区役所前で行われたデモに参加した。嘆願書も提出した。そうしてようやく入れた認可保育園は在園中に取り壊された。程なくして児童館もなくなった。自分の毎日通っていた場所が跡形も無くなっているその光景を見て思わず泣いてしまった幼い娘の顔を、私は今でも忘れられない。
区に、国に疑問を、怒りを抱かずにいられるわけがなかった。
少しずつ保育園が増え始めた頃から、区は誇らしげに自分たちの手柄であるかのように事あるごとに「待機児童ゼロ!」を表明しているけれど、多分それは、私たちが動いたからだよ。と、私はまだ信じたい。
いくつもののぼりが今日も風にはためいている。
「静かな街を壊さないで」というその言葉を幾度も通り過ぎた先に私の家はある。いつになるだろうか。こののぼりが全ての家から無くなり視界がひらかれ、自分の名前を記した表札の横から「測量お断り」のプレートを外せるようになるのは。晴々しい顔になったこの街の風景が見れらるようになるのは。
それが叶うのなら、なんでもしたい。
だって、ここが私たちの代わりのない、たった一つの“暮らし”なのだ。
ペヤンヌマキさんが手がける岸本さとこドキュメンタリー
最新回「○月○日、区長になる女」#7
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取材・文/丘田ミイ子(ライター・そして杉並区民)