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サステナブル・ブランドに必要な10のデザイン戦略(前半)

NYのファッション工科大学(FIT)では、”起業家のためのサステナビリティデザイン(Sustainable Design Entrepreneurs)”という授業が6年前から提供されている。今年はオンラインでの開催となってしまったが、そのおかげで全米または海外からも授業に参加するブランド創立者や、デザイナー、マーケティングマネージャーなどの社会人が多い。

その内容のごく一部だが、日本のファッションに関わる人達全員に知ってほしいサステナブルデザイン戦略がある。TED's TENという、テキスタイルやファッションデザイナーの為に10個の項目でまとめられたもの。これを、日本や海外のスタートアップや大手企業での取り組みの例と合わせて紹介したい。

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1 – 無駄を最小限に抑えるデザイン

北米では毎年1,200万トンの繊維廃棄物が発生し、1世帯当たり年間約68lbs(31kg)の廃棄物が発生している。

この廃棄物(無駄)を最小限に抑えるために、まずは人々が望まない物を生産しない事、そしてゼロウェイスト(無駄が出ない)のパターンカッティングやリサイクルしやすいデザインを考えるべきだ。

例えば、下記の様なものが考えられる。
• 耐久性のあるテキスタイルを使用する
• テキスタイルのリサイクルや再利用をする
• 複数の使用方法があるプロダクトを作る
• ゼロウェイストのカッティング

この点に取り組んでいる若き研究者達が日本にもいる。Synflxだ。
ファッションのノーベル賞とも言われているGlobal Change Awardというものがあるが、H&M財団(H&M Foundation)が毎年サステナブルなファッションの未来を切り開くアイディアを募集し、受賞アイディアが商業化が出来るように、資金や技術、コネクションなどのサポートを行うもの。そこで、日本人初となる特別賞を若き研究者集団Synflxが受賞した。彼らは、人工知能を使い、生地を無駄なく裁断するパターンメイキングのシステムを開発している。

このSynflxの川崎さんのお話を初めて直接伺った時には興奮したことを覚えているが、12月1日に開催されるWWDの第1回サステナビリティサミットでもお話される。現在オンラインでの申し込み可能なので聞いてほしい。

2- 循環型のデザイン

米国環境保護庁(Environmental Protection Agency)は、米国だけで毎年210億lbs (11,000トン)のポストコンスーマー繊維廃棄物が埋立て地へ運ばれていると推定している。

この生活者からの廃棄物を削減するために、循環型の服のデザインや、ビジネスの在り方をを考慮する事は必須である。

例えば、下記の様なものが考えられる。
• リサイクルやアップサイクル(一度使用されたものに手を加えて新しいアイテムを作る)のデザイン
• 単一の素材を使用する事によりリサイクルしやすくする
• それぞれの素材を分解しやすいデザインにする

服のデザインからビジネスの在り方まで全て循環型のシステムを取り入れている面白い米国企業がある。For Daysというファッションブランドだ。

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販売されているアイテムは、全てオーガニックコットンなどの環境に配慮された素材を使用し、100%リサイクル可能。そして、ユニークな点は商品の下取り(”Swap")制度を取り入れている事。

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カスタマーは、通常通り欲しい商品を選び購入するが、商品価格が2種類記載されている。通常価格と、Swap価格。通常価格は、初めてその商品を購入する際に支払う金額。Swap価格は、着古したFor Daysの商品を返却した場合に支払う金額。

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返却されたアイテムはリサイクルされ、For Daysの新たな商品として販売される。循環型のシステム(Close the loop)が構築されている。

3- 化学的影響を削減するデザイン

アパレル産業は化学工業に続く環境負荷を与えている産業だ。綿などの素材を生産する過程で使う殺虫剤や肥料、染色の際に使う化学薬品など、1アイテムを生産する過程で多くの環境負荷物質を使用している。

環境負荷が高い化学物質を削減するためには、例えば下記の様なものや考えを取り入れる必要がある。

例えば、
• 化学薬品などを使用せず、オーガニックに生産された素材を使用する
• レーザーなどの機械技術を使用し、表面のデザインをつける
• 自然由来の染色

この点において、最近注目されているのが色付きの綿花。少なくとも4000年以上も前から存在していたらしいが、自然にピンクや緑の色がついた綿花が育ったもの。真っ白の綿花は、枯らさないために非常に多くの殺虫剤が使用されるが、色付きの綿花はほとんど必要ない。また、自然に色がついている物なので、この綿花を使用して生産されたアイテムは選択しても色落ちがせず長く着用できる。様々な面でサステナブルな素材だ。

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自然由来の染色に関しては、実は日本が世界をリードしている、と言われている。草木染などは長い歴史があるが、私が好きなFood Textileという、食物廃棄物を使用して素晴らしい染色を実現している企業がある。

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猿田彦珈琲やKAGOMEなどとパートナーシップを結び、今までは廃棄されていたコーヒーの搾りかすや野菜や果物などの食物をもとに、染色を行っている。最近では、コンバースや中川政七商店、BRIEFINGといったブランドも利用してサステナブルでお洒落なアイテムを作っている。

4- エネルギーと水使用量を削減するデザイン

日本では、服の生産過程での水使用量に関してフォーカスが当たる事が多いが、生活者が着用し選択する際や、リサイクルも含めた廃棄後のエネルギーや水使用量も非常に多い。

T-シャツのライフサイクルを例にとると、生産~着用(使用)~廃棄までの全ての過程におけるエネルギー使用量の6割は、着用(使用)している期間に発生するとの事。例えば、洗濯、乾燥、アイロンなど。

そこで、どのようにエネルギーや水使用量を削減するかという例は下記の様なものがある。

生産過程:
• 最小限の水分で育つ植物からなる素材を選択する
• 加工、染色時に水を過剰に吸収しない素材を選択する
• 空気で染色する ("Air-dyeing")
• 消費に近い場所で生産する("ローカライゼーション")

使用過程:
• 洗濯回数を削減できるよう無臭加工などの技術を加える
• 洗濯やアイロンがけなどの際に自然エネルギーを使用する

ここで紹介したいのは、PANGAIAというブランドだ。彼らは、ファッションブランドにして、マテリアルサイエンスの企業だと自らを表現している。PANGAIAは、アパレル業界を地球環境に負荷のない産業にするために誕生した。最新の技術を用いた素材や染色などを使用し、一つ一つのアイテムは全てサステナブルなものになっている。例えば、ブドウを使用したビーガンレザーのスニーカーや、フラワーダウンジャケット、海藻の繊維で作られたスウェットなどがある。私も初期のころに日本の染色メーカーなどへ紹介し、桜で染めたT-シャツなどの生産に関わらせてもらったことがあるが、いつもどんな技術を使ったサステナブルなアイテムが出てくるかワクワクしている。

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そのPANGAIAは、T-シャツなどに特殊なペパーミント加工を施している。そうする事で消臭作用があり、洗濯回数を削減できる。消臭作用を施している服はこれまでにも他社でも生産されていたが、その多くは銀や化学薬品などの自然素材ではない物だった。

5- 環境負荷が低いテクノロジーを利用するデザイン

従来の生産方法にとらわれず、エネルギー消費量を減らし環境負荷を削減するスマートテクノロジーを利用した生産過程に変更する事。

例えば、下記の様なものが一例として考えられる。
• バイオベースの素材や生産工程
• 3Dプリントや3Dニット
•  超音波カッター(Sonic cutting)
•  スマートデバイス(RFIDタグ)
•  デジタルプリント/染色

3Dニットは、ユニクロが島精機のホールガーメント製法で生産し販売しているのでご存知の方も多いと思うが、ここでは米国で人気が高いRothy'sというブランドを例にとって紹介したい。

Roty'sは2016年創業以来、GenZなどの若者を中心としたお洒落に環境に配慮した購買行動をしたい人達の間でとても人気が高い米国ブランド。1分間に100万本のプラスチックボトル水が世界中で購買されていると言われているが、Rothy'sでは現在までに71,309,142本(11月26日2020年現在)のボトルを素材として再生し、シューズやバッグを作っている。


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その生産方法は、中国の工場で3Dニッティングテクロノジーを用いて、ゼロウェイスト(無駄ゼロ)の方法をとっている。3Dニッティングは、糸を完成品の形にして縫っていくので、切れ端が出ない。縫い目も無く、履き心地も良い。まさに、人にも環境にも優しい方法と言える。

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続きは後半で。

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